2021/08/02 06:30 | by Konan | コメント(2)
Vol.116: IMF世界経済見通しとオリンピックのこと
もう8月ですね。今回は7月27日に公表されたIMF世界経済見通しを簡単に紹介します。その後オリンピックについて触れたいと思います。
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先進国と新興国・途上国で真逆
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IMFの世界経済見通し(World Economic Outlook: WEO)は4月と10月に本格的なバージョンが公表され、その間(1月頃と7月頃)に簡単なアップデートがなされます。今回はこのアップデート版に当たります。
2021年の見通しは、世界全体で2020年マイナス3.2%の後、プラス6.0%成長とされました。この+6.0%は前回4月時点の見通しと不変です。しかし、先進国と新興国・途上国の間でかなり様相が異なります。
先進国は、2020年-4.6%の後、2021年+5.6%とされました。4月見通しに比べ+0.5%の上方修正です。とくに米国は2021年+7.0%、4月対比+0.6%上方修正されました。日本は2021年+2.8%で、4月対比-0.5%下方修正です。
新興国・途上国は、2020年-2.1%の後、2021年+6.3%とされました。4月見通しに比べ-0.4%の下方修正です。とくにインドは2021年+9.5%、4月対比-3.0%もの下方修正。中国は2021年+8.1%、4月対比-0.3%下方修正です。
一言で言えば、先進国は日本を除きワクチン接種の進展が上方修正に結び付き、新興国・途上国は(中国は事情が異なりますが)コロナ禍の影響長期化が下方修正に結び付いています。また先進国には拡張的な財政政策の余力も残されています。IMFはこの違いをFault lines widen in the global recovery(日本語では「世界経済回復の断層線 亀裂の広がり」)と呼んでいます。
2022年については、ワクチンの普及が進む下で、世界全体+4.9%、先進国+4.4%、新興国・途上国+5.2%とまずまずの成長を予想しています。2021年より成長率が低下しますが、2021年は2020年マイナス成長の反動で成長率が高めに出ますので、自然な流れと思います。
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オリンピックはなぜ不人気だったのか
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日本選手の大活躍で、オリンピックに対する見方は大きく変わりつつあるように感じます。今世論調査を行えば、(質問の仕方にもよりますが)開催したことを支持する・少なくとも後悔しない答えが、そうでない答えを上回る気がします。ただ、菅総理の目論見と異なり、これが政権支持率の浮揚に結び付く気もしません。新規感染者数の急増や緊急事態宣言の拡張が同時並行的に起きているからです。
さて、少なくとも開会前、東京オリンピック・パラリンピックは不人気でした。直接の理由はコロナ禍の中での開催が国民の安全上懸念を与えたからですが、以下のように思っています。
オリンピック・パラリンピックには理念や価値があります。平和、共生、多様性などでしょうか。大学時代、京極純一先生が「頭を割る政治から頭を数える政治に進化した」と仰られたことを今でもよく覚えています。言い方は悪いですが、「戦争」が当たり前であった時代、殺し合うのでなく競い合うことがオリンピックの大事な役割だったように思います。まさに「平和」です。五輪は5つの大陸の共存・共栄の象徴です。パラリンピックにより多様性の意義も一段と増しました。要はオリンピック・パラリンピックには大切な大きな価値があります。
不幸にして、コロナ禍によりその大切な価値を実現出来るか否か日本の判断に委ねられました。本当なら、「大切な価値を実現するため、コロナの下で最大限の工夫(無観客を含めて)を行おう」とのムードになって良かったはずですが、全くそうはなりませんでした。理由は2つあると思います。
第1に、「オリンピックは価値実現のためでなくIOCのためのイベントに過ぎない」との認識が、バッハ会長の不用意・無配慮な言動もあり広がったことです。仮にそうだとすれば、国民の安全を危険に晒すことは馬鹿げています。
