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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2019/08/19 06:30  | by Konan |  コメント(1)

Vol.28: 残暑見舞い+二題話し


残暑お見舞い申し上げます。先般の台風で被害に遭われた方(そして水の事故に遭われた方)には、心よりお悔やみを申し上げます。交通の混乱に巻き込まれた方、お疲れ様でした。

今月は1回のみ執筆の予定でしたが、知人に質問を受けたこともあり、ごく手短かに2点書こうと思います。一つは米国の逆イールドカーブ、もう一つは日本の4~6月期GDP1次速報です。

逆イールドカーブについて何か言うと、ぐっちーに笑われそうな気がします。ある種のジンクス、あるいは迷信のような話しですが、結構市場にインパクトを与えています。米国の10年物国債金利が低下を続け、ついに2年物金利を下回る逆イールドとなりました。ジンクスと書いたのは、近時、こうした逆イールド状態が起きると、その1、2年後に米国経済が後退を迎えるとの「法則」が観察されるからです。

冷静に考えると、逆イールドと景気後退に因果関係はありません。言い換えると、逆イールドになったことが原因・引き金となって景気後退が起きることはありません。それでも近時こうした法則が観察されるのは、市場には先を読む力があるから、あるいは、逆イールドをもたらす市場の弱気化が、経済主体のマインドに何某かの悪影響を与えるから、と考えることが可能です。

敷衍すると、イールドカーブは順イールド(10年物金利の方が2年物金利より高い状態)が通常です。10年物金利は、「現在の2年物金利」「2年後における2年物金利の予想値」「4年後における2年物金利の予想値」「6年後における2年物金利の予想値」「8年後における2年物金利の予想値」の5つの組み合わせから構成されます。仮に先行き10年間金融経済物価情勢が不変と思うと、この5つは同値になります。そうであれば、2年物金利と10年物金利は同水準となるはずです。しかし、資金の出し手からみると、「10年間も資金を縛られる対価が欲しい」(借り手からみると「10年間も借りられる対価を支払ってよい」)と考えるので、何らかのプレミアム(上乗せ)を求めます。10年間金融経済物価情勢が不変と考えたとしても、このプレミアム分、10年物金利が2年物金利を上回るはずで、これが順イールドの背景です。逆イールドが生じるということは、このプレミアム分を超え、先行きの金融経済物価情勢が今より弱くなるとの見方を市場関係者が抱いていることを意味します。近時、こうした市場関係者の「予感」が的中してきたということは言えると思います。

しかし、現在の10年物金利は1%台半ば。これはどう考えても低過ぎます。金利は基本的には先々の実質経済成長率見通しと物価上昇率見通しと上記のプレミアムを合算したものになるはずです。2%の経済成長率と物価上昇率を実力として持つ米国であれば、4%近傍であってもおかしくありません。今回の逆イールドに関しては、米国以外の資産や、最近乱高下が激しい株式市場から、安全資産である米国債への資金退避が背景とみる方が自然に思います。

無論、いくら強靭な米国経済であっても、いつか景気後退を迎えることがあると思います。そして「今回の逆イールド化がその後退を予知した」と将来言われるかもしれません。ただ、繰り返しになりますが、先々の景気見通しの弱気化を超えた、行き過ぎた逆イールド化である気がどうしてもしてしまいます。

次に、9日に公表された日本の4~6月期GDP1次速報。多くの事前予想を上回る高い伸びとなりました。実質GDPの成長率は、前期比+0.4%、年率換算(この勢いで1年間成長を続けたと考えた場合の成長率)+1.8%。3四半期連続の成長となりました。

内需、外需別にみると、外需は-0.3%の寄与度、内需は+0.7%の寄与度です。寄与度は、今回で言えば+0.4%の成長率の背景を要因別に分解した数字で、外需が足を引っ張ったが、内需がかなり伸びたことになります。

外需について言えば、輸出もマイナスですが、輸入が伸びたことがマイナスの寄与度の背景です。以前も説明しましたが、輸入はGDPから控除される(差し引かれる)項目なので、輸入が伸びると控除額が増えてしまい、GDPが減少します。

内需について言えば、民間需要は+0.5%の寄与度、公的需要は+0.2%の寄与度です。公的需要は予算執行に伴うものですが、民間需要の中で個人消費、設備投資のいずれも良かったことがサプライズとなりました。

設備投資は私自身もう少し弱めと思っていましたが、人手不足に伴う省力化投資を始め、引続き企業の投資意欲が落ちていないことが確認されました。他方、個人消費は空前絶後の10連休が大きく影響したようです。また、余り大きくはありませんが、消費税率引上げ前の駆け込み(自動車など)もみられたようです。逆に言えば、これらを背景とした個人消費増は長続きせず、むしろ反動減も心配されます。

こう考えると、数字ほど喜べないのが日本経済の実情という評価が穏当でしょうか。

では、次は9月2日に。

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One comment on “Vol.28: 残暑見舞い+二題話し
  1. ペルドン より
    行き過ぎた逆イールド化

    素人ですが、そんな気がします。
    選挙が近づくと、経済は心理戦でもあるのだから、逆イールドの罠を張りやすい。
    FRBのトップを選んだのは、トランプ大統領だから、巧く木馬を掴まされた感もしないではありませんね。
    1%下げろとツィッターでの叫びが、通じるか・?
    無視してもしなくても、再選されたら、トランプ大統領、FRBを民間から官営に換える大ナタを振るう雰囲気は出ていますよ。

    日本の経済・・太平洋戦争中の既視感を感じます・?!
    これで消費税アップ・! 文大統領の御仲間が、官邸や霞が関に居らしゃるんじゃありませんか・??・・・( ^△゜)

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