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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2012/07/30 00:00  | by Konan |  コメント(2)

Vol.151: 鉄の女の涙


少し前に公開された、メリル・ストリープ主演の「鉄の女」が話題になりました。映画自体は、最初からサッチャー元首相が痴呆症のような状態で登場する極めて重苦しいもので、2度見たいとは思いませんでしたが、サッチャー元首相の半生が良く描かれていたと思います。

さて、フォークランド紛争後人気絶頂となり、英国、そして世界に君臨したサッチャー元首相の転落の契機は「人頭税」でした。税金は通常何かに比例して課されます。収入、保有資産の額、有価証券や不動産の売買額、消費額など様々ですが、単純に言えば「何か」が大きくなるほど納税額が多く、「何か」が小さくなれば納税額が少なくなる(場合により免税される)点で共通の性格を持ちます。ところが人頭税は単純に言えば「人1人に対し税金を課す」仕組みです。その人が裕福か貧困かなど問うことなく、1人1人に同じ税金がかかる仕組みと理解して頂いて良いと思います(実際には