2013/05/13 09:00 | by Konan | コメント(1)
Vol.192: 金融システムレポート
今回は、前回展望レポートを紹介したついでと言っては失礼ですが、日銀が4月17日に公表した金融システムレポートを紹介します。このコーナーを始めてしばらくの間は、半年に1度このレポートが公表される都度、その紹介を行いました。しかし、レポートの内容がマンネリ化し面白みを感じなくなり、取り上げることを止めました。個々の分析の中では、面白く刺激的な「新作」も登場しますが、全体としては「日本の金融システムはリスクへの耐性を十分備えており、健全である」「ただし、多くの金融機関と一部の地域金融機関の間で経営体力の差が広がっていることには注意が必要である」「リスク管理能力の向上、資本基盤の強化、そして収益力の向上が全ての金融機関に求められる重要な課題である」などのメッセージが繰り返され、新味に欠ける印象でした。
そうした中、今回とくにこのレポートに注目したのは、異次元緩和が金融機関経営や金融システムの安定に与える影響について、何がしか言及があると期待したからです。
残念ながら、今回はその期待は充たされませんでした。今回のレポートは3月末までを分析対象としており、4月初に行われた異次元緩和への言及は、次号に持ち越されることになったようです。その意味で、10月に公表されるであろう次号に期待しようと思います。
そのうえで、異次元緩和と関係ありそうな記述を拾うと、以下のような点が挙げられます。まずは、展望レポートでも繰り返された「政府債務残高が累増する中で、金融機関の国債保有残高は高水準である点には留意する必要がある」との記述です。
さらに金利リスクへの耐性をチェックする各種の試算が示されます。そして「ここでの試算結果は、財政の持続可能性に対する懸念などから、国債利回りが景気の上振れを伴わずに大きく上昇する場合、金融と実体経済の負の相乗作用を通じて、金融システムのリスク耐性や実体経済に相応の影響が及ぶ可能性を示唆している」とのメッセージを出しています。他方で「金利上昇が景気の上振れとともに生じる場合には、上記の試算とは異 なる結果が得られる」として、「例えば、2013 年度に、+2%pt の金利のパラレルシフトが名目GDP成長率の1%ptの上昇と株価の80%程度の上昇を伴って発生すると想定すると、信用コスト率はベースラインを幾分下回る水準で推移する。また、株価上昇によって有価証券評価損益も押し上げられるため、2013年度における国内基準行の包括利益の赤字幅は、限定的なものとなる」との結果を示しています。
次号の金融システムのレポートには、次の2点を期待します。ひとつは、上記のような金利リスクへの耐性の分析です。景気回復を伴う・伴わない、金利上昇がパラレルシフト(短期金利も長期金利も同様に上昇する)・スティープ化(短期金利は上昇せず長期金利だけが上昇する)、といった区分けは当然重要ですが、欧州危機の際、ギリシアで起こり、スペインやイタリアで起きかけた事態は、逆イールド化です。具体的には、政府の信認が急に失われ国債入札の札割れ懸念も強まり、その結果短期の金利が急騰するが、長期金利は「さすがに長い時間かければ何らかの事態収集が図られるだろう」との期待から、短い金利と比べるとかえって安定化する結果、短期金利が長期金利を上回る現象が生じました。こうなると金融機関の収益基盤は失われ、金融システムの安定性は急速に損なわれます。
もうひとつは、異次元緩和への個別金融機関毎の対応の違いの影響です。異次元緩和では、マクロ的には民間金融機関が保有する国債を日銀が吸い上げ、金融機関はかわりに日銀への預け金を資産として持たされます。この預け金の金利は0.1%。国債金利が低下したと言っても1%近くあることを考えると、収入が落ち込みます。個々の金融機関としては、ある種のババ抜き状態から脱しようと、必死に国債や日銀への預け金以外の資産を増やし、収益の落ち込みを防ごうとします。向かう先は外債、株式、貸出など様々あり得ますし、これこそ日銀が期待するポートフォリオ・リバランス効果そのものです。ただ、その巧拙が金融機関間の収益格差を生み、リスク管理の失敗による経営悪化もあり得ないことではありません。官・公の世界で言えば、日銀の政策のため、金融庁が商売繁盛になる構図です。この点の日銀としての見解にも期待したいところです。
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One comment on “Vol.192: 金融システムレポート”
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冷静な分析・・レポート・・
出すどころじゃないでしょう・・・(笑)