2020/09/21 06:30 | by Konan | コメント(1)
Vol.72: 日銀決定会合+政権交代と中央銀行(その2)
四連休中の方も多いでしょうか。今回は日銀金融政策決定会合(17日公表)を紹介した後、前回に続き政権交代と中央銀行について書こうと思います。2回で終える積もりでしたが、今回は「実践編・安倍内閣の巻」、次回「菅内閣の巻」とします。
まず決定会合。8月はお休み。前回7月に比べトーンが強くなりました。
(現状)
・全体:内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、経済活動が徐々に再開するもとで、持ち直しつつある
・個人消費:飲食・宿泊等のサービス消費は依然として低い水準となっているが、全体として徐々に持ち直している
・設備投資:減少傾向にある
・住宅投資:緩やかに減少している
・公共投資:緩やかな増加を続けている
・輸出:持ち直しに転じている
(見通し)
・全体:経済活動が再開していくもとで、ペントアップ需要(抑制されていた需要)の顕在化に加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果にも支えられて、改善基調を辿るとみられる。もっとも、世界的に新型コロナウイルス感染症の影響が残るなかで、そのペースは緩やかなものにとどまると考えられる。その後、世界的に感染症の影響が収束すれば、海外経済が着実な成長経路に復していくもとで、わが国経済はさらに改善を続けると予想される
(リスク要因)
・新型コロナウイルス感染症の帰趨や、それが内外経済に与える影響の大きさといった点について、きわめて大きい不確実性
・感染症の影響が収束するまでの間、企業や家計の中長期的な成長期待が大きく低下しないか
・金融システムの安定性が維持されるもとで、金融仲介機能が円滑に発揮されるか
水準判断が「きわめて厳しい」から「厳しい」に上方修正され、全体判断も「持ち直し」とされました。需要項目別にみると、設備投資は下方修正されましたが、個人消費と輸出が上方修正されています。世界経済の回復と、国内の感染状況が指数関数的悪化を回避し踏み止まっていることが、こうした上方修正の背景と思います。実際、この四連休も飛行機や新幹線の乗客数の回復が報道されています。ただ、何度か書いたように前の月や四半期対比で回復していても、前年同期と比べプラスに回復したとは言えない状況が続くと思います。そうした厳しい環境を切り抜けることが出来るか、正念場です。
なお、今回は政策変更はありませんでした。菅内閣誕生との関係は次回に触れます。
さて、政権交代と中央銀行。今回は安倍内閣誕生時を振り返ります。安倍内閣誕生の約3か月後に就任した黒田総裁下、日銀の政策は劇的に変わりました。ただ、あまり認識されていませんが、白川総裁最後の3か月の間にも、日銀の政策は結構変化しました。要は安倍内閣誕生が日銀に大きな影響を与えた訳です。前回説明した「独立性」との関係で問題はないか?
論点を2つに分けます。まず、独立性の点を離れ、そもそも白川総裁の政策と黒田総裁の政策のどちがら正しいか考えてみます。別の言い方をすると、仮に民主党政権が続いていたり、安倍総理でなく石破総理が誕生していたとして、白川総裁の政策は継続されるべきだったかという論点です。
「白」と「黒」を対比すると、以下のようになります。
・黒は2%の物価上昇を目指し、白は1%の物価上昇を目指す。
・黒は期待への働きかけを重視し、白はあまり重視しない。
・黒は物価安定の責任は中央銀行にあると考える。白は成長戦略など政府にも責任があると考える。
単純に言えば、黒田総裁は2%を目指し、バズーカと呼ばれる未曽有の政策で期待へ働きかけ、日銀単独で実現すると見えを切りました。白川総裁は1%が精々と公言し、政策も地味で、少子高齢化・人口減少など構造問題への指摘を多く行いました。
振り返ってみると、3点目(責任は中央銀行か、政府も責任を持つか)については評価が難しく今回は避けますが、1点目、2点目について、過去8年近くの経験を経て、白川総裁が正しかったことが明らかになりつつあります。黒田総裁の政策を以ってすら2%は程遠い目標でした。無論、消費税率引き上げ、原油価格下落、そして今回のコロナ禍など黒田総裁にとり不幸が重なったことは事実です。しかし、黒田総裁は「アゲインストな状況下でも責任を果たすのが中央銀行の役割」と啖呵を切っていたので、言い訳はできません。
