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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2013/05/06 09:00  | by Konan |  コメント(2)

Vol.191: 展望レポート


今回は、このコーナーの恒例で、日銀が半年に一度公表する展望レポートを紹介します。先々の実質経済成長見通しや物価上昇率の見通しを数字で示し、そのうえで金融政策運営の基本的考え方を明らかにする日銀の最重要レポートで、今回はとくに黒田体制後初めてのレポートとして注目を集めました。

マスコミでは「2015年度の物価上昇見通し+1.9%」という数字が最も注目を集めました。黒田日銀は、その異次元緩和の目的として「2年後に2%の物価上昇実現=デフレからの脱却」を掲げています。日銀が示す経済や物価の見通しは、自らの政策の効果が顕れることをひとつの重要な前提として作られています。従って、仮に今回示された数字が2%を有意に下回ったとすれば、異次元緩和では効果が不足していることを自ら認めることになります。黒田総裁は「兵力の逐次投入ではなく、やるべきこと、やれることを全て行った」と明言しているので、見通しが2%近傍でないと矛盾します。このため数字が注目されていた訳で、逆説的に言えば、日銀が2%近傍の数字を示したことは、ある意味で至極当然な帰結でもありました。

今回のレポートの最大の特徴は、こうした数字や内容というより、レポートの短さにあるように思います。白川日銀時代最後の展望レポート(昨年10月末のもの)は、「基本的見解」と呼ばれるその要旨部分が19頁にもわたりました。今回の基本的見解は8頁と半減です。長さ短さはどうでも良いと思われるかもしれません。しかし、白川総裁への最大の批判は、政策の内容そのものというより、むしろそのタイミングや説明の仕方に向けられたように思います。黒田総裁は、タイミングの点で期待を裏切らず、就任最初の政策決定で世間や市場を驚かせ、また「分かりやすさ」の面でも、例えば「バブルの心配は無い」「出口政策を今から考えるのは時期尚早」と言い切り、こうした面に強く拘った白川総裁と比べシンプルな説明に徹しています。頁数の少なさは、こうした白川体制から黒田体制への転換の象徴的出来事のような気がします。

因みに、内容面では「見通し期間(2015年度まで)の後半にかけて、日本経済は、2%程度の物価上昇率が実現し、持続的成長経路に復する可能性が高い」というのが基本的な見立てです。そのうえで、海外経済の動向や消費税引き上げに伴う駆け込み需要とその反動などに関する不確実性の指摘、あるいは「政府債務残高が累増する中で、金融機関の国債保有残高は高水準である点には留意する必要がある」と金融システム面での留意点の指摘はありますが、仮に基本的見立てが外れる場合でも、そのリスクは「上下にバランスしている」と評価しています。

紹介は以上ですが、順風満帆にみえる黒田日銀にも、既にいくつかの批判があることも事実です。政策決定直後の国債市場混乱のようなプロの投資家の話しは除くと、一方でイカ釣り漁船休漁に象徴される円安行き過ぎに対する批判や物価上昇に対するとくに高齢層からの懸念が、他方で円がなかなか100円を超え更なる円安にならないことに対する経済界からの不満が聞かれます。学者やアナリストの中では、「これだけ大胆な政策を行ったのだから何かが変わるかもしれない」との期待の声の一方、異次元緩和がデフレ脱却に結び付くとの理論的根拠が乏しいとの批判や、出口戦略を全く気にしないのは誤りとの批判が引き続き聞かれます。

そうは言っても、今はまだ蜜月期間ですし、政策の成否を判断するには時間を要することも事実です。恐らく国内的にみて最大の注目点は、来年の春闘がどうなるか(賃金が上昇に転ずるか)、消費税率引き上げ後経済はどうなってしまうのか、逆に消費税引き上げを断念するケースで国債市場の信認に問題が生じないか、といった点と思います。先の話ですが、黒田体制の真価が問われるのは、こうした点の帰趨が明らかになる来年の今頃辺りからということかもしれません。

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2 comments on “Vol.191: 展望レポート
  1. ペルドン より
    「出口政策を今から考えるのは時期尚早」

    出口・・
    分からない・・
    という事か・?

    出口考えない・・
    という事か・?

    出入り口・・
    ならば・・
    入口から・・出て行く・・
    という事か・?

    デフレから入り・・デフレに出る・・??
    袋小路に・・
    敷き詰められた・・札束・・
    札束模様の絨毯・・・(笑)

  2. パードゥン より
    暫くは大暴れしますとハワイへ出陣

     似てますねえ。 補給線もなく兵士の退路をたち、どこで、どういう手順で撤退させるかも決めていないあたり。 最後は兵士どころか一般国民も死肢累々。
    少し違うのは、戦艦大和を最初に投入した事が前回の失敗に対する反省で、”戦力は一気に投入すべし”という、まけおしみの反省か?

     戦後もジャングルで一人戦い続けた小野田少尉は、この国の運営のいい加減さにあきれてブラジルへ

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