プロが語る世界情勢・政治・経済金融の最前線!

The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2021/03/15 06:30  | by Konan |  コメント(2)

Vol.97: 歓迎永田町さん!+日銀の続き


永田町ディープスロートさんの連載が始まりました。記事だけでなく、緊急事態宣言解除後に恒例の執筆者飲み会で初めてお会いできることを楽しみにしています。

ぐっちー亡き後のGucci Post、JDさん、Saltさん、そして永田町さんと超強力な執筆陣を抱え、今や他の媒体に全く引けを取らない陣容になりました。もう私の出る幕は無くそろそろ隠居しようかと考えたりもします。当面は、邪魔にならないよう細々と続ける感じでしょうか。

先週は公私ともに超忙しく、今回休載も考えました。ただ「公」の中で受けた日銀に関する質問に関し、とても簡単に書いておこうと思いました。

前回も書いたように、今週19日(金)に日銀金融政策決定会合で金融政策の「点検」が行われます。私を含め外野が様々予想を行っていますが、日銀自らも例えば雨宮副総裁が「ウィズコロナ、ポストコロナの金融政策」と題する講演を8日に行い、点検に関し説明しました。私への質問の趣旨は「こうした日銀役員の発言は決定会合での決定内容を事前にどこまで開陳しているのか」というものでした。

歴史を遡ると、1998年4月に新日銀法が施行され日銀に独立性が与えられるまでは、日銀単独で金融政策を決定することは実質的に不可能でした。政府、例えば時の総理や蔵相、官庁で言えば日銀への許認可権限を持つ大蔵省や郵貯を抱える郵政省の意向を無視する形で公定歩合の変更を行うことは、実態として無理でした。他方、旧法下でも政策委員会は存在しましたが、スリーピングボードと揶揄される形だけの存在に過ぎず、実際には総裁(日銀出身者の場合)や副総裁(総裁が大蔵省出身者の場合、日銀生え抜きの副総裁が実質的な最高権限者)が日銀としての意思を定めました。

日銀法改正により、政策委員会が名実ともに最高意思決定機関とされました。総裁1人、副総裁2人、審議委員6人の計9人で構成され、これまでのところ、審議委員に日銀生え抜きが任命されたことはなく、正副総裁3人中1人ないし2人が日銀生え抜きです(例えば現在は雨宮副総裁のみ)。

最近出版された西野智彦さんの「ドキュメント日銀漂流」などの出版物でも描かれていますが、日銀法改正直後は政策委員会の扱いにとても注意が払われ、当時は速水総裁、山口副総裁と2名の日銀生え抜きがいましたが、この2人が露骨に主導権を握ることがないよう運営されていたようです。またこの頃は、中原審議委員のような強烈な速水批判者もいたので、実態としても生え抜き主導は難しかったと思います。従って、この頃はたとえ総裁の講演であっても、金融政策決定会合での決定を先取りする発言は極めて難しかったと思います。それでも速水総裁は爆弾発言を何度か行い、その都度マスコミや市場関係者を驚かせましたが。

その後、福井(生え抜き)、白川(生え抜き)、黒田(財務省出身)と総裁が交代し、新日銀法施行後約23年が過ぎました。上記の西野さんの本や日銀関係者の話しを総合すると、徐々に正副総裁や事務方(企画局)の力が強まり、政策変更がこれら執行部主導で行われる色がどんどん濃くなってきたようです。無論、審議委員から反対票が出ることがありますし、5対4という際どい決定になったこともあります。この意味で、政策委員会がスリーピングボードに戻ったとは言えません。ただ最近に限っても、黒田バズーカ、マイナス金利政策、イールドカーブ・コントロールなどの政策変更は、黒田総裁と企画局ラインで練られ、それを5対4のような薄氷を踏む場合を含め通してきたのが実態と思います。

こうなると、例えば雨宮副総裁が約10日後の決定内容を先取りして話してしまうことも、本音で言えば可能です。実際、副総裁講演には踏み込んでヒントを与えてくれる面が無い訳ではありません。また、欧州の中央銀行であるECBがそうであるように、市場との対話という点では、予めある程度滲み出してもらい、実際の決定がサプライズとならない方が却って望ましい面があることも否定出来ません。

そうは言っても、日銀法の規定を無視する形で政策委員会を完全に形骸化してしまうことも許されません。このため、「論点を分かりやすく示す」程度に止めることが現実的です。副総裁講演後も、ETF、マイナス金利、イールドカーブ・コントロールなどの論点は見えたとは言え、具体的な内容がどうなるか引続き市場の憶測が続いていると思います。

なお、これと関連して日銀ではブラックアウトルールが定められ、決定会合開始の2日前から関係者がマスコミ等と会うことが禁じられます。このブラックアウト期間入り後に企画局から案が示されることもあるようで、マスコミから見て「出し抜かれた」感が出る事象も時折生じます。

こう考えると、自分で予想を書いたうえで何ですが、「決定当日をお楽しみに」というのが日銀金融政策決定会合への正しい接し方ということになるのでしょうか。

メルマガ「CRUのひとり言」を購読するためにはご登録のお手続きが必要です。

当社に無断で複製または転送することは、著作権の侵害にあたります。民法の損害賠償責任に問われ、著作権法第119条により罰せられますのでご注意ください。

2 comments on “Vol.97: 歓迎永田町さん!+日銀の続き
  1. むつごろう より
    隠居について

    隠居しないでください。

  2. Tom より
    隠居は困ります・・・

    CRUさんのブログやTwitter、いつも楽しく、興味深く読んでいます。
    更新されると真っ先に読んでますよ~!
    教育界で働く私にとっては、大きな窓になり、公私に活かしております。

    隠居なんて仰らず、これからも続けて下さい。
    お願いします。

コメントを書く

* が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

いただいたコメントは、チェックしたのち公開されますので、すぐには表示されません。
ご了承のうえ、ご利用ください。