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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2021/12/06 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.134: 政治のこと(その2)


今回は3週間前の続きです。1960年代以降の政治を振り返り、「成長」「分配」「安全保障」「政治と金」「環境」が主な対立軸となってきたこと、政権交代と経済状況に何某か関係がありそうなことを記しました。

今回は、この5つの対立軸を今日的にどう見ればよいか書いてみようと思います。具体的には、野党、とくに新たな党首が決まった立憲民主党が自民党を倒すきっかけを見出すことは出来るのでしょうか?

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経済以外の対立軸
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まず安全保障。55年体制の下、一方で米ソ冷戦が世界の対立構造を形作り、他方で戦争を経験し平和を心から願う方も数多く生きていました。この帰結が、自民党が政権を維持するが改憲は出来ず、社会党が一定の影響力を持ち続ける状況を作り出しました。振り返ると、ソ連の崩壊(1991年)から中国の台頭(2010年GDP世界第二位、2012年習近平中国トップに)までの間、安全保障政策を日米同盟一本槍から見直すチャンスがあったのかもしれません。しかし、この間の日本はバブル崩壊から経済的に苦境に立たされ、自民党が政権から離れる時期も2回ありました。非自民勢力は自民党を倒すことと国内問題対応で精一杯でした。そして、中国がこれほどの強国になった現在、安倍元総理ほど強硬か否かさて置くにしても、中国の脅威を軽視した安全保障政策は取り得ません。要は、安全保障政策を対立軸とすることが難しい状況になったと思います。

次に環境問題。「多様性」の議論もそうですが、若い世代が関心を持ち得る今日的な領域です。今回の選挙でも選択的夫婦別姓に賛成しなかったのは自民党だけ。女性・女系天皇支持を打ち出すことも、リスキーですが面白いかもしれません。また被選挙権の最低年齢引き下げも良い論点と思います。ただ、わが国では環境問題への関心が欧州などに比べ低いことは否定できません。また、再生可能エネルギーだけで化石燃料を代替することは少なくとも2050年までのタイムスパンでは不可能で、どうしても原子力の活用が不可欠になります。要は、単純な原発廃止の議論は非現実的・無責任です。22世紀までを見据え既存の原発の廃炉や使用済み核燃料の処理を進めていくことは不可欠ですが、科学の知見に裏付けられた粘り強いアプローチが求められます。従って、環境問題を対立軸に掲げることにも意外に難しさがあると言わざるを得ません。

最後に政治と金。ロッキード事件が再来すれば自民党政権も崩れるかもしれません。森友・加計問題で安倍政権は倒れませんでしたが、その信任にボディブローのような影響を与えたことも事実と思います。ただ、自民党が「政治と金の関係は汚くて良い」などと主張する筈もなく、この対立軸をシングルイッシューとして戦うことには無理があります。

まとめると、安全保障、環境(や多様性)、政治と金は、一応の対立軸となり得ますが、実際には何れも迫力を以って政権を倒す起点とするには難しさがあるというのが、正直な感想です。

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成長と分配:矢野次官の呪い
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では、経済の対立軸はどうか?例えば米国をみると、成長・小さな政府と分配・大きな政府が極めて重要な対立軸になっていると思います。しかし、日本はそうではありません。理由は2つあります。

ひとつは、矢野財務次官の批判が与野党双方に向けられたことで分かるように、維新の会を除きどの政党も分配・大きな政府派に属すことが挙げられます。自民党政権が「民営化」「規制改革」「行財政改革」に営々と取り組んできたことは事実ですし、小泉さんは郵政改革を最重要課題としました。しかし、一見新自由主義のイメージを与えるアベノミクスに対し「第3の矢が放たれない」との批判が強かったことも記憶に新しいところです。第一次オイルショック後、日本経済は大小含め何度も「谷」を経験し、その都度財政出動が求められ、巨額の国債残高を積み上げました。その間、数年間を除き自民党が政権を握っていました。

もうひとつも矢野次官に関係しますが、財政問題にいろいろな立場があるにしても、赤字をこれ以上積み上げていくことに誰もが躊躇を覚えるほど、財政の悪化が進んでしまったことです。仮に野党が分配強化を主張する場合、その財源論も合わせ用意しないと眉唾に受け止められてしまいます。

無論、弱者のための財政支出を増やし他の歳出をカットする余地が皆無ではありません。財源を大企業と富裕層により多く求める税制の提案は対立軸になり得ます。更には、少し前の2000万円問題で明らかになったように、皆が老後に不安を抱いています。財政赤字を更に大きく拡大させない範囲で、自民党より透明性と説得性を持つ社会保障政策を打ち出すことが絶対に出来ないとまでは言えません。

ただ、この線で行くとすれば、各省庁を下に抱える現政権が圧倒的に有利な立場に立ちます。野党を支持する有能な頭脳集団を見出すことが出来ない限り、経済の対立軸も絵に描いた餅に終わるように思えてなりません。

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新しい資本主義?
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2回にわたり政治について書いてきました。今回の選挙で野党共闘が敗れたことについて様々な解説がなされています。私の答えは、5つの対立軸の何れも対立軸とすることが難しい状況に陥っており、対立軸が明確にならない以上、政権政党が有利な立場に立たざるを得ないという、野党にとって身も蓋もないものです。無論、私の考えが及ばない第6、第7の対立軸が生まれるかもしれません。また、既存の対立軸に関し画期的なアイディアが生まれるかもしれません。しかしそうならない限り、ロッキード事件に匹敵する総理のスキャンダルでもなければ、政権交代は夢のまた夢と思えてきます。

だからと言って、岸田政権が日本の諸課題を解決する処方箋を持ち合わせていないことも、やや空虚な先般の経済対策に示されています。与野党問わず今求められる政策は:
*現実を見据えた安全保障政策を構築すること(無論その中でも相対的にハト派的かタカ派的かの違いはあり得ると思います)
*財政赤字を更に大きく増やさないとの制約下で、老後の安心を確保し弱者を切り捨てない体制を確立すること
*持続可能性と高い生産性を兼ね備えた経済を実現すること
*政治への信頼を高め国民に選挙に行く気を起こさせること
の4点に集約されると思います(これに大震災やコロナ等の危機対応が加わるかもしれません)。その前提として、可能な限り民間の力が発揮させる環境を整え、財政を賢く使うことが求められます。こうした政策を立案し実現出来るのであれば、自民党でも立憲民主党でも構いません。岸田政権の経済対策や新しい資本主義に真っ当な対案を出すことが、野党再起動の出発点になるのかもしれません。

それから、憲法改正は5つ(以内)の改正ポイントへの賛否で両院の議決や国民投票が行われます。憲法論議に尻込みすることは最早ネガティブな印象しか与えません。これまで左派色が強く議論を拒んできたようにみえる立憲民主党として、5つの改正ポイント案を具体的に逆提案することも、真っ当な戦術と思います。憲法9条を変えず、逆に何を変えるか?最もよく政策が見えるのではないでしょうか。

今回はこの辺で。

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