2020/09/14 06:30 | by Konan | コメント(1)
Vol.71: 政権交代と中央銀行(その1)
2回にわたり政権交代と中央銀行の関係について書こうと思います。今回は理論編、次回は実践編です(大袈裟ですが、笑)。中央銀行のあり様は国々で異なるので、基本的には日銀をイメージして書きますが、部分的には欧米等他国にも当てはまると思います。
よく「中央銀行の独立性」と言われます。独立性とは何か?良く以下のように説明されます。
・金融政策が国家の諸政策のひとつであることは間違いない。そうであるなら、政府が金融政策を行うことがむしろ自然。しかし、世界のほぼすべての国で、政府ではなく中央銀行が金融政策を担っている。何故か?
・政府(大統領、内閣総理大臣など)は、選挙を経て選ばれる。選挙に勝つことが大事。そのため国民の人気を得たい。人気を得るひとつの重要な方法は景気を良くすること。従って政府には景気刺激的なバイアスがある。
・景気が刺激されると、インフレになる可能性がある。それが一定の範囲に止まれば問題ないが、それを超えたインフレが起きてしまうと、逆に国民にとりマイナスとなる。このため、「物価の安定」の役割は、選挙と関係のない主体に任せ、長期安定的に行わせた方が良い。
・この主体として中央銀行を作る。単に中央銀行を作るだけでなく、政府から命令されることも無いようにすることが望ましい。このことを「独立性」と呼ぶ。
大体こんな感じでしょうか。また、独立性を強く考えれば、政権交代があっても金融政策は変わらないことが「王道」になります。
独立性にはいくつかの側面があります。
・金融政策の決定に関し、政府の命令を受けない。形式的に中央銀行が金融政策を決めるとしても、例えば政府から「次は利下げをしなさい」と命令されたり、中央銀行の決定に政府の了承を必要としてしまうと、意味がありません。
・中央銀行のトップ(総裁や議長)の首を簡単に替えることが出来ても独立性は揺らぎます。イエスマン(イエスパーソンという方が良いのでしょうか)で政府の顔色を窺うだけなら、実質的に独立性は担保されません。
・中央銀行の予算についても、自主的に決められる。金を握られると(例えば「言うことを聞かないなら、職員の給与を1割カットする」など)やはり独立性が揺らぎます。
日本に即して言うと、1998年4月の新日銀法施行までは独立性が担保されていませんでした。法改正により、上記のうち最初の2つが実現しました。あまり知られていませんが、3つめ(予算)については引き続き政府の認可権の下にあり、この面では独立していません。日銀法改正時、「予算認可権まで無くすと、行政権は内閣に属するという憲法の規定に反する」との内閣法制局見解が通ったためと言われています。
日銀法について付言すると、実は日銀法には「独立性」という言葉は使われていません。「自主性」という言葉が用いられています。関連条文を2つ引用します。
第四条 日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。
第五条2項 この法律の運用に当たっては、日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない。
今回(理論編)は以下を書くにとどめ、次回、安倍内閣・菅内閣(恐らく誕生)と日銀の関係や金融政策の行方について触れます。
最初の方で書いた独立性を巡る議論は「インフレ」を想定しています。景気を刺激しようとする政府を押しとどめ物価の安定を目指す中央銀行との位置付けです。先進国はもとより新興市場国・発展途上国においても、中央銀行に独立性が付与されて以降インフレ傾向が収まり物価が安定基調になったと言われます(そうした実証研究もあります)。
しかし、日本はもとより先進国が直面するのはインフレではなくデフレです。政府も中央銀行も景気を刺激します。その点で立場の対立は無く、独立性の必要は薄まります。その局面でも中央銀行の独立性が云々されるとすれば、財政ファイナンスのあり方です。政府が景気を刺激する際、国債を増発します。そのことだけをとれば需給の関係で金利が上昇し、財政が一段と苦しくなります。そうならないようにするためには、中央銀行が沢山国債を購入し、金利上昇を抑え込むことが有効です。欧米でもそうですが、日銀は大量購入に加えイールドカーブコントロールとして長期金利まで操作(ゼロ%程度にピン止め)しています。こうなると当然財政規律が弱まります。ここからは議論が分かれますが、財政の信認を重んじる立場の人は、中央銀行の財政ファイナンスを批判します。中銀独立性の味方というより、むしろ財政健全性の立場から「中銀頑張れ」と言う訳です。
もうひとつの問題は中央銀行の財務です。単純に言うと、中央銀行の資産は国債ですが、金利が上がると国債に含み損が生じ財務が悪化します。中銀財務が悪化しても何ら問題が無いとの説もある一方、悪化すると通貨の信認が傷付くという説もあります。私はどちらかと言えば前者に近いのですが、仮に後者と考えると、いざという時中銀の財務の穴を埋める必要があります。それが出来るのは政府だけです。要は中銀と政府のバランスシートを一体的に考えることになります。この局面まで考えると、結局のところ中銀は独立していない(独立し得ない)という話に展開していきますし、この立場から日銀を批判する人も結構います。「所詮独立できないのだから、政府の言うことは何でも聞け」という訳です。
分かりにくい話となりましたが、次回は少し生臭い話にします。
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One comment on “Vol.71: 政権交代と中央銀行(その1)”
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外務省は独立させないのに、中央銀行だけ独立させるのが、以前から不思議でした。
何となくの予想ですが、独立性云々よりも生臭い話(過去ファクトからの反省)の方が、中央銀行を独立させる原因に近い気もします。
次回も、楽しみにしています。