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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2021/05/17 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.105: 日銀点検の「補足」


新型コロナウイルス感染症同様に出口が見えない日銀の政策ですが、今回は暫く前の4月30日に公表された2つの日銀レポートを簡単に紹介します。ご案内のように、日銀は3月19日に金融政策の「点検」を行いました。その際「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検(背景説明)」と題する52頁の資料を公表し、点検の正当性を主張しました。今般、この資料のうち、

・日本銀行のETF買入れが株式市場のリスク・プレミアムに及ぼす影響
・マクロ経済モデルQ-JEMを用いた「量的・質的金融緩和」導入以降の政策効果の推計

の2点に関し、3月19日の分析を補強し詳細に説明するための資料として、2つのレポートが公表された経緯です。結論は既に3月19日に出ているので新味はありませんが、改めて補足資料を公表したところに日銀の「気合」「維持」「見栄」を感じます。またETFのペーパーは、今後の日銀の出動タイミングを探るうえでのヒントにもなると思います。

ETFの方は、結論だけ紹介します。当然「日銀のETF買入れは、株式市場のリスク・プレミアムを引き下げる効果を持っている」と結論付けています。そのうえで、この下押し効果が大きいのは以下の4つのケースとします。直観的にどれも頷けるケースと思いますが、恐らくこの線に沿って今後のETF買入れが行われていくと思います。

(1) 買入れ時点の株価水準が株価のトレンドと比べ低いケース
(2) 株価水準がトレンド対比低い状況下で株式市場のボラティリティが高まっているケース
(3) 買入れ実施直前の株価の下落率が大きいケース
(4) 買入れ規模が大きいケース

要は、株価水準が低い、株価が乱高下している、直前にかなり下がってしまったような場合に大規模に買えば効く(そうでなければ効果は相対的に小さい)という訳です。

もうひとつの方は難しい内容です。概略のみ説明すると、量的・質的金融緩和の効果を計るためには、「量的・質的金融緩和が行われていなかったらどうなっていたのだろうか」考える必要があります。これが仮定できれば、この仮定の下で起こっていたと考えられる推計値と実際の実質GDPや物価の動きの差分が、量的・質的金融緩和の効果と言えることになります。

次に、実質GDPや物価に影響を与える指標として、「実質金利」「金融機関の貸出態度」「為替レート」「株価」の4つを考えます。この4つの指標に関し、それぞれ2つの方法(貸出態度は1つの方法のみ)で、量的・質的金融緩和が行われていなかった場合の「仮想的なパス」を想定し、AからDまで4つのケースを設定します。更に、実質金利の仮想に焦点を当てたケースEを設定します。

このAからEのケースを日銀が誇る大型マクロ経済モデルであるQ-JEM(Quarterly Japanese Economic Model)に挿入し、量的・質的金融緩和が無かった場合の実質GDPと物価上昇率(+需給ギャップ)を推計します。そしてこの推計値を実績値と比べます。

実質GDPに関しては、2013年第2四半期から2020年第3四半期における推計値と実績値の差分、すなわち押し上げ効果は平均+0.9~+1.3%とされます。実質GDPは年5百数十兆円なので、年間5~6兆円押し上げられ、7年間の累計では40~50兆円ほど押し上げられたことになります。

物価前年比も、押し上げ効果は平均+0.6~+0.7%とされます。私の誤解でなければ、足元の物価「水準」は量的・質的金融緩和がなければ今より4%強低かったことになると思います。

このペーパー自体が認めるように、どのような推計にも恣意性が入り込み得るので、結論は幅を以ってみる必要があります。そのうえで、政策に効果があったこと自体は確かと思います。逆説的に言えば、これだけ効果があっても2%の物価上昇目標実現に程遠いことが却って浮き彫りになりました。

黒田総裁の論法は「効果があるのだから、時間をかければ必ず実現する」です。家康型ですね。反黒田派は、「2%は非現実的である」「そこまで待つ間に副作用が溜め込まれ、日本経済にとり逆効果である」との主張です。この2つの議論は水掛け論です。反黒田派も「心配だ」と言うだけで何かを実証できている訳ではありません。水掛け論でなく、お互い根拠を示した真っ当で建設的な議論になって欲しいと感じます。

今回はこの辺で。

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