2012/12/10 00:00 | by Konan | コメント(2)
Vol.170: 総選挙の争点(その4)
次の日曜日に選挙が迫ってきました。シリーズの最終回は経済政策の領域を取り上げます。日銀を巡る問題とTPPがクローズアップされ、いつの間にか最も「有名な」論点になってしまった気もします。個人的には日銀の緩和政策もTPPも必要と考えていますが、今回はその詳細に立ち入ることは避け、この論点で意見が分かれる背景について、極力大括りに考えてみたいと思います。
10月のIMF・世銀総会後、NHKの番組にIMFのラガルド専務理事(IMFを率いるフランス人で元シンクロ選手の魅力ある女性です)が出演し、「女性が日本を救う」とのIMFスタッフペーパーを紹介しつつ、日本経済再生のうえで女性の労働参加、とくにM字型と言われる結婚期から暫くの間の就労の落ち込みの解消が不可欠との意見を述べられました。この番組には好意的な意見も多かった一方、「良き日本を壊すのか」との抗議の声も少なからず届いたと聞いています。
日本経済再生を考える際直面するのは、女性あるいは外国人の労働参加にせよ、金融円滑化法終結問題の際必ず議論になる企業保護と所謂ゾンビ企業退出の優先問題にせよ、TPPのように傷付く産業とメリットを受ける産業の優先問題にせよ、長い間、少なくとも戦後の復興過程で定着し常識化してきた価値観(例えば女性は家を守る、弱者は保護されるなど)を壊すか否かという極めて深刻な、時には残酷な問題です。このコーナーを始めた頃、「私より世代が少し上で、とくに自民党支持者の中には、女性が社会進出したり外国人が増えたりするくらいなら、日本経済が衰退しても構わないと信じておられる方が少なからずおられる」と書いたことがありました。今回の選挙で問われているのは、まさにこうした価値観の是非ではないかと思っています。日銀の更なる金融緩和については、程度の差こそあれ多くの政党が求めています。しかしTPPに象徴される「価値観」を巡る問題について意見は割れています。そして、価値観を維持したいと思うほど、金融政策にすがるしかなく、より強力な緩和や日銀法改正を迫る構図と理解しています。
この問題に正しい解はありません。価値観は人により異なりますし、社会全体としてみれば、旧来の価値観を維持したいとの考え方にも合理性があり得るからです。ただこの問題を「ぐっちーの金持ちまっしぐら」から始まったGucci Postの観点、すなわち金融・経済の観点からみると、重要な視点は名目と実質の区別のように思います。例えば売上げを考えると、(数量は一定だが)物価が倍になっても、(物価は一定だが)売上げた数量が倍になっても、いずれも売上げは倍になります。しかし、後者では例えば作る人や売る人の雇用が生まれる可能性がありますが、前者ではそうした効果はありません。前者が名目、後者が実質です。
金融政策について、一頃「名目にしか効かない」との見解が一世を風靡しましたが、私は実質、名目双方に効果を持ち得ると思っています。ただ、現在のようにこれ以上の金利引下げが難しく利下げによる投資増加効果を見込めない状況では、実質ではなく名目に関しより大きな効果を持つ政策と思います。例えば売上げが増えれば気分が高揚し投資を増やすといった波及はあり得るので、名目成長が実質成長に波及する可能性は否定しませんが、その効果は間接的なものです。他方、女性の労働参加や産業の新陳代謝(資源をより生産性が高い産業に振り向けること)は、(とくに後者については)その過程で淘汰に伴う痛みを伴いますが、長い目でみると実質的な成長をもたらす可能性があります。以前消費税について書いた際、実質成長を伴わず物価だけ+5%上昇する極端なケースを考えると、税収は5%しか増えないのに国債の利払い費が5倍近く増加し、税収が全て国債利払いに使われ財政が発散してしまう恐れを指摘しました。個人的には、金融政策に過度に期待することで名目成長に焦点を当てる一方、実質成長に関して具体的政策を伴わない考え方は、こうした点で危険なように感じています。
4回にわたり争点に関する私見を記してきました。今回は本当に数多くの政党が乱立し、考え方も見えづらいのが実感です。また取り上げた5つの争点全てで自分の考えと一致する政党は残念ながらありません。その中でどう取捨選択するか、日曜日まで考え続けようと思います。
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世界はこれまで以上に注目しているのではないでしょうか。 中国が帝国主義への道を進みつつあり、日本を含めたアジア各国に脅威を与えている現在、武力衝突を避けるためにも、日本の防衛力を更に高める必要があるのは事実ですが、世界は、日本が太平洋戦争で行ったことを忘れていません。 これは、変えることのできない、日本にとっての負の遺産です。
日本が右傾化しているのではないかという不安が世界の中に芽生え始めている兆候がありますよね。 海外では、反日感情が若い世代にもあります。 これは、愛国教育を受けているからというだけでなく、自分の身内に体験者がいて、その記憶が伝えられているということも大きいように感じます。
海外の主要国では軍隊があるのはあたりまえのことですが、日本でそれを表だってやろうとすると、とたんに警戒されます。 一方で、常にアメリカの属国であるような言い方をされます。 こういった海外の反応は矛盾した態度のようにも見えますが、現実です。 日本は、慎重かつ相当に高度な戦略が求められているのではないでしょうか。
日本がやっていること、やろうとしていることに、必要のない誤解を生まないためにも、海外とのコミュニケーションの取り方、日本からの情報発信がますます重要になっているように思います。
野田佳彦が「近いうち」という約束を守り、年内に衆議院を解散したこと
の意味は
「消費税増税を含めた『三党合意』そのものが、今次の選挙で争点として
問われることを阻止した」
ということです。
その上で、「総選挙の争点」ではありませんよと念を押しておいた上で、
消費税増税と名目経済について語るならば、消費税増税は名目経済を毀損
する税制度です。
一方で、名目経済に与える影響が軽微な税制度とはそれは
個人に対しては累進課税税率の上昇、そして法人に対しては損益通算の大
幅な緩和、の2点であります。