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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2020/08/10 06:30  | by Konan |  コメント(0)

番外 経済統計の言葉 季節調整って何?


暑い日が続きますね。今月は少しゆっくり、執筆頻度を減らそうと思っていました。そうした中、先日の食事会でSaltさん達と「普段使う用語の解説が必要かも」との話になり、2年前に書いた記事を思い出しました。今回はそのセクション1、2の再掲です。

ストックとフロー、名目と実質、年率、寄与度、季節調整など。ご笑覧下さい。

(フロー、ストック)
ストックは残高、フローは一定期間中の変化のような意味合いです。ところで、GDP(Gross Domestic Product 国内総生産。なお、私が社会人になった頃はGNP:Gross National Product 国民総生産が指標でした)は、例えは3か月(四半期)間、あるいは1年間(暦年あるいは年度)に国内で生み出される富/付加価値を意味します。従ってフローです。大学卒業時の私はこれをストックと誤解していました。恥ずかしい話しです。付加価値も分かり難い言葉です。例えばある自動車会社が車を組み立て完成車を作る時、全部品のそれぞれの価格を足し上げたものと、完成した自動車の価格は異なります。組み立てられたことで「走る」という価値が加わったからです。GDP統計はこうした付加価値を捉えようとします。

(実質、名目)
景気をみる際、殆どの場合(安倍総理の経済目標のようなケースを除き)「名目」GDPでなく「実質」GDPをみます。経済成長率は通常実質GDPの伸び率を表します。ところで、普段私たちが接するのは名目です。例えば給与を例にとると、月30万円の給与が翌年1割上がり33万円になるとします。物価が横這いの下での給与アップならハッピーです。しかし物価も1割上がっていると、1年前の30万円の給与の価値と、今年の33万円の給与の価値は同じです。「買えるもの」が不変ですから。このように物価水準やその上昇・下落の影響を捨象し、「買えるもの」に着目しようとするのが「実質」の世界です。因みにGDPについて名目を実質に換算する際用いられる数字を「デフレーター」と呼びます。名目をデフレーターで割ると実質になります。

GDPに限らず、金利に関しても名目金利、実質金利が区別されます。名目金利は普段接する表面的な金利を指します。例えば同じ名目金利1%でも、物価が1%上がる状況と、1%下がる状況では意味が大きく異なります。前者では利息がつき100円が101円になりますが、物価が上がっているので買えるものは不変です。逆に1%物価が下がるデフレ下で金利が1%も付くと、1年後に買えるものが増えます。後者の方が実質的に金利が高いことになります。「名目金利」から「(予想)物価上昇率」を差し引くと「実質金利」となります。

(潜在成長率、自然利子率、GDPギャップ)
これらの言葉も良く使われます。厳密な定義はさて置き(私は経済学者でないので…)、潜在成長率は「その国の実質GDPが自然体でどの程度増加する実力を持つか」意味します。後で説明するように、毎四半期や毎年度のGDPについてはその需要(支出)面から分析を行いますが、潜在成長率は「富/付加価値をどれほど作れるか」供給側から捉えます。富を生み出す源泉は、労働力、資本(設備)、技術です。人が増えれば、設備が増えれば、技術が上がれば、経済は成長するとの考え方です。この3つの要素を分析し潜在成長率を推計します。内閣府は+1%、日銀はゼロ%台後半としています。この潜在成長率に見合う「実質」金利が自然利子率です。潜在成長率が+1%なら自然利子率も大体1%です。

実際の経済成長率が潜在成長率を上回ると(日銀の7月末の展望レポートでもこうした表現がありましたね)、経済の調子が良いこと、そして物価も上がりやすいことを意味します。自然体での成長を上回るには、残業してもらったり、設備を休日に動かす必要が生じます。そうなると賃金が上がり、物価も上がっていくと考えることが自然です。潜在成長率は変化率ですが、GDPの実際の需要額と、自然体でどの程度付加価値を作ることが出来るかとの供給力(この供給力を微分し変化率を求めたものが潜在成長率です)を比較したものがGDPギャップです。GDPギャップ(需要マイナス供給)がプラスであるほど景気が良い(物価も上がる)というのは、イメージしやすいと思います。

さて、次にとても技術的な、しかしGDPをみるうえで不可欠な言葉を紹介します。

(年率)
内閣府は3か月ごとにGDP統計を公表します(同じ四半期の計数について何度か改訂値も出ます)。そして、例えば「4~6月」のGDPと「1~3月」のGDPを比較します。これが前期比です。しかし人間の性として、3か月ごとの変化より、1年間の変化をみたいとの欲求にかられます。単純なやり方は前年と比べることです。例えば「2018年4~6月」の数字と「2017年4~6月」の数字を比べます。これで良いのですが、内閣府を始め多くのエコノミストは前期比を年率に換算した数字を用います。「2018年1~3月」と「2018年4~6月」の数字の変化(=前期比)の勢い(増加も減少もあります)のまま1年間続いたら、どの程度変化するかという数字です。単利と複利のような話ですが、専門家でなければ前期比を4倍すれば大体年率に近付きますが、ここでは四半期の変化を4乗します。例えば1~3月期が100、4~6月期は101とすると、前期比は101と100を比較し1.01(+1%)ですが、年率換算では1.01を4乗し(1.0406…)四捨五入して+4.1%となります。

(寄与度)
寄与度もとても大事な概念です。例えば先ほどの100が101になった例で、もとの100がAとBの2つの項目の足し算だとします。そして1~3月はA80、B20だったが、4~6月はA79、B22、合計101になったとします。全体の前期比は+1%ですが、この1%はAの減少とBの増加の帰結です。A自体の前期比は80と79を比較しー1.25%、B自体の前期比は20と22を比較し+10%です。寄与度は、全体の前期比+1%の要因説明を目指します。+1%は1~3月の100と全体の変化1の対比です。変化1はAの変化-1とBの変化+2に分解できます。Aの寄与度は100と-1を対比して-1%、Bの寄与度は100と2を対比して+2%となります。寄与度の合計は全体の変化率と一致します。寄与度をみることで、変化の要因を分析し理解することができます。

(季節調整)
ややマニアックなのがこの季節調整です。例えば1~3月と4~6月を比べると、平年の場合前者は90日、後者は91日です。また後者はゴールデンウイークを含みます。そうすると、例えば個人消費のような数字は後者の方が大きくなることが自然です。しかし、この自然な増加が、景気が良くなったためなのか、単に日数や連休の違いなのか、専門家は見極めたいとの欲求にかられます。このため計数を操作し、単純に言えば前者の数字を少し膨らませ、後者の数字を少しへこませたうえで、変化をみます。これが季節調整です。私も深いことは知らないのでこの辺で止めますが、統計の専門家はこうしたことにまで神経を使うわけです。

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