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2019/11/04 06:30  | by Konan |  コメント(5)

Vol.34: 大山鳴動?日銀決定会合2019年10月+α


今回は主に日銀の10月の金融政策決定会合(10月31日公表)を取り上げます。+αは、10月の内閣府月例経済報告(18日公表)と先日のFRBの利下げです。今回とくに日銀の決定会合に焦点を当てるのは、前回(9月)「次回の金融政策決定会合において、経済・物価動向を改めて点検していく考えである」と宣言し、今回の政策変更の可能性を匂わせていたからです。結局、今回はフォワードガイダンスの修正を除き大きな政策変更は無く、「大山鳴動」とタイトルに記しました。

内閣府を含め、恒例の景気判断から。

(現状)
全体:輸出を中心に弱さが長引いているものの、緩やかに回復している(内閣府)輸出・生産や企業マインド面に海外経済の減速の影響が引き続きみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大している(日銀)
個人消費:持ち直している(内閣府)消費税率引き上げなどの影響による振れを伴いつつも、雇用・所得環境の着実な改善を背景に緩やかに増加している(日銀)
設備投資:機械投資に弱さもみられるが、緩やかな増加傾向にある(内閣府)増加傾向を続けている(日銀)
住宅建設(投資):このところ弱含んでいる(内閣府)横ばい圏内で推移している(日銀)
公共投資:底堅さが増している(内閣府)横ばい圏内で推移している(日銀)
輸出:弱含んでいる(内閣府)弱めの動きが続いている(日銀)
輸入:おおむね横ばいとなっている(内閣府)記述無し(日銀)

(先行き)
全体:当面、弱さが残るものの、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、通商問題を巡る緊張、中国経済の先行き、英国のEU離脱の行方等の海外経済の動向や金融資本市場の変動の影響に加え、消費税率引上げ後の消費者マインドの動向に留意する必要がある。また、令和元年台風19号など相次ぐ自然災害の経済に与える影響に十分留意する必要がある(内閣府)当面、海外経済の減速の影響が続くものの、国内需要への波及は限定的となり、2021年度までの見通し期間を通じて、拡大基調が続くとみられる(日銀)
個人消費:持ち直しが続くことが期待される。ただし、消費者マインドが消費に与える影響に留意する必要がある(内閣府)消費税率引き上げの影響からいったん下押しされると見込まれるが、(中略)緩やかな増加傾向をたどるとみられる(日銀)
設備投資:緩やかに増加していくことが期待される。ただし、企業マインドが投資に与える影響に留意する必要がある(内閣府)(注:長い前置きの後)緩やかな増加を続けると予想される(日銀)
住宅建設(投資):当面、弱含みで推移していくと見込まれる(内閣府)記述無し(日銀)
公共投資:関連予算の執行により、底堅く推移することが見込まれる(内閣府)2020年度にかけて増加を続けたあと、高めの水準で推移すると予想している(日銀)
輸出:持ち直していくことが期待される(内閣府)緩やかに増加基調に復していくと予想される(日銀)
輸入:持ち直していくことが期待される(内閣府)記述無し(日銀)

内閣府の方は、「輸出を中心に弱さが長引いている」と認め、また、消費税率引き上げやこのところの災害の影響に留意するとのトーンになっています(補正予算の前振りの意味もあると思います)。

さて日銀。今回は所謂展望レポート公表月に当たり、政策委員会メンバーの見通しの数字が示されました。前回以降少し下方修正されています。具体的には、9人のメンバーの上からみても下からみても5番目となる中央値でみると、前の展望レポート公表時(7月)は、2019年度から2021年度にかけ、実質GDPは+0.7%、+0.9%、+1.1%、消費者物価指数は+1.0%、+1.3%、+1.6%でしたが、今回10月は、実質GDP+0.6%、+0.7%、+1.0%、消費者物価指数は+0.7%、+1.1%、+1.5%です。2%の物価目標は2021年度も未達で、引続き金融緩和の長期化が見込まれる予想値となっています。

そのうえで、今回の目玉は、「物価安定の目標」に向けたモメンタムの評価と、フォワードガイダンスの修正です。背景説明資料も別途公表されていますが、下記URLの3頁以下にエッセンスが記されています。ポイントは以下のとおりです。

