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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2013/02/04 00:00  | by Konan |  コメント(1)

Vol.178: 中央銀行小槌再論(その2)


中央銀行、そして日銀に関する記述の続きです。前回はわが国における中央銀行への独立性付与の経緯、その後日銀の独立性に対する認知度は上昇してきたこと、しかしその政策への評価はさほど高くないこと、などを書いて記事を終えました。今回は少し概念的に、独立性について考えてみたいと思います。

前回も書いたように、中央銀行の独立性は先進国の常識であり、人類の歴史に基づく知恵とも言われます。その際意識されるのは、以下のようなストーリーと思います。民主主義の下、どの国でも政府は選挙に直面します。選挙に勝つため、景気を良くして国民の人気を得たいとのプレッシャー、バイアスを持つ傾向があります。そうすると、税率引上げは不人気なので国債で調達を行いつつ、財政支出を増やします。そうした政策はインフレをもたらし得ます。また通貨の価値の点でも、国債という本来安全な資産の価値の下落、すなわち金利上昇をもたらし得ます。国債を中央銀行に引き受けさせるとなると、なおさらです。こうした帰結は国民に取り長い目で見て良くないことです。中央銀行に独立性を付与する理由は、こうしたバイアスを持つ政府の片棒を担ぐことが無い組織に金融政策という重要な経済政策の1つを担わせることで、政府の動きを制御する、あるいは政府の政策のカウンターバランスを取ることに求められます。日銀に独立性が付与されたのも、前回書いた大蔵省解体のようなコンテクストを別にすれば、理屈としては全く同じ理由です。

ところで、以上のストーリーはいくつかの特徴を有します。

(1)まず、上記の話しは物価が上がったり通貨価値が下がったりすることを防ぐため中央銀行が存在するとしています。単純に言えば、中央銀行にはインフレファイターの役割が求められています。

(2)次に、政府は短期的な視野を持ちがちであるのに対し、中央銀行は長い目でみて国民のためになることが期待されています。

(3)最後に、中央銀行は選挙で選ばれた政府に対峙し、毅然とした姿勢で臨むことが期待されています。

要するに、中央銀行独立が想定する中央銀行像は、「通貨価値の維持にコミットしインフレと戦い、長い視野を持ち、毅然として勇気のある」中央銀行です。これはいくつかの点で恐るべきことです。ひとつには、国民に選ばれた政府と対峙する点で、とても非民主主義的であること。ふたつ目は、長期の視点や強い勇気を求める点で、中央銀行員にスーパーマンであることを求めていること。さらには、短期的には不人気な政策を必ず取ることにより、構造的に金融政策への評価を得にくい立場に中央銀行を置くことです。この最後の点は、「独立の認知度は高まったが政策への評価は高まらないという日銀の姿は、実は至極当然な状況なのかもしれない」と言い換えることも可能です。10年経てば日銀が正しかったと証明できるかもしれませんが、それを今証明することは不可能と言い換えることも出来ます。

ところで、現時点で日銀、FRB、ECBが直面するのは、インフレではなくデフレです。独立論が想定する「インフレバイアスのある政府の牽制」ではなく、むしろ中央銀行自らがデフレファイターとなりインフレバイアスを持つことが求められる状況です。これは中央銀行にとってとてもつらいことと思います。技術的にも、ゼロ金利制約(金利をマイナスにできないこと)を前提にする限り、金利の上げ下げという常識的な政策だけでの対応の限界に直面する点で、難しい立場に追い込まれます。さらに、精神的にも、自分が最も避けたい、あるいは不慣れなことを求められる点で厳しくなります。なぜなら、デフレは同じ1万円札で買える物が増えること、すなわち通貨価値の増加を意味しますが、通貨価値の増加、通貨の信認の向上は、本来中央銀行にとって望ましいものだからです。どの中央銀行も「インフレもデフレもともに良くない」との立場ですが、実際にはインフレ対応の方がやりやすいと感じているのだと思います。

昨年12月、NHKスペシャルで日本国債という番組が放送された際、白川総裁が「国債の信頼を失わないようにしつつデフレから脱却してくことはナローパス」と発言されていました。また記者会見でも「国民はデフレからの脱却を望んでいるが、物価が上がると困るという意識も持たれている」旨の発言をしています。これらは、要するに、日銀としてデフレ脱却に向けた政策に全力を挙げるが、しかしそのやり過ぎが国債の信認喪失やインフレに結び付くことのないよう、どこか自己抑制しながら対応せざるを得ないと言っているように見えます。

他方、例えば麻生大臣は「国債の金利が上がるとか、インフレが起きるといった主張を日銀や財務省は行ってきたが、過去20年間そうした事態は生じていない。おおかみ少年のような言動だ」といった批判を口にされます。「10年経てば日銀が正しかったと証明できるかもしれませんが」と書きましたが、現実にはバブル崩壊後20年経っても日銀が正しいことを証明できない状況にあるという批判です。短期的に不人気であるだけでなく、長期的にも物価の安定を実現できていないとすれば、日銀への批判はとても深刻さを帯びてきます。そしてこうした主張が今回の選挙で人気を得たということと思います。

あと2回ほど続けたいと思います。

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One comment on “Vol.178: 中央銀行小槌再論(その2)
  1. ペルドン より
    メガネには・・

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    ただ・・
    かけない方・・多い・・・

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