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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2013/04/22 09:00  | by Konan |  コメント(2)

Vol.189: 今更ながら六重苦(その3)


3回お休みしましたが、経済界が主張していた六重苦問題の3回目。今回は、TPPや労働市場の規制について考えてみたいと思います。いずれも賛否が分かれる難しいテーマです。

TPPについては、何度か私見をこのコーナーで述べてきました。一言で言えば、私はTPP賛成派です。一方、TPP反対の方が多いことも、普段余りコメントが書き込まれないこのコーナーが、TPPと公務員問題を書く時だけ複数のコメントを頂くことで実感できます。経済界の主張はとてもシンプルです。経済界は、輸出産業の声が大きく、常に円高反対です。その輸出産業を守り育てるには、円安とともに、輸出への障壁を除くことが大事です。故に円安とTPPを求める構図です。この主張は整合的で、逆に日本が国内型産業で支えられていると思えば、円高歓迎とTPP反対の主張の組み合わせが整合的になります。

私のTPP賛成論は少し切羽詰まった気持ちから来ています。私は日本経済の先行きに対し悲観的です。少子高齢化に直面しつつ成長を持続することは、とても難しいことです。それを実現しようとすれば、アジアの成長を取り込み、また、国内の産業構造を転換する思い切った施策が必要です。そのための劇薬的な起爆剤としてTPPを見ています。これは危ない賭けです。ただこれ無しでは日本経済は益々衰退して行くと思っています。言葉の使い方が変であることを承知で言えば、「座して死を待つ」ことと「肉を切らして骨を断つ」ことの選択のように感じています。

既にTPP交渉入り決断後なので全くの蛇足になってしまいますが、私は安倍総理の「聖域なき関税撤廃なら交渉に入らない」との言い方に強い違和感を感じていました。交渉に入り、しかし同時に最大限日本の国益を守る(一部の関税を残す)こと、そのうえで日本全体として最大限の実を取ることこそが、政府の仕事です。逃げていては何も始まりませんし、自ら言うのも変ですが、交渉に入らない言い訳を作ることで、役人を甘やかしてはいけません。

労働市場の規制は、TPP以上にデリケートな問題です。個々の労働者の立場から見ると、安定的な職を得ることは死活問題です。すぐに解雇されたり、賃金を下げられたりすることは、とても堪え難いことです。労働者を守るため、各種の労働市場の規制が行われ、またわが国の司法も、解雇権の制約のような形で、労働者に有利な判断をしてきたように思います。

経済界の主張は、こうした労働者の保護は、合成の誤謬をもたらすとのものです。解雇や賃下げが難しいとすると、企業側は業績悪化局面に備え、普段から雇用者数を最低限に絞り込み、あるいは基本給を低く抑える行動に出ます。これはミクロ的には企業の成長を阻害し、マクロ的には日本経済の衰退を意味します。そうなると、労働者にとっても不幸な結果に陥ります。それを避けたければ労働規制を緩めてね、というのが経済界の主張の骨子と思います。

私が学生の頃、民放の授業で借地借家法を習った際、当時の通説や判例は借地・借家人の保護に傾いていましたが、少数の有力な学者が「保護が行き過ぎると、地主は土地も家も貸さなくなるので、却って借地・借家人にとって不利な状況を生み出す」と反対していたことを思い出します。経済界の主張は、まさにこの少数派の主張と同じです。

ところで、数年前「派遣切り」が厳しく糾弾されました。民主党は糾弾する側で、労働者保護の姿勢を鮮明にしました。民主党政権のスローガンのひとつである「コンクリートから人へ」は、単に予算の配分の仕方に止まらず、こうした面でも貫かれた訳です。しかし、派遣切りがいけないとすると、企業側は最低限の正社員で必死に耐えようとし、派遣労働者の雇用機会も失われます。

私には、例えば正社員と非正社員の差別化の是非、解雇規制の緩和(例えば解雇を巡る紛争に対する金銭的解決の導入)の是非などを、詳細に論じる力はありません。また、民主党が人に優しい政権であろうとしたこと自体を非難する積もりはありませんし、一時の多くの国民の支持を得たことも事実です。ただ、労働・雇用の問題にもマクロ経済的な視点を持つことが重要という点で、経済界の主張にも耳を傾けるべきと感じます。

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2 comments on “Vol.189: 今更ながら六重苦(その3)
  1. ペルドン より
    三方一両損

    の発想・・
    必要かな・・・

  2. パードゥン より
    公務員の方の採用調整と流動性は

     どのようにお考えでしょうか? 国民人数減少だからと言って、減員で、もっと非正規を採用すべきですとはならないですよね。 公務員1級、2級、3級(非正規) 少子高齢化にあわせてといって、学校を立て替えたり、公共施設をスクラップアンドビルドしたり、変化こそ商売の種は、金融投資の方達だけではないようですよ。
    もうお金はないといいながら、将来の公共利をうまない投資をしてます。
    CRUさんは国家公務員の立場からの公が多いですが、地方公務員からの公も論じていただけると、内容に厚みがつきそうです。 

     誤解をされると困りますが、私は政治主導より、公務員の方達の戦後の頑張りの復活を期待していますからね。  規制緩和でおきたのは、ずうずうしい人だけば儲けただけでしたからね。

     TPPというより、日本のリーダーが対外交渉で成功した試しはないというだけで、その失敗を少しずつ庶民が取り返し、かってくると又ルールを変えられの繰り返しでしょう。 井伊直弼しかり、繊維しかり、自動車しかり。  

     ただ、今回は、若者が少ないのが日本にとって、致命的で心配はしています。
    公務員の考える事はただひとつ、いかに中流人口を増やすかではないでしょうか?

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