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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2012/09/24 00:00  | by Konan |  コメント(2)

Vol.159: 原子力の将来


原発依存度をどこまで引き下げるか、検討が行われています。各種調査では、3/4以上の人が「原発ゼロを望んでいる」状況です。反原発デモも盛り上がりを見せています。そうした状況を踏まえ、政府も「2030年代の依存度ゼロを目指す」方針を一旦示しました。しかし、皆さんご存知の通り、それを閣議決定することも出来ず、「野田内閣はブレている」と批判を招いています。今回は、「0%、15%、20から25%」の選択肢のどれが望ましいかについての意見ではなく、十分に議論が尽くされたとは思えない論点や、疑問に思っている点について触れたいと思います。読者の中に専門家の方がいれば、是非いろいろと教えて頂ければと思います。

まず、「安全」以外の点でどのような論点があるのでしょうか。思い付くまま挙げてみます。

(1)コスト
原発が推進されてきた背景には「原発はコストが低い」との考え方があります。電力のコストが上がれば、経済活動や普段の生活に悪影響が生じますし、経済界が「原発ゼロはもってのほか」としているのも、コスト上昇が経済に与える影響を心配してのことです。しかし、福島第一の事故を契機に、例えば原発の安全水準を高めるためのコスト、万一事故が起きた際の賠償や地元経済に与える風評等のコスト、原発を安全に廃炉まで導くためのコストなどを考えると「安い」とはとても言えないのではないとの見方が強まっています。この点をどう考えるか。

(2)代替源実用化の可能性
安易な代替は火力発電の復活です。また、私の不勉強な点でもありますが、シェールガスの「発見」は、コスト面はもとよりCO2抑制の点でも、原子力に対する有力な代替手段を提供するとの話しも聞きます。しかし、経済活動を維持しつつ原発依存度を引き下げるために、風力、太陽光、地熱、その他の代替源を開発し実用化する必要性は失われないと推測します。その実現可能性がどの程度か、実現できるとしてコストはどの程度かなどの点が問われると思います。他方、以前コメントで頂いたように、「代替可能性の模索が新たな科学そして産業のフロンティアを広げる」潜在性にも注目する必要があると思います。

(3)環境
繰り返しですが、CO2削減等の環境面の課題は強く意識されるべき点と思います。

(4)安全保障
以前この欄でも触れたように(大江健三郎さんの記事を紹介しました)「核兵器を持たないが原発を持つ」ことは、安全保障面で抑止力を持つことにつながるとの有力な見方があります。また、やや別な角度から「核兵器は持たないが原子力を平和的に利用している民主国家」の存在の重要性を説く意見も聞かれます。さらに、再処理施設を稼働したまま原発ゼロを目指すと、プルトニウムが国内にあふれ、核テロの温床になりかねないとの意見すらあります。これらは、賛否はさて置き重要な論点と思います。

(5)経済活動の水準
ところで、2030年に日本経済はどのような姿になっているのでしょうか。人口減少が続くとすると、生産性の向上によりカバー仕切れず、GDPは減少している可能性も否定できません。このこと自体由々しき問題ですが、経済活動水準が今より低いとすれば、それだけ原発を減らす余地が生まれることも事実です。同様に、ライフスタイルがどのように変化し、電力需要がどこまで切り下がるかといった点も重要なポイントと思います。

「安全」について。

(1)技術的側面
この点、是非専門家に教えて頂きたいのですが、福島第一で起きたことをみると、制御棒が下りていても、あるいは稼働休止状態にあったとしても、あのような津波に襲われ、かつその備えが不十分であれば、極めて深刻な安全上の事態が生じ得ると思いました。逆に言えば、例えば再稼働状態の大飯原発と稼働停止時の大飯原発を比べ、当然前者のリスクが高いとしても、後者の危険性がゼロという訳ではないと思っています。この理解は正しいでしょうか?

なぜこの疑問を呈したかと言えば、仮に私が誤解していないとすれば、「安全」問題は単に稼働を目先停止するかどうかを越え、「既に作ってしまった原発をどのように廃炉まで持っていくのか。その間どの程度の時間を要するのか。それまでの間、地震、津波その他の対策をどの程度強化する必要があるのか」という極めて息が長い問題として認識しておく必要があるからです。「2030年の依存度ゼロ=2030年は安全」ではないということです。私が誤解なら良いのですが、そうでなければ、「2030年ゼロで安全問題は終わり」と考えないことが必要です(無論、早く原発ゼロになれば、早く廃炉が完了することは間違いないとも思います。)

なお、使用済み核燃料の再処理問題もクローズアップされています。青森県とその他地域の争いという側面が強調されますが、そもそも使用済み核燃料は再処理されなければ安全なのでしょうか?使用済み核燃料を封じ込める施設を設けないと、何が起こるのでしょうか?

