2020/06/29 06:30 | by Konan | コメント(1)
Vol.62: IMFの2つの報告書
Saltさんと被る恐れがありますが、IMFが先週公表した2つの報告書を取り上げます。なお、気候変動問題は次回以降あと2回ほど書く予定です。
IMF(国際通貨基金)の2つの旗艦報告書である世界経済見通し(World Economic Outlook:以下WEO)と国際金融安定性報告書(Global Financial Stability Report:以下GFSR)の最新版が先週公表されました。話題になった4月版のアップデートの位置付けです。
経済見通し(実質経済成長率見通し)は4月見通し対比下方修正されました。このブログは表を載せ辛くアナログな描写になりますが、2020年について、「4月見通し⇒今回」を並べると以下の通りです。リーマン危機時の成長率の落ち込みが-0.1%(2009年)にとどまったことと比べると、本当に大きな落ち込みです。当時は中国を中心とした新興国・途上国が世界経済の下支えとなりましたが、今回は危機が世界中に広がったことが特徴です。
世界全体:-3.0%⇒-4.9%
先進国:-6.1%⇒-8.0%(米国:-5.9%⇒-8.0%、ユーロ圏:-7.5%⇒-10.2%、日本:-5.2%⇒-5.8%)
新興国・途上国:-1.0%⇒-3.0%(中国:+1.2%⇒+1.0%)
4月見通しの際、3つのダウンサイドシナリオが用意されました。そのひとつが「新型コロナウイルス感染症の終息(収束)が遅れると2020年の成長率が3%下振れる」というもので、実際にこれに似た状況が起きているということと思います。
2021年については、世界全体で+5.4%成長への回復が見込まれます。先進国で+4.8%(米国+4.5%、ユーロ圏+6.0%、日本+2.4%)、新興国・途上国で+5.9%(中国+8.2%)です。
IMFは、基本的な(ベースライン)見通しのほか、アップサイド(上方修正)、ダウンサイド(下方修正)双方のシナリオを用意することが普通です。しかし、4月は3つのダウンサイドシナリオしか用意されなかったことが特徴的でした。今回のWEOの唯一明るい点は、アップサイドシナリオも用意されたことです(ダウンサイドシナリオは2021年初に第2波が起きることを見込んでいます)。この「より速い回復」シナリオでは、上記のベースライン見通し対比、2020年のGDPが1.5%ほど、2021年のGDPが+3%ほど上振れます。
GFSRでは、この間の金融環境の改善を記述しています。その背景として世界の中央銀行の迅速かつ大胆な政策対応が指摘されます。そのうえで、以下のフレーズが書かれます。
Amid huge uncertainties, a disconnect between financial markets and the evolution of the real economy has emerged, a vulnerability that could pose a threat to the recovery should investor risk appetite fade.
大幅な不確実性が蔓延する中、金融市場と実体経済の動向に乖離が生じており、この脆弱性を背景にリスク選好の低下が景気回復の中断につながる恐れがある(IMFの公式日本語訳)。
High levels of debt may become unmanageable for some borrowers, and the losses resulting from insolvencies could test bank resilience in some countries.
債務水準が高すぎて返済不能に陥る借り手が生じ、借り手の破綻に伴う損失によって銀行の強靭性が試される国も出てくるかもしれない(同上)。
WEOにもこのGFSRを受け以下の記述があります。
The extent of the recent rebound in financial market sentiment appears disconnected from shifts in underlying economic prospects – raising the possibility that financial conditions may tighten more than assumed in the baseline.
このところの金融市場のセンチメントの回復度合いは、その土台となる経済見通しの変化と乖離しているように見受けられ、今後ベースライン予想以上に金融環境がタイト化する可能性が生じている(同上)。
一言で言えば、IMFは最近の市場の回復を「浮かれ過ぎ」と感じているようで、その揺り戻しが生じた際に実体経済や金融システムに起き得る影響を心配しています。
IMFに限らず公的当局は心配性です。それが仕事とも言え、IMFを信じ委縮する必要はありません。ただ、とくに最近の株価の回復に関し不思議に思う人が多いことも事実と思います。この点に関し以下のような仮説を聞きます。
・中央銀行の政策が過激であり、市場金利は低下し流動性が溢れている。金融資産に資金が向かうことは自然な流れ。
・今回は勝ち組(Amazonなど)と負け組(航空会社、宿泊、資源関係)の差が明確。勝ち組に限れば株価上昇は当然のこと。
・今後の回復に関しV字型、U字型、W字型、L字型など様々な見方がある。しかし、L字型を除きいずれも2022年頃までを見通せば景気は回復していることになる。1930年代の世界恐慌とは違う。そうであれば、弱気になる必要がない。
・(IMFの「より速い回復」シナリオ同様)人類は賢く感染症に対応する。第2波も第1波時のようなロックダウン無しで乗り越えることが出来る。各種見通しが悲観的に過ぎる。
それぞれ一理あります。ただ、一番目の理由に関しては、市場のボラティリティが高まりやすいことも合わせて意味します。三番目、四番目の理由に関しては、ワクチン開発の成否やタイミングを含め不確実性が引続き極めて高い状況にあることも間違いありません。一喜一憂せず落ち着くことが大事ということでしょうか。
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One comment on “Vol.62: IMFの2つの報告書”
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新世界が来る。それは何かは誰も知らない。ただ生存に必要なものを基準にして、そのほかのものがつく。それから見ると、旅行、飲食、芸能、移動に関するもには少なくなる。
伝統的には芸能界は川原乞食といわれていたから、その意味は解るでしょう。
その伝統的なセンスが正しいという事を示した。
そのほかいろいろなものが表れてくる。
この状態では多くの家庭は貯蓄を増やすでしょう。それなら金利は上がらず、日銀がいくらしても、効果はない。
勝組負け組という認識すら意味がなくなると思う。
アメリカはすぐにレイオフをするから、失業者が表に出るが、わが国は違う。
どのくらいの失業者が出るだろうか?
ただ事ではないことが起きるとみている。