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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2022/05/09 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.152: 日銀金融システムレポート


今回は、公表(4月21日)から少し時間が経ちましたが、旧ひとり言の頃から毎回紹介してきた日銀金融システムレポートを取り上げます。以前は金融庁の金融行政方針が無かったので、日本当局の金融システムに関する認識を知る唯一のものでした。この唯一性は無くなり最近は金融行政方針に注目が集まりますが、行政方針は年1回(最近は8月末)、金融システムレポートは年2回(4月、10月)と頻度が高く、その分析レベルは国際的にみても高いものがあります。なお、日銀はこれとは別途、毎年3月に考査運営方針を公表しますが、そのエッセンスは金融システムレポートに反映されます。

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金融システムは安定
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金融システムの現状について、「国内外の経済・金融面で感染症の影響が続くもとでも、わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している」と評価します。

また、先行きについても、「感染症再拡大と米国長期金利上昇が共に生じて実体経済と国際金融市場が調整する状況を想定しても、わが国の金融システムは、相応の頑健性を備えている」とします。

以上が一般的な評価ですが、これだけでは何ら警鐘を鳴らすことなくレポートが終わってしまいます。もう少し厳しいストレスシナリオを想定し、「仮に、国際金融市場が大幅かつ急速に調整する場合には、金融機関の経営体力が低下して金融仲介機能の円滑な発揮が妨げられ、実体経済の一段の下押し圧力として作用するリスクがある」と指摘します。リーマン危機、あるいは当局の政策対応で本格化が回避されましたが、2020年春のコロナ禍を契機とした急激な国際金融市場の調整が再度起きるイメージです。なお、ウクライナ情勢について、日本の金融システムに及ぼす影響は現時点では限定的との見方ですが、先行きには大きな不確実性があると指摘します。

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3つのリスク
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こうしたリスクに関し、3つの観点から分析を行います。

1. 感染症拡大による国内貸出の信用コストへの影響
2. 国際金融市場の調整など、先行きのグローバルな経済・金融面のショックが、わが国金融機関の海外貸出、有価証券投資、外貨資金調達などに影響を与えるリスク
3. 感染症拡大以前から存在していた脆弱性にかかるリスク

このうち1.については、75万社の個社データを用いて分析します。今回のコロナ禍が与えた打撃は、対面型サービス業とその他で大きく異なります。対面型サービス業は、給付金等の受給や借入れの実行により、売上げ減少の影響を何とか凌いでいます。今後借入れの返済が始まると経営は悪化し、デフォルト率が増加します。ただ、金融機関側の経営を揺るがす事態は回避できるとの見立てです。

2.については、邦銀の海外貸出の内容を外銀と比較します。詳細は省略しますが、邦銀は米国金利や原油価格上昇に対する耐久性が比較的大きい一方、金融環境の広範な悪化に対し脆弱性が大きいことが示されます。また、在米邦銀と在米欧州銀を比較し、邦銀の方が外貨流動性リスクが高いと指摘します。こうした点が、リーマン危機再来シナリオに注意すべき背景と考えられます。

3.については、不動産業向け貸出のリスクを再点検します。人口減少、インバウンド消費減少、海外投資ファンドからの資金流入の変動、などの影響が点検されます。深刻なリスクとまではみていないようですが、「注意は怠れない」感じでしょうか。

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長い目で見て
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長期的な視点でみると、「低金利環境や構造要因が、金融機関収益の下押し圧力として長期にわたり作用し続け、金融仲介機能が停滞方向に向うリスクや、逆に、利回り追求行動などに起因し、金融システム面の脆弱性が高まる可能性がある点に、引き続き留意していく必要がある」とします。目先のリスクを凌げたとしても、地域金融機関中心に長期的に生き残ることが可能か、問われ続けることになると思います。

日銀としては、「人口減少や高齢化が進むなか、デジタル・トランスフォーメーションや気候変動などの経済や社会を取り巻く環境が大きく変化」しているわが国において、「経営体力とリスクテイクのバランスを確保し、金融仲介機能を円滑に発揮していく」ことを金融機関に求めています。

金融機関からは、かねてより「日銀の政策により苦しめられている」との恨み節が聞かれるところで、こうした日銀のメッセージが届くかどうか疑問はありますが、金融機関自ら考え行動することが不可欠と思います。

簡単ですが今回はこの辺で。次週は休載、23日は日本の1~3月期GDPを取り上げる予定です。

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