ここまで読まれた方は、私が白川総裁派だと思われると思います。しかし、私は黒田総裁が新たな政策にトライしたこと自体は正しい選択だったと思っています。理由は2つあります。
・今から振り返れば白川総裁が正しかったと言えますが、それは過去8年間の日銀の壮大な実験によりはじめて分かったことで、8年前の時点で新たな政策に賭けたことを責めるのは酷であること。
・白川総裁の政策が続いていたとすれば、日本経済は一段の閉塞感に襲われていたと思われること。
アベノミクスの評価とも関係しますが、アベノミクスの批判は容易く、私も以前このコーナーでその欠陥を指摘しました。しかし、8年前より景気が良くなったことは間違いありません。白川総裁の政策でそこまで行き着くことが出来たか、私は疑問に思います。
次に、本題の独立性との関係。日銀関係者や日銀ウォッチャー的なエコノミスト、あるいはマスコミ関係者の多くは「安倍総理は日銀の独立性を損ねた」と受け止めたと思います。私も安倍総理のやり方は品が無いように感じました。ただ、独立性との関係では難しい論点を孕みます。世界的に見て、独立性に二つの潮流があるからです。以下議論を単純化します。
中央銀行にとり最も大切なのは物価の安定です。ではその目標を1%と置くか2%と置くか、それを誰が決めるのか?私の誤解でなければ、米欧(FED、ECB)は中央銀行が定めます。他方、英国やニュージーランドでは政府が定めます。前者は、1%か2%かの判断は選挙に馴染まず、中央銀行がその専門性を生かし理論的に決めることをイメージしていると思います。後者は、1%か2%かの判断は国民の厚生関数に関わる大事な問題であり、選挙の洗礼を受ける政府が決めることをイメージしていると思います。この2つのいずれが正しいか、言い切ることは難しいと思います。
安倍総理が日銀の独立性を損ねたと思われたのは、日本では米欧的に独立性が受け止められていたからと思います。ただ、米欧型が唯一でないことは上記の通りです。また、前回も触れたように、日銀法では「政府の経済政策の基本方針と整合的」との言葉まで盛り込まれています。日本は米欧と英NZの中間型とも言えます。
今回、普段以上に分かりづらく申し訳ありません。まとめると、
・「独立性」の点と離れ、白川総裁から黒田総裁への政策変更が正しかったか否か考えてみると、今から思えば白川総裁の主張が正しかったように思える。ただ、8年前の判断として黒田政策への変更が誤りだったとは言えない。
・「独立性」には流派があり、安倍総理の圧力は、下品か上品かさて置き、不当とは言い切れない。
となり、いずれも歯切れが悪い結論です(恥)。そのうえで、日銀が2%を目指し続ける理由は、他の先進国が皆2%を目指しており、日本だけ1%を目指すと円高リスクを齎すからです。他方、黒田総裁の政策ですら2%に到達しないということは、真に2%を実現するには途方もない政策が必要になることを意味し、そこまで来ると通貨の信認喪失のようなリスクが心配になります。要は「円高」と「通貨の信認喪失」という2つの(ある意味で正反対の)リスクを天秤にかける話しになります。それを決めるのは中央銀行か政府か?
次回、菅内閣との関係でこの点に戻りたいと思います。
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One comment on “Vol.72: 日銀決定会合+政権交代と中央銀行(その2)”
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この度も大変興味深い内容,有り難う御座います.
JD様のメルマガもそうですが,結局説得力のある論とは
著者の知識で解析を進めるにあたり,フラットな事実の見方を
ベースにしているのだという事を切に感じました.
ちなみに安倍在任の数年間,合計特殊出生率は一度上昇しましたが
その後低下し,結局内閣発足時と全く変わってません.
菅内閣の最初の政策の1つにこれ(不妊治療保険の拡大)があるのは
人気取りという事もあるでしょうが,少子化に関しては失敗だったという
事かも知れません.