・前回の金融政策決定会合において、海外経済の減速が続き、その下振れリスクが高まりつつあるとみられるもとで、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、より注意が必要な情勢になりつつあると判断した。

・今回、「マクロ的な需給ギャップ」と「中長期的な予想物価上昇率」等に関して点検を行った。

・(結論としては)「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、一段と高まる状況ではないものの、引き続き注意が必要な情勢にあると判断した。

・このため、(他の政策変更は今回は行わないが)新たな政策金利のフォワードガイダンスを決定した。
「日本銀行は、政策金利については、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。」

・「マクロ的な需給ギャップ」(注:1年以上前このコーナーで説明したことがありましたが、日本経済の実力に見合った平常時の供給能力に比べ実際の需要が強ければ=需給ギャップがプラス=きっと物価が上昇していくだろうし、その逆の場合=需給ギャップがマイナス=にはきっと物価が下落していくだろう)は、いったん、プラス幅を縮小するとみられる(注:要は目先の成長率が日本経済の実力である潜在成長率をいったんは下回るだろうということです)。もっとも、2021年度までを通じてみると、景気の拡大基調が続くもとで、マクロ的な需給ギャップは、均してみれば現状程度のプラスを維持すると考えられる。

・中長期的な予想物価上昇率は、総じてみると、横ばい圏内で推移している。先行き、マクロ的な需給ギャップがプラスを維持していくもとで、中長期的な予想物価上昇率は、上昇傾向をたどると考えられる。

・なお、原油価格や国際金融市場の動向も、落ち着いてきている。

日銀らしく難解ですが、想像するに、今回利下げ等の札を切ることは避けたい考えつつ、同時に将来への含み=次は利下げ=を持たせることで、円高化も避けようとしたのではないかと思います。ロジックとしては、物価は「マクロ経済の状況」と「物価上昇率の期待値」と「その他のノイズ」(原油価格等)で決まるという常識的な枠組みの下で、やや楽観的な成長率見通しを前提に、均してみればプラスの需給ギャップが維持されるという構成です。これが当たるか否かは、消費税率引上げの影響の大きさに加えて、現状見られている海外経済の減速が早めに収束するか、それとも2020年にかけても冴えない状況が続くのかによるのだと思います。

さて、海外経済と言えばFRBが三度目の利下げを行いました。米国経済について、ぐっちー亡き後私もどうフォローしたものか悩んでいます。ぐっちーほど詳細に諸指標を見た人は日本人では皆無で、米国でも数少ないと思います。私が出来ることは、精々FOMCの決定文と事後出される議事要旨とパウエル議長の講演を読むくらいです。

恐らくぐっちーは、最近のFRBの利下げを忸怩たる思いで見ていたのだと思います。国内経済が好調なうちに利下げを行うことは常識的ではありません。議長就任直後、パウエル議長は講演の中で「利上げをすることで必要以上に景気を減速させてしまうリスク」と「利下げをすることでシステムに不必要な不均衡をためてしまうリスク」を考慮しつつ、良いバランスを模索する旨の発言を行いました。また、今はインフレ率が高まらないので、利上げを急ぐ必要はなくpatientでいられる(じっくり我慢できる)とも話しました。そうしたバランス論の下、利下げをしても恐らく余りリスクは無く、逆に利下げをしないとトランプ大統領の介入により中銀の独立性が損なわれることを天秤にかけたのではないかと想像します。ぐっちーの最後の頃のメルマガにも、こうした趣旨の記載があったように思います。

因みにFOMCのstatementを前回9月と比べると、経済の見方などの骨格は不変です。

・労働市場は強く、経済活動はmoderateなテンポで増加している。
・家計消費は強いペースで増加しているが、企業設備投資と輸出は弱い。
・物価は2%以下の率で上昇。インフレ期待は、市場データに基づく測定では弱く、アンケートベースでは余り変化していない。
・国際的な動向(developments)が経済見通しに与える含意やインフレ圧力が強くない(muted)ことを踏まえ、利下げを決定した。

9月と10月の比較では以下の部分が変化しており、これを見て報道ではとりあえず利下げは一段落で様子見段階に入ったとされています。

(9月)
As the Committee contemplates the future path of the target range for the federal funds rate, it will continue to monitor the implications of incoming information for the economic outlook and will act as appropriate to sustain the expansion, with a strong labor market and inflation near its symmetric 2 percent objective.
(10月)
The Committee will continue to monitor the implications of incoming information for the economic outlook as it assesses the appropriate path of the target range for the federal funds rate.

