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The Gucci Post [国際政治・経済・金融 × プロフェッショナル]

2021/02/01 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.91: グリーン成長戦略(その1)


2回にわたり、昨年12月25日に政府の成長戦略会議で報告された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を紹介します。大分時間が経ってしまい申し訳ありません。今回は全体像、次回はこの戦略で取り上げられた14の重要分野を説明します。

まず、このグリーン成長戦略は「経済産業省が中心となり、関係省庁と連携のうえ策定され、成長戦略会議に報告され」ました。要は、経産省色が極めて強い内容です。実際、パリ協定など環境問題重視派が大事にする言葉は登場せず、「菅政権が掲げる2050年カーボンニュートラルへの挑戦を、経済と環境の好循環につなげるための産業政策」との位置付けです。こうした経緯なので、菅総理が昨年の臨時国会でやや唐突にカーボンニュートラルを打ち出した後、官庁仕事としては比較的短時間で策定されました。

経産省のホームページを見ると、以下が主な内容とされています。

「今回のグリーン成長戦略では、14の重要分野ごとに、高い目標を掲げた上で、現状の課題と今後の取組を明記し、予算、税、規制改革・標準化、国際連携など、あらゆる政策を盛り込んだ実行計画を策定しています。この戦略を、着実に実施するとともに、更なる改定に向けて、関係省庁と連携し、目標や対策の更なる深掘りを検討していきます。」

大きな枠組みは以下の通りです。

・14の重点分野における実行計画において、2050年までの時間軸をもった工程表を提示する。規制改革・標準化、金融市場を通じた需要の創出と民間投資の拡大を通じた価格低減に政策の重点を置く。

・工程表では、各分野における成長を実現する上で鍵となる重点技術等について、「研究開発フェーズ」「実証フェーズ」「導入拡大フェーズ」「自立商用フェーズ」を意識し、日本の国際競争力を強化しつつ、自律的な市場拡大につなげるための具体策を提示する。

・予算面では、2兆円の基金を創設し、野心的なイノベーションに挑戦する企業を今後10年間、継続して支援していく。

・税制面では、投資促進税制、研究開発税制の拡充のほか、事業再構築・再編等に取り組む企業に対する繰越欠損金の控除上限を引き上げる特例の創設を講じる。

・金融面では、情報開示や評価の基準など、金融市場のルール作りを通じて、革新的技術へのファイナンスの呼び込みを図る。

・規制改革・標準化について、水素ステーションに関する規制改革、自動車の電動化推進のための燃費規制の活用等を検討し、需要の創出と価格の低減につなげる。

・民間の資金誘導について、情報開示・評価の基準など金融市場のルールづくりを、海外とも連携しながら進める。

14の重点分野に触れないと手触り感が出ないと思いますが、経産省主導ながら、財務省や金融庁、国交省などを巻き込んだ姿が見て取れます。

さて、このグリーン成長戦略が経産省主導であることは、同省が所掌するエネルギー政策への拘りに表れます。以下、主な部分を抜粋します。

・2050年カーボンニュートラルに向けては、温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー分野の取組が特に重要となる。

・成長が期待される分野・産業を見いだすためにも、前提としてまずは、2050年カーボンニュートラルを実現するためのエネルギー政策及びエネルギー需給の絵姿を、議論を深めて行くに当たっての参考値として示すことが必要である。

・電力部門の脱炭素化は、大前提である。再生可能エネルギーは、最大限導入する。洋上風力産業と蓄電池産業を成長戦略として育成していく必要がある。

・火力については、CO2回収を前提とした利用を、選択肢として最大限追及していく。水素発電は、選択肢として最大限追及していく。そのため、水素産業の創出が必要である。同時に、カーボンリサイクル産業や燃料アンモニア産業を創出していく必要がある。

・原子力については、確立した脱炭素技術である。可能な限り依存度を低減しつつも、安全性向上を図り、引続き最大限活用していく。

以上が電力供給面ですが、電力需要は、脱炭素化を進める産業・運輸・家庭部門の電化によって、現状の30~50%増加するとの試算があります。あらゆる政策を総動員してもなお、全ての電力需要を100%再エネで賄うことは困難と考えることが(経産省によれば)現実的です。このため、2050年の発電量のうち、約50~60%を再エネで、10%程度を水素・アンモニア発電で、30~40%程度を原子力とCO2回収前提の火力発電で賄うことが、議論を深めて行くに当たっての参考値とされます。

言い方を変えると、今回のグリーン成長戦略は、安全性を高めたうえで原発を維持することと、CO2回収技術を実用化したうえで火力発電を維持することを正当化することが、ひとつの目的となっています。賛否両論あると思いますが、本来は国論が二分してもおかしくない重要な論点を提示しています。ところが、その後のコロナ禍の深刻化に伴い、本件は余り気付かれないまま時が過ぎています。他方で、官庁にしては珍しくストレートに論点を提示しています。単純化して言えば、「カーボンニュートラル」か「原発維持」か国民に選択を求めています。二兎を追うことは、現時点で想像もつかない技術革新が起きたり、あるいは電力需要削減に国民が納得しない限りできません。

今回はこの辺で。

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