第2は、安倍前総理・菅総理の発信の仕方です。安倍前総理は「復興の証」「人類がコロナ禍に打ち勝った証」のロジックを前面に出しました。これは、ポジティブに価値を実現するというより、大震災やコロナ禍を仮想敵に見立てそれを倒そうとする戦いのロジックです。右派・保守派の安倍前総理からみると自然な発想かもしれませんが、ポジティブな価値実現と比べ共感を得難いと思います。そして、菅総理にはロジックすらなく、オリ・パラをGoToキャンペーンの延長線上としか捉えていないように見えます。
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反対派は応援してはいけないのか
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「開催に反対していた人が応援するのは怪しからん」との声もよく耳にします。幸い私は開催容認派なので安心して応援していますが(笑)、それはさて置き私はそうは思いません。
「アスリートに罪は無い」というのがシンプルな理由です。「応援は怪しからん」の声が、応援者だけでなく(以前の池江選手に向けられたもののように)捻じ曲がってアスリートに向けられることを危惧します。
そのことに加えて思うのは、大袈裟な言い方となりますが、日本が民主主義の国だからです。民主主義は選挙で決まったことに次の選挙まで従うことが制度の根幹です。そうでないと「頭を割る政治」に戻ってしまいます。例えば英国のEU離脱国民投票でremainに投票した47%ほどの人は英国を去るべきか?そうではなく、決まった後はleaveを前提に英国で生活を続けることが自然と思います。国民は自公政権に多数の議席を与え、選ばれた総理が安倍さんや菅さんであり、彼らは決してオリ・パラを中止しません。そうであれば、政権が倒れるまで開催を前提に生活するしかありません。出来ることは次の選挙で野党に投票することであり、アスリートを応援しないことではないと思います。
硬い話しになってしまいましたが、今回はこの辺で。
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2 comments on “Vol.116: IMF世界経済見通しとオリンピックのこと”
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>大袈裟な言い方となりますが、日本が民主主義の国だからです
そもそも民主主義は欧米で始まったもので、我が国はそれをまねしたものに過ぎない。したがって民主主義が機能するもとがあるのかないのか不明です。
国内の多くの現象を説明する時、欧米の概念を使ってあれこれ言うが、それはいつまでたっても漸近線説明に過ぎず、決して交わらない。しかし接近するから友好のような現象が起きるから始末が悪い。
コロナは戦争によって生じる現象と同じ現象を起こした。まず芸能界。その次は旅行業界、そして飲食業界さらにこれは進む。次が教育業界でしょう。
社会の必要度に応じて、打撃を受けていく。
それは現象的には貧困層の増大と富裕層のさらなる富裕化でしょう。
これが世界の国ごとに起きる、我が国は富裕国から貧困国へとベクトルが向く。
結論は欧米諸国は富裕国として残り、我が国は微妙なところでしょう。
それを決めるのは東アジアの紛争です。
中国朝鮮を戦前抱えた戦争をしたが、今回の経済的に同じことをした。
多分結果も同じことになるとみている。
ワクチンが聞かないと国民にわかると何が起きるか?
いずれにしても国内の振り分けと国ごとの振り分けが生じて、貧困国の中でも振り分けが生じる。そして供給網の破損が富裕国を襲う。そのためその経路の確保が必要となりそれをいま進めている。我が国は無策です
>オリンピック・パラリンピックには理念や価値があります
ここでも富裕国と貧困国とが分かれ、競技そのものがそれを反映している。
妄想はやめて、ただの興行としてみることだと思う。
パラに参加する人の補助器具は貧困国では作れない。逆にその技術レベルを示している。
個人的にはパラに使うお金があったなら、その金を直接障碍者に渡すことを進める時期が来たと思う。
理想と現実の落差は現在の国際社会のそれと、また各国の政策とその結果の落差を示している。いずれも有効性が全くないことです。
あらゆる現在の人が持つ考えを無視して新しい時代が来る、その始まりだなあとおもって、オリンピックとその放送を見ている。
ごく普通の常識で見ることではないかと思う。貧乏ではオリンピックという道楽はもうできないと。