2023/01/09 06:30 | by Konan | コメント(0)
Vol.177: 3人の副総裁
2023年最初のCRUのひとり言。今年もよろしくお願いします。月2、3回のペースで執筆できればと思います。
今回の話題は、日本の金融・経済をみる上で今年最大のテーマになるであろう日銀総裁問題です。果たして誰が就任するのか?日銀の政策はどう変わるか?
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いつ就任するか
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その前に。黒田総裁の任期は4月8日まで、2人の副総裁の任期は3月19日までと、ずれています。白川前総裁の就任が、当時の国会のねじれの関係で4月9日まで遅れたためです。白川前総裁は「正副総裁が同時に交代する方がスムーズ」として、副総裁と合わせる形で3月19日に(任期前に)退任し、2013年3月20日に黒田体制が発足しました。黒田総裁は一旦白川前総裁の残りの任期を全うした後、4月9日に再任された形となりました。今回、黒田総裁が白川前総裁のように3月19日に退任するか4月8日まで務めるか、現時点では不明です。私は3月20日に正副総裁が揃って仕事を始める方がすっきりして良いと思います。ただ、黒田総裁は白川前総裁の真似を嫌うかもしれません。
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誰が総裁になるか
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予期せぬサプライズはあるかもしれません。ただ、財務省出身の黒田総裁が10年間務め、学界や金融界に有力候補が少ない中、「今回は日銀出身者が総裁に選ばれるだろう」との見方でマスコミや市場関係者は一致しています。私もこれが穏当と思います。
その線上で、3人の副総裁経験者の名前が取り沙汰されています。若い方から、現副総裁の雨宮さん、前副総裁の中曽さん、前々副総裁の山口さんです。雨宮さんは昭和54年入行、中曽さんは53年入行、山口さんは49年入行です。
私は3人とも面識があるのでその印象を記すと、雨宮さんは才気煥発なアイディアマン、東大落語研究会出身のせいか話しも面白く話題も豊富です。中曽さんは温厚な人格者、周囲に敵を作らずコンセンサスで仕事を進めるイメージ。山口さんは豪放磊落で、以前の大蔵官僚のように寝技も得意で気性も激しいタイプにみえます。
金融政策のスタンス面では、白川さんと黒田さんの間に並べると、白川-山口-中曽-雨宮-黒田と思います。山口元副総裁は白川前総裁を支えましたが、白川さんほど杓子定規でない柔軟性も持ち合わせていると思います。ただ黒田総裁の超緩和的な政策との距離はあるように思えます。雨宮副総裁はまさに現在黒田総裁を支えています。中曽前副総裁も黒田総裁を支えましたが、退任後は少し距離を置いているようにみえます。
総裁を決めるのは岸田総理です。本件で岸田総理が気にする政治家は、麻生さん、菅さん、そして茂木さんでしょうか。仮に安倍元総理が生きていればその影響力を無視できず、間違いなく雨宮さんで落ち着いたと思います。今はそうではありません。中曽・山口も選択肢です。ただ、山口さんを選ぶと流石に旧安倍派に喧嘩を売り過ぎているようにも思えます。その意味では、棚から牡丹餅的に中曽さんに落ち着く線もあるかもしれません。難しいのは、次の総裁は間違いなく貧乏くじであること。3人の中で一番やる気を示しているのは山口元副総裁との噂もあります。雨宮、中曽、山口を絞り切れない訳ですが、最後は「現役副総裁が穏当」と雨宮さんが選ばれるというのが、私の読みです。
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何が変わるか
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誰が総裁になるにしても、黒田さん以外になる訳で何かが変わります。しかし、言われているほど変化の余地は大きくないように思います。理由は2つです。
まず、今年の世界経済は落ち込み必至で、欧米のマイナス成長すら懸念されます。その影響は間違いなく日本にも及びます。黒田総裁の政策の修正は必然的に「超緩和」から「普通の緩和」への変更を意味しますが、日本経済に逆風が吹く下でどこまで緩和色を薄めることが出来るか疑問です。言い換えれば「変えたくても変えられない」状況にならないかとの論点です。
もうひとつは、既に話題になっている「アコード」見直しの余地。アコードは2013年1月23日(安倍総理、白川総裁時)に内閣府、財務省、日本銀行の間で出された共同声明を指し、正式名称は「デフレ脱却と持続可能な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」です。この肝は「日本銀行は、物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とする」「上記の物価安定の目標の下、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指す」の2つの文に集約されます。そもそもタイトルの「デフレ脱却」は時代遅れですし、「できるだけ早期」を削除してしまうこともあり得ます。ただ、2%という数字以外に良い数字が見当たらないことも事実で、かと言って数字の無い文章にしてしまうと、アコードを結ぶ意味も失われます。
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そうは言っても
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ただ、昨年12月のサプライズではないですが、何も変わらないことも無いと思います。イールドカーブコントロールのうち、マイナス0.1%部分をゼロ金利に戻すことは十分考えられます。そうなると「10年物ゼロ%±0.5%」も多少切り上げられるかもしれませんし、あるいは、10年物でなく5年物をコントロール対象にすることもあり得ます。
日本の潜在成長率は低く、大分変化してきたとは言え期待インフレ率が高い訳でもありません。そうした状況下では政策金利が低く抑えられることは自然です。ただ、今までの日銀の政策がこれを低過ぎるほど低く抑えてきたことは間違いなく、多少上昇しても日本経済がそれだけで落ち込むこともないように思います。そうしたファインチューニング的な利上げが今年行われるとみています。そうなれば、円相場も多少円高方向に動くでしょうか。
今回はこの辺で。
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