2013/04/29 09:00 | by Konan | コメント(3)
Vol.190: 今更ながら六重苦(その4)
六重苦シリーズ最終回の今回は、法人税を取り上げます。
経済界の主張はとても単純です。「国際的にみて法人税率が高く、競争力を殺ぐので、引き下げて欲しい」という主張に尽きます。さて、この前提である「日本の法人税率が高い」という主張はそもそも本当でしょうか?財務省のホームページでは、税に関する様々な資料が掲載されています。ぐっちーが良く「財務省が作る国債に関する数字には、財政再建路線への賛同者を増やすためのバイアスがかけてある」と主張するように、この種の数字の見方には注意が必要でしょうが、他に資料もないのでこれを出発点にすると、
(1)日本の法人税率は、先進国の中で特別に高いとまでは言えないが、高い方であることは事実で、また一部新興市場国対比では相当高い
(2)ところで、個人の所得税率は、法人税率と異なり国際的にみてどちらかと言えば低い
ということが読み取れます。少なくとも経済界が明白な嘘を語っていることはないようです。
ところで、ぐっちーは、ブログかメルマガか忘れましたが、この経済界の主張に物言いをつけています。彼の主張は「日本企業は内部留保が厚い割にそれを投資に振り向けていない。要は溜め込み過ぎである。どうせ自ら使う能が無いのであれば、法人税率を引き下げて、企業に更に内部留保させることに意味はない。法人税率を下げる必要は無く、むしろ上げても良いくらい」という内容だったと思います(因みに、誰だか忘れましたが、日経新聞の「経済教室」というコーナーで、このぐっちーの主張を意識し、反論された学者がいました。そこまでぐっちーの影響力が強まっていることに驚きました)。ぐっちーの心情は理解できます。ただ、例えばある国際的な企業が日本と他の国のどちらを拠点として選択するかといった局面では、税率の差が判断材料のひとつとなることは否めず、その意味で経済界の主張にも理があるように感じます。
むしろ経済界の主張に首を傾げるとすれば、どれほどの企業が実際に法人税を収めているかという点です。数字を確かめていないあやふやな議論で申し訳ありませんが、様々な税務上の損金算入により、多くの中小企業が法人税を収めていないという話しをよく耳にします(消費税や固定資産税などはしっかり収めたうえでの話しです)。勘ぐった言い方をすれば、日本の表面的な法人税率は、経団連に加盟するような大企業にとり国際競争力の面で不利に働くほど高いかもしれないが、課税ベースの把握の点では甘い面があり、多くの企業にとり現実には問題が無い話かもしれないということになります。
これは、さらに言えば、法人であれ個人であれ「所得」を正確に把握することの難しさを意味します。これを克服するため、一方ではマイナンバー(因みにマイナンバーは個人に限らず法人にも付される予定でした)のような試みが、他方では消費税のように徴税し易い税の比重の引き上げが行われてきました。しかし、このいずれも国民の幅広い支持を得られていないことも、また事実です。このように税の話しは袋小路に入って行き易いとても難しい論点を孕みます。
最後に。冒頭、わが国の税率は国際的にみて、法人税率が高く、所得税率が低いようであると書きました。この税制の背後には「企業から税金を召し上げ、税引後利益を労働者に配分する結果、所得差が余り開かないので、所得税率にはさほど幅を設けなくて良い」という、高度成長期における、全ての企業が発展し、また1億国民が総中産階級化を目指した国家観を感じます。米国では、富裕層への増税を巡り民主党と共和党が激しく対立していますが、この議論は、あくまで富裕層の存在を前提としたうえで、そこに重く課税する方が公平か、それともそうした層が更に活力を高め経済発展につながる姿を目指す方が得策かという議論と理解しています。わが国で仮に経済界の主張の通り法人税率を下げ、一方で課税ベース把握強化を図らないと、全体の税収は落ち込みます。財政の健全性が重要とすれば、所得税か消費税か別にしても、個人への課税を引き上げざるを得なくなります。しかし、そうした負担増に耐え得る富裕層が形成されてきたのか。そうでないとすれば、かつての総中産階級が復活して税負担に耐え得るのか、とても深刻な問題です。六重苦問題に関する経済界の主張の中で最も理解を得にくいのは、この税の問題かもしれません。
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3 comments on “Vol.190: 今更ながら六重苦(その4)”
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キリスト誕生も・・
故郷で・・人頭税登録する途中の出来事・・と言われている・・
キリストも・・生まれながら・・税とは無関係ではなかった・・
シーザーの物は・・シーザーに・・
と実感する為には・・
一万円札には・・時の首相の肖像画・・必要・・
アベチャンのデカイ顔が・・
刷ってあれば・・手元に置きたくならない・・消費が進むかも・・知れない・・
自民党ポスターと同じなら・・心理的に・・2%インフレ簡単かも知れない・・
消費税・・形を変えた人頭税・・
日本でも・・第二のキリスト・・誕生するかも知れない・・・
当時のぐっちーさんの主張は、資産は日本円の現金で保有しておいたほうがいいというのと、konanさんの言うように、企業の内部留保はけしからんという主張でしたね。
ちょっと主語が不明瞭だったので矛盾してるようにも見えますが、多分、企業の永続性を考えるにあたって、縮小均衡を是とする経営はありえない、ほかの人より多く給料をもらっている経営者としては、マーケットに挑んで業績アップし、社会、株主、従業員に貢献する義務がある、といった前提の上での話しだと思います。つまり、投資銀行家が思いつくようなことではなく、その分野の専門家だったら、もっといい投資先を思いつかないようじゃ経営者失格じゃないの?ってことではないでしょうか?
まぁ、バブル以降、日本全体が臆病になって、労働者も経営者も縮小均衡でジリ貧になるのを望んでるようにしか見えないですから、溜め込み主義も理解できなくは無いですが・・・
設備投資や、労働者投資には法人税の減免効果がありますが、消費税となると投資するだけ税金がかかるので、投資促進には消費税より法人税のほうがましだと思います。
ぽよんぽよんさんの、”もっといい投資先を思いつかないようじゃ経営者失格じゃないの?”というの賛成で、船が進まないからと部品交換を簡単にするように、労働者の流動性を高めてもしかたないと思います。
部品の交換を簡単にするのでなくて、船長の交代を容易にしないと。 部品点数は多いし相互に影響をしているので大型システム程、安易に交換できませんし、まして会社の社員は。
経営者から言わせれば大バブル崩壊で銀行がいざという時のバックアップとして信頼できないから貯金ないと心配は、リーマンショックである程度うなづけました。
アメリカは、銀行がだめでもGMみたいに国が貸付ますが、日本は国がアメリカより動きずらいですね。 アメリカが日本に国家政策を批判したせいでしょうが、自分達が必要になったら、さっさと国が動いた感じでしたが。