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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2013/06/24 09:00  | by Konan |  コメント(4)

Vol.198: 選挙、そして憲法(その3)


憲法について、もう一度。今回は憲法9条以外の側面を取り上げます。

まず、統治機構に関する点から。現在の憲法では、国会、内閣、司法のいわゆる三権に関する規定が置かれ、それとは別途地方自治に関する規定も置かれています。このうち、国会については、衆参両院を設置すること、法案等は両院による可決を以って成立すること、ただし予算は衆議院の議決が優先し、その他の法案も衆議院の2/3以上の賛成があれば、参議院の議決をオーバーライドできること、などが規定されています。

国会・議会に2院を置く例は他国にもあり、牽制効果(一院の暴走を許さない)がその理由と説明されます。そのうえで、予算のように前年度末までに成立していないと国政の運営上極めて困るケースに関し、衆議院の優越を明記し、実務とのバランスを図る構図です。しかし、現在の日本のように、衆参で多数会派の構成が異なるケース(ねじれ)では、国政の停滞を招くリスクを孕むことも、ここ数年の経験の中で、皆が実感したところです。また、現実問題として、衆参両院に見識のある国会議員を多数確保することは容易でありません。所謂二世議員とチルドレン議員が多数を占める状況が本当に望ましいか、疑問です。その意味で、憲法改正を行うのであれば、思い切って一院とすること、仮に二院を維持する場合でも、予算以外の法案でも予算同様衆議院の優越を認めること(なお、憲法に規定する話ではありませんが、日銀総裁や公取委・人事院委員長のような枢要ポストの承認についても同様にすること)が良いと感じます。

地方自治に関し、改めて憲法を読んでみると、

第92条:地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

第93条第1項:地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
第2項:地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

第94条:地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

といった極めて基本的事項しか定められていないことに気付きます。所謂道州制導入の議論などは、憲法マターではなく法律マターの位置付けです。仮に憲法を改正する場合、こうした地方自治制度の根幹に関わる点をどこまで憲法に盛り込むべきかも、論点になるかもしれません。

最後に国民の権利、義務について。自民党が公表している憲法改正草案をみると、以下のような文言が並んでいます。

「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り」
「和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する」
「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない」
「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し」
「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」

読者により感想は大きく異なると思います。上記のような文言をとても自然に受け止められる方も多いと思いますし、強い違和感を持つ方も少なくないと思います。今年、ぐっちーとバレンタインデートをさびしくした際(ちなみに、その際使った店も近々閉店で、寂しい限りです)も、高校時代を思い出し、「我々の校風と上記の文言は相容れないね」と話した記憶があります。

憲法改正議論はどうしても第9条に目が向き勝ちです。ただ、多くの憲法学者が語るように、憲法はもともと「国家」に対する不信感から出発し、国に箍をはめ、国民を守るために制定されるものです。前々回書いたように、現在の96条の要件はさすがに厳し過ぎると思いますが、安直に改正されないようにされているのは、国にはめた箍を緩めようとする動き、あるいは国民の権利を抑制しようとする動きを防ぐためです。感情論や道徳論を越え、国と国民の関係のあり方を規定するのが、憲法と思います。

そうした観点に立つと、自民党の改正案は情に流れ過ぎたように感じます。「情」自体の是非についてはいろいろな考え方があると思いますが、例えば家族を大事にせよといったことは、憲法に書かれるものではなく、皆が自然と学び取っていく類の話しと思います。

国民投票法では、憲法改正原案の発議は内容において関連する事項ごとに区分して行うとされているので、実際に憲法改正が具体化する場合、戦争の放棄、国会、地方自治、国民の権利、天皇制などの項目ごとに案がつくられ、それぞれに賛否が問われると想像します。国民の権利については、自民党の草案でも環境権、知的財産権など新たな権利への配慮が規定されており、こうした点への賛成者は多いと思います。他方で、上記(家族など)のような修正への反対も強いと思います。このようにひとつの関連事項のグループの中で賛否が分かれる場合の扱いなど、実際に憲法改正を国会や国民に諮る際に直面する実務的な論点を解決していくことも、憲法改正の内容を巡る議論とあわせ、必要になってくると思います。

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4 comments on “Vol.198: 選挙、そして憲法(その3)
  1. ペルドン より
    自民党が公表している憲法改正草案

    町内回覧板並・・
    電柱に・・貼られる標語並・・
    お寒い限り・・
    憲法改正・・不必要では・?

