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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2020/03/23 06:30  | by Konan |  コメント(1)

Vol.48: 日銀金融政策決定会合2020年3月


今回は極力簡潔に。既にTwitterでも触れましたが、先週予定を繰り上げて実施された日銀金融政策決定会合を取り上げます。まず今回の決定内容を紹介し、次に欧米を含め中央銀行が何を目指しているか説明し、最後に中銀の政策公表後(恐らく)意図に反し株価が下落するケースが続く理由について触れたいと思います。

まず、16日の日銀の決定。実施「されなかった」のは金利引き下げ。現在の長短金利操作目標、すなわち短期金利マイナス0.1%と10年物国債金利ゼロ%は維持されました。後述のように金融システムの不安定化も心配される中、金融機関への打撃が大きいマイナス金利深掘りに踏み切れなかったことが理由と推測します。因みに黒田総裁の会見での公式な説明は、私の下衆の勘繰り(笑)と異なり、先々マイナス金利深掘りも選択肢だが、今回は以下に説明する3つのことが重要と考えた、とされています。

実施「された」のは以下です。このうちETF買入れ増額が物議を醸したことは、SaltさんのメルマガやTwitterの通りです。

(1)一層潤沢な資金供給の実施
・積極的な国債買入れや、下記(2)、(3)も活用した、円資金の一層潤沢な供給
・米、加、英、欧、瑞の5カ国中央銀行との協調に基づく米ドル資金供給・・・日銀がFEDに円を渡す対価にドルをもらい、担保を取ったうえでそのドルを邦銀に貸す措置です

(2)企業金融支援のための措置
・新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペの導入・・・以前のCRUのひとり言でも予言(笑)した、銀行が新型コロナウイルス対策で行う中小企業を含む企業向け融資へのバックファイナンス措置です
・CP・社債買入れの増額・・・主に大企業、中堅企業が発行する社債やCPの買入れ。追加買入枠計2兆円とされました
・何れも企業金融円滑化に直接働きかける狙いです

(3)ETF・J-REITの積極的な買入れ
・こうした市場でのリスク・プレミアム増大に対応するため、当面の間これまでの倍の買入れを行います

日銀を始め世界の中央銀行は、ここにきて超積極的な金融緩和措置に踏み切っています。無論、新型コロナウイルスの影響で落ち込む経済の下支えがひとつの目標です。しかし誰もが認める通り、今回の局面を切り抜けるためには、感染症を止めることと企業や家計への支援措置が不可欠で、金融緩和策は焼け石に水です。

無力と分かったうえでなぜ金融緩和措置を取るのか?ひとつには政治的プレッシャーがあります。中銀が何もしないことが政治や国民に非難されることは避けたいところです。また、他国中銀が緩和するのに何もしないと、自国通貨高になり首を絞めてしまいます。これも避けたいところです。

そのうえで、世界の中銀の狙いは金融システム不安定化の回避です。分かりやすく言えば、リーマン危機の再来を防ぐことです。やや単純化して説明すると以下の通りです。

今回の感染症で直接の打撃を受けるのは企業と家計です。売上や収入の激減に直面し、倒産や失業のリスクに晒されています。企業が当面取り得る手段は、手元資金(銀行預金)の取崩しか銀行から金を借りることです。銀行との間ではコミットメントラインと呼ばれる「〇〇億円までいつでも借りられる」契約を結んでいるケースもあり、それを実行します。家計(個人)にはなかなか手段が無く、預金が残っていればそれを取り崩すことが精々でしょうか。何れにしても、銀行からみると資金が急激に出ていくことになります。そうなると、銀行は自らの資金繰りが心配になり、保有資産の満期が来ても再投資を控え償還資金を手元に抱えたりたり、既存の投資を売却して資金化することを考えます。前回も説明したように「不確実性」が極めて高まっているので、銀行はこうした行動を加速します。要は「銀行が資金不足に陥る可能性」「それを回避するため資産を売却する可能性」が急速に高まっています。

中央銀行は自国通貨を無尽蔵に作り出すことが出来る唯一の存在です。上記のように金融システム全体が流動性不足に陥る事態を救うことが出来るのは中央銀行だけです。「ラガルド・バズーカ」と日本のマスコミは呼びましたが、欧州中央銀行(ECB)、FED始め皆がこぞってこの措置に乗り出しました。やり方として国債を大量に買い市場全体に資金を行き渡らせることもありますし、よりストレートに企業に資金が届くよう企業が発行する社債やCPを購入することもあり得ます。

さて、今回中銀が動くたびに株価が下がるケースが目立ちました。以下の4つの類型に背景を分類できると思います。

(1)失望を呼んだ
単純に市場の期待に応えられなかったので、失望を呼ぶケースです。ECBの最初の緩和措置の際、市場は利下げを期待し、しかしECBが利下げしなかった例が典型です。日銀同様、ECBも金融システム不安定化が心配される中、利下げに踏み切れなかったと想像します。

(2)「そこまで事態が深刻なのか」と市場が受け止めた
FEDは通常の日程や普通の時間帯と異なる決定を行いました。FEDは「善意」だったと思いますが、市場が「FEDがここまでやるほど物事は深刻なのだ」と受け止めてしまい、株売りを加速した可能性があります。

(3)売り場を与えてしまった
かつて財務省が円安(ドル高)を目指し円売りドル買い介入を行った際、逆に円高ドル安に動くケースも時折みられました。介入の相手となり財務省にドルを売る民間側が「絶好のドル売りのチャンス」と受け止めたためです。日銀のETF・J-REIT買い増額が、絶好の売り場と思われた可能性があります。

(4)材料出尽くし
中銀の施策がある程度予想でき、サプライズが無いかの見極めのみでその公表を待つケースです。サプライズが無ければ材料出尽くしとなり、中銀の政策と関係なく相場の流れで動きます。

FEDやECBがどこまで株価を気にしているか分かりませんが、日銀は少しがっかりしたのでしょうね。

今回は以上です。中銀はやれること、やるべきことを出し尽くしました。今度は政府の番です。CRUのひとり言そろそろ一休みしたいのですが、来週は今週26日(木)公表予定の内閣府月例経済報告を紹介します。漸く政府の景気判断が修正されるか否か、その一点が注目です。

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One comment on “Vol.48: 日銀金融政策決定会合2020年3月
  1. 健太 より
    素人考え

    どのように素人考えをしても現在の資金供給体制では、やがてはすべてを中央銀行が買わざるを得なくなると思う。マルクスが言う国家資本主義に至るのでは?マルクスが言ったのか知らないが、中央銀行がすべてを株式社債国債を保持することになると思う。国家資本主義に至るのでは?
    仮に今日銀が購入した株がその後上昇すれば、利益が得られるが、それは市場から資金を吸収したことになるから、その減った分を経済が補えばいいがおぎなえないなら、元の木阿弥でしょう。
     どちらにしても複式簿記における借財の処理に過ぎないから、中央銀行が金を購入して、その時1グラム10万円で購入すれば、金保持者のバランうシートは改善する。それで次の経済が動けば其れでいいのではないかと思う。
     現在の選択はいかにして、被害を少なくして、次の世界へ行くのかです。
    歴史を見るとそれは戦争によることが多い。戦争は鎖国してするか、同盟国をもってするかですから、国際社会は大きく分かれる。
     現在の状態は補給がものうぃうから、戦時と同じです。問題はその補給物資が作れるか・また運べるか。
     わが国は戦時体制というものを知らない国民ばかりだから 、多分大混乱に陥ると予測している。そのあとは全く別の世界が来ていると思うがそれはどのようなものかは予測できない。ただわが国の上層部は大東亜戦争末期と同じ状態になるとみている。ひどいものでしたよ。責任を自覚した人もいたが、何かしらかけている人がおおかった。

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