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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2022/10/24 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.170: 日銀金融システムレポート


先週はトラス首相辞任、為替介入、そして中国共産党大会など話題が目白押しでしたね。そうした中で、今回は地味に21日に公表された日銀の金融システムレポートを紹介します。毎年4月、10月と2回公表され、中央銀行の金融システム安定性の評価や課題認識が示されます。旧ひとり言の頃から公表の都度紹介してきました。

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金融システムは安定
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「わが国の金融システムは、全体として安定性を維持していると評価できる」が日銀としての総括判断です。金融システムが不安定化した例として、1990年代の日本やリーマン危機を思い出します。不動産価格や金融商品価格下落が金融機関の自己資本や流動性を蝕み、これが更なる価格下落を呼ぶ悪循環に陥りました。経済も落ち込みました。金融システムレポートでは、現時点で想定されるいくつかのリスク要因とその影響を検討したうえで、「わが国の金融機関は十分な自己資本と流動性を備えている」と判断しています。

一安心ではありますが、以下では日銀が考えたリスク要因とその影響について簡単に触れていきます。

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金融不均衡の蓄積
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「バブルの芽が生まれていないか」との観点です。最近では住宅ローンや不動産業向け貸出が増加し、一見するとかつてのバブル初期を思わせないでもありません。不動産業向け貸出の増加は、大手行による不動産ファンド向け貸出と地域金融機関による中小賃貸業向け貸出の増加が背景で、不動産ファンドには海外投資家の高額取引が絡みます。

オフィス賃料が低下し始めているほか、賃貸業の財務レバレッジが拡大している点が留意点として指摘されています。

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長引くストレス下の国内企業財務
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このところ、輸入物価上昇に伴い原材料調達コストが増加しています。この増分を販売価格へ転嫁することが出来るか否かが、リスク要因として挙げられます。また、新型コロナウイルス感染症拡大以降に純債務が増加した中小企業も、実質無利子融資の返済を迫られます。これに耐え得るか否かもリスク要因です。

レポートの書き振りはとても慎重で行間を読む必要がありますが、”業種にもよるが、企業の中にはこうしたリスクの影響を受け苦境に陥る先もある”、”他方、金融機関側には、この影響に耐え企業を支えていく体力がある”との結論と理解しました。

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海外貸出の金利感応度
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日本以外の先進国中銀は利上げの真っ只中。これが海外貸出の信用度にどのような影響を与えるか。

邦銀の海外貸出ポートフォリオには高レバレッジ先が相応にあり、金利上昇に対する感応度は小さくありません。財務レバレッジが高くなるほど、資金調達コスト上昇に伴い「デフォルト確率が加速度的に増幅される傾向がある」とされます。このため、「高レバレッジ企業に対しては、よりきめ細かい信用リスク管理が必要な局面になっている」と警鐘を鳴らします。

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海外金利上昇に対するストレス耐性
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金利上昇の影響は、海外貸出に限られません。大手行から信用金庫に至るまで、日本の金融機関は海外での有価証券投資を拡大しています。海外での金利上昇が影響を与えないはずはありません。海外金利の上昇は、上記の海外貸出の信用リスクの点に加え、貸出や有価証券投資の利鞘縮小や、有価証券投資の含み損拡大をもたらす可能性があります。

総論としては、「海外市場金利が極端に逆イールド化するというストレス事象に対して、金融機関は全体として、相応のストレス耐性を備えていることが確認される」と結論付け、読者を安心させます。そのうえで、利鞘縮小・含み損拡大が金融機関の収益力を低下させ、「一部の金融機関において、金融仲介機能が低下することも考えられる」とします。

紹介は以上です。冒頭に書いたトラス首相辞任に至る経緯の中で、年金基金への打撃という金融システム、ひいては国民生活に大きな影響を与える事象が注目されました。日本でこうした恐れが無いか監視することが、中央銀行の重要な使命のひとつです。その意味で、金融システムレポートは「地味にスゴイ!」(JDさんがお好きな?!石原さとみさん主演の以前のドラマのタイトルを意識してみました笑)存在であるべきですし、今後も毎回紹介したいと思います。

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