    憲法・・
    民族のエッセンス・・思想そのもの・・
    憲法改正反対ではないが・・・

  2. Audley End より
    日本は

    世界でも類をみない、ものすごく柔軟かつ創造力豊かな国で、それは、縄文や弥生時代にまで遡り、日本人のDNAの中に組み込まれているんじゃないかな~とも思える、日本の強さのひとつだと思います。

    ただ、コワイな~と思うのは、気づかぬ間に、全体の方向が当初意図していたのとは違う方へ行ってしまう場合があることです。 そうなると、軌道修正するのがかなり難しくなります。 その原因はいくつかあると思いますが、失敗の経験を生かさないと、同じ轍を踏むことになるのではないでしょうか。 海外から「日本人は極端から極端へ走る」ように見られることがあるのも、そういったことに起因しているのかもしれません。

    予兆があれば、早めに対処すれば傷口もそう深くはなりませんが、予兆をキャッチするには、それぞれの温度差がありますし、協調性が重んじられる社会では、どうしても決断・実行までに時間がかかります。

    憲法問題は、かんべえ先生もおっしゃっているように、近道は禁物だと思います。 その代償は、大きいです。 そして、海外は日本の動きを注視しています。 深慮の無い発言や行動が及ぼす影響が、思わぬ事態を生むこともあり得ます。 慎重さがより一層、求められていると感じます。

  3. パードゥン より
    社会システムと憲法は一体です

     任免権についてアメリカ型のイメージをお持ちのようですが、商売人をトップに政治任官できるアメリカは、不正に対するバランスとして内部告発が高位高官から庶民まで行う人がいて、発表受皿としてのメディアもしっかりとしています。そのアメリカもニクソンのウォーターゲート後はメディアも返り血をあびて弱体化したとはいえ、まだまだ日本よりはしっかりしています。 キリスト教の背景として神への約束、正義を大切にする文化の裏づけもあるのかも知れません。  インターネットも商業独占を防いでくれた人がいたから庶民が今、恩恵を受けています。 最近でいえばイランへのアメリカ軍大将クラスの関与や非正規社員のハッキング告発は、背景にイラク攻撃に問題があったのではという意識のもとでバランスがアメリカ国内で働いていたのでしょう。  日本では、どちらもありえませんね。

     日本は朝日でさえ投稿者の保護に興味のない実名主義で、告発は極めて困難な社会です。 シモン委員会の利益誘導主義でさえどうにもならないのに、国運営のトップの任免権だけアメリカ型にした場合は、和を重んじ、家族を大切にすると告発が家族の及ぶ迷惑を考えたらブレーキ機構なしにアクセル強化をCRUさんは希望している事になります。  勉強の出来た公務員の方って、草食系で告発なんかできない方が多くありません?

     社会のシステムも文化も違うのに、アメリカの真似をしたら悲惨になりますよ。
    海上保安官はどうされていますか? どのメディアも興味を示さないですが。

     それと小説の書けなくなった小説家や、旧制高校でまともに勉強しなかった大勲位の書く憲法文章なんて期待できないですよ。 文章より中身が大切なのに気づいていない段階で失格! 尊敬していて発言を引用してる元弁護士の若者リーダーの気持ちを理解せずに、切捨てちゃう元小説家に憲法で必要な理念があるとは??ですよ。
    あんた言ってなかった?と泣き言を言わないだけましだけど、これって特攻を提案して自分は乗らなかった人と特攻隊員の関係みたい。 

     かんべい先生が、時間をかける必要があるという直感は、社会システムや文化の変化に時間がかかるし、社会システムや文化をかえてまで、怪しげ憲法にする必要があるということではないでしょうか?

  4. 肉うどん より
    民主主義

    >憲法はもともと「国家」に対する不信感から出発し、国に箍をはめ、国民を守るために制定されるものです。

     納得しました。

     官僚、在野の賢人のご意見を賜りましたので、是非、ぐっちーさんのご意見をお聞きしたいものです。

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