2021/05/31 06:30 | by Konan | コメント(0)
Vol.107: 月例経済報告とmRNA
今回は、26日に公表された内閣府月例経済報告を紹介します。なお、5月は日銀金融政策決定会合の方はお休みです。
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景気現状判断下方修正
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今月は、景気の現状に関する基調判断が、先月の「一部に弱さがみられる」から「一部で弱さが増している」に下方修正されました。以下、需要項目ごとの現状判断です。
【現状】
・基調:景気は、新型コロナウイルス感染症の影響により、依然として厳しい状況にあるなか、持ち直しの動きが続いているものの、一部で弱さが増している
・個人消費:このところサービス支出を中心に弱い動きとなっている
・設備投資:持ち直している
・住宅建設:おおむね横ばいとなっている
・公共投資:高水準で底堅く推移している
・輸出:緩やかな増加が続いている
・輸入:持ち直しの動きがみられる
輸出について「増加テンポが緩やかになっている」から「緩やかな増加が続いている」に上方修正された一方、個人消費が「弱含んでいる」から、サービス支出中心と注釈は付きましたが「弱い動き」と下方修正され、これが基調判断下方修正につながりました。
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先行きの見通しは不変
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先行きについて、先月と一文字も変わっていません。以下、需要項目も含め紹介します。
【先行き】
・基調:感染拡大の防止策を講じるなかで、各種政策の効果や海外経済の改善もあって、持ち直しの動きが続くことが期待されるが、内外の感染拡大による下振れリスクの高まりに十分注意する必要がある。また、金融資本市場の変動等の影響を注視する必要がある
・個人消費:感染拡大の防止策を講じるなかで、持ち直しに向かうことが期待されるが、感染拡大による下振れリスクに十分注意する必要がある
・設備投資:不透明感が残るものの、成長分野への対応等を背景に、機械投資を中心に持ち直し傾向が続くことが期待される
・住宅建設:当面、横ばいで推移していくと見込まれる
・公共投資:底堅く推移していくことが見込まれる
・輸出:海外経済が改善するなかで、増加傾向が続くことが期待される。ただし、感染の再拡大による海外経済のリスクに十分注意する必要がある
・輸入:持ち直しに向かうことが期待されるが、感染拡大による下振れリスクの高まりに十分注意する必要がある
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ワクチン頼みの展開?
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先日のNHKクローズアップ現代で、IPS細胞の山中教授と、新型コロナウイルス感染症対策の切り札であるmRNAワクチン開発の立役者でハンガリー出身のカリコ氏の対談が放送されました。彼女の波乱に満ちた人生、真摯で誠実な研究姿勢に感銘を受けました。
彼女の発言の中でとくに印象に残ったのは以下の3点です。
・ワクチンの効力がどの程度持続するか現時点で実証されていない(ワクチンが使用され始めたばかりでデータがない)が、1年以上持続すると思う。
・唾液の中にも抗体が出来ることが分かった。これにより、重症化リスク低減のみならず感染削減効果も期待できる。
・仮に現状のワクチンの効果が低い変異株が誕生しても、mRNAの技術を使えば4~6週間で新たなワクチンを開発できる。
ワクチン接種率が高まった米国の景気回復力の強さはSaltさん解説の通りです。ワクチン接種が現状まだ進展していない日本の景気の冴えなさは上記の通りです。ただ、その日本でもワクチン接種が徐々に軌道に乗り始め、7月末までに高齢者の接種を終えるとの無謀に見えた菅総理の発言が、少しずつ「嘘でないかもしれない」方向に向かい始めています。オリンピック開会時点で高齢者のかなりの割合での接種が終わっていれば、オリンピック反対多数の雰囲気も多少変わるかもしれません。
そのうえで、カリコ氏の発言で勇気付けられた反面気になったのは、変異株です。変異株が出現しても対応ワクチンがすぐ開発できることは朗報です。逆に言えば、今のワクチンが効かない変異株が出現した場合、再び緊急事態宣言・まん延防止等重点措置が繰り返され、新たなワクチンを確保できるまで、今のような状況が続くことを意味します。コロナが風邪やインフルエンザ同様の存在になるまで相当時間がかかる訳です。
これを防ぐためには、最低でも国内でのライセンス生産を拡大する必要があり、出来れば治療薬開発面で起死回生の貢献を行うことが望まれます。
無論、米国をはじめとする西側ネットワークの中でワクチンを確保し続けることが出来れば、致命的な結果を防ぐことが可能かもしれません。しかし、新興国・途上国を含め世界全体でコロナを克服することまでを展望すると、米国頼みでは行き詰まる気もします。
世界的に見て少ない感染者数でも崩壊してしまう医療と、余りに弱いワクチン・治療薬開発体制の変革が政権最大の課題として問われる、新たなフェーズに入りつつあるということでしょうか。
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