要は9月にあった「will act as appropriate」以下の決意表明が10月では消え、当面利下げは無いだろうという訳です。この解釈が正しいか否か、天国のぐっちーに聞いてみたいものです。

次回は、旧ひとり言以来の恒例である日銀金融システムレポートを取り上げます。

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5 comments on “Vol.34: 大山鳴動?日銀決定会合2019年10月+α
  1. ベルドン より
    いいね

    アドレスを入れないと、「いいね」が出来なくなった。気楽に打てなくなった。
    永田町や霞が関・日銀の妙な腰使いを見ていると、元西村銀行局長が語る、米国を上目遣いに見る習性は堅持されているらしい。彼は言外に、海図と灯台のない荒海に、独自に船を出していく決意を、日本に求めていたが、それは叶わぬ夢でしょうね。

    マイナス金利が当たり前の金融界は、それ以前とは明らかに分水嶺を超えてしまった。投資家達は破れかぶれの状態で、株式投資に乱入せざるを得なくなっている。必然、ウオール街も投資家も、トランプ再選を大前提に、饗宴に参加せざるを得ない。

    怖いのは、サンダース議員が民主党大統領候補となり、当選することで、そんな事が起これば、大パニックが生じることでしょうね。だが、得てして歴史は皮肉な一手を打つ場合もある。今回はどうだかわかりませんが。

    ぐっちーさん亡き後の米国経済動向、戦略家としての目で観察、報告してもらえるだけで、大変重要な要石の存在に・・・
    ( ^ω^)

  2. ぺルドン より
    ゼロ金利

    スエーデンがマイナス金利政策を止め、ゼロ金利に修正するそうですが、
    konanさんは、この動きどう観ておられますか・?
    ( ^ω^)

  3. 筆者です より
    勉強します

    スウェーデンに関する指摘ありがとうございます。ネットで見たところ、12月の会合でマイナス金利からの脱出が決定されるのではとの予想が広まっている状況と思いました。
    もう少し勉強したいと思いますが、恐らく二つの異なる側面があると思います。
    一つは、そもそもマイナス金利が政策手段として適切かという点です。金を借りて利息を貰えるという不自然さ、金融機関収益への負の影響などの論点です。
    二つ目は、スウェーデンの金融経済情勢。今世界の少なからぬ場所で不動産バブル的事象が生じており、北欧も例外ではないようです。この対応に金融政策を用いるか、別の政策、例えば不動産業向け融資の規制を行うかという論点です。

  4. ぺルドン より
    金融潮流

    潮目が変わるのか・?
    コナンさんの卓見をお待ちしております・・・
    ( ^ω^)

  5. 健太 より
    マイナス金利に対する素人意見

    理屈はわっかるがなぜそれをするか?金を借りる経済ではないということだとおもう。それならケインズのいうことをするばいい、政府が金を借りて、ドイツのアウトバーンのようなものをつくればいい。
     財政赤字をどんどん増やせばいい。空地の土木工事の機械がのさらしになっている。これを財政赤字のかねで、動かして治水をすればいい。
     さらにいいことは、戦争をすることでしょう。ただケインズのころの戦争と今の戦争は質が異なるから、それすらも、解決の道になるかは疑問です。
     戦争の経済的側面と、戦争をする戦争目的の乖離が激しいからです。
    知人が<今の商売はお互いが潰しあいをしている。これに勝たなければ先はない。>という。世界が経済発展をする経済ではなく、潰しあいをする経済となった。銀行経由で資金が外へ出るのではなく、預貯金が外へ出ていく、経済ではないか?その一環としてのマイナス金利ではないか。つまり戦争でいうと一つの戦術に元ずく戦闘で、弾薬が尽きたところから、脱落して、部隊は全滅となるのでは?

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