(2)プロセスについて
例えば「依存度15%」のような結論になると、「どこを残し、どこを閉じるか」という問題が生じます。また、「新規着工ゼロ」に対し、着工を期待していた地域の反発の声も聞かれます。各エリアごとに代替源をどの程度確保出来るかといった要素が勘案されていくのでしょうが、今回の大飯原発再稼働が提起するひとつの重要な論点は、万一事故があった際もっとも深刻な被害を受ける地元福井県、あるいは大飯不稼働で目先経済活動や生活面での影響を直接受ける関西圏の自治体が(少なくとも)「反対はしない」との姿勢を示したことです。他方、東京では反原発デモが勢いを増しています。原発を止める意思決定はだれが行うのでしょうか?

勘違いしている点、漏れている点など多くあると思いますが、とりあえず書いてみました。

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2 comments on “Vol.159: 原子力の将来
  1. ペルドン より
    原子力

    問題が・・
    問題だけに・・
    論点の核が・・分裂・・
    演繹法的よりも・・
    帰納法的・・アプローチが・・
    今回・・
    適してるのでは・・・?

  2. ぽよんぽよん より
    専門家じゃないけど

    まぁ、100%安全とかよくわかんないことを言ってた人間の
    責任なのは明白なんだけど
    100%安全とか言われて信じる方もどうかしてる。

    個人的には、100%安全とか言うやつらが嫌いだったので原発
    反対だったが、今のヒステリックに反対してる連中も嫌いなので
    肯定的な意見も含めていろいろ考え中。

    しかし、100%じゃなくて、どのぐらいの確立なのかの計算も
    事実上不可能であることも間違いない。

    このまま化石燃料を使い続けると、2060年には海面の上昇と
    異常気象で数億人の被害者が出るという説もあるが、それも確認
    する方法がない。
    もしそうなったら、温暖化問題を無視した人間の責任ということ
    になるが、今現在、率先して化石燃料を放棄するメリットも無い。

    1000年に一度の災害にも大丈夫な原発も、100以上作れば十数年
    に一回は事故を起こすことになる。(2つ以上の事故の確立もあ
    るので、100個で10年ぴったりにはならない)

    原発が、危険だから禁止といわれても、化石燃料の温暖化に比べ
    てどのぐらい危険で、どのぐらい安全なのかの比較もできない。

    太陽光発電にしても、コストの前に、パネルそのものだけでなく
    パネルを支えるアルミフレームを作るために投入する電力を回収
    するためにどのぐらいの期間がかかるのかを最初に計算しておか
    ないと、中国の原発の電気で作ったからコストが下がった太陽光
    パネルを使って、エコだと言われても、甚だ疑問が残る。

    自然淘汰の理論からすると、エネルギー政策で生き残ることが目
    的であるならば、多様化を促進。勝つことが目的であるならば、
    もっともコストの安いものに一点集中ということになるが、過去
    にエネルギー問題で戦争をおこした国としては、コンサバティブ
    に多様化を目指したほうがいいと思う。(個人的意見)

    現時点で未知数である自然エネルギーに対しては、どれだけの投
    資でどこまで技術開発が可能かどうかの指標も無いので、技術開
    発に対しての税金優遇ぐらいはするべきだが、公的機関が積極的
    にお金をつぎ込む価値はないように思える。例えるなら、いくら
    つぎ込めば化石燃料や、原子力に変わりえる有力なエネルギーが
    得られることがわかっていれば、それが100兆円超であったとし
    ても、とっくに民間で投資が行われているはずである。つまり、
    いくらつぎ込めばエネルギー問題が解決できるかの検討もついて
    いないものに税金をつぎ込むことは得策ではないと思う。
    (個人的意見)

    多様化の方向としては、今考えられるもの、石油、石炭、LNG、
    原子力、水力、新自然エネルギーをコストを無視して、それぞれ
    10%ぐらいにして、残りを世界情勢にあわせてコストの安いも
    のを増やすぐらいがいいバランスではないかなと思う。
    (個人的意見)

    原子力も、今の原発なら0%と言われて当然なので、ちゃんと技
    術開発のための投資もして、今の1000倍ぐらい安全にしてもらわ
    ないと、話にならないことは言うまでもない。

    稼動停止した原発の中には、話題のヨウ素やセシウムなどの放射
    性元素がいっぱい入ってます。半減期が1秒以下のものから100万
    年単位のものまで、いろいろです。それらが半減期に半分づつ
    減っていくことになるのですが、減るときに熱や光を出します。
    出す熱自体は、半減期の短いものが多いので、急速に下がってい
    くことになりますが、100万年の半減期のものもあるので、熱は
    出し続けることになります。

    今考えられているのは、数年間水で冷やして、数年放置してガラ
    スを溶かすほど熱を出さなくなったらガラスで固めて、深いとこ
    ろに埋めてしまえってことになってます。(空気や地層の対流に
    よる放熱で十分なレベルの熱しか出さなくなった状態)

    地球自体も、大量の放射性物質を含んでいて、たいていの放射性
    物質は非常の重いので中心部にたまり熱を放出し続けているため
    に、地球ができて数億年たっても、プレートが動き火山活動が起
    きていると言われています。地震も火山も原子力ですが、重力に
    よって密封されているので、放射性物質は原則としてばら撒きま
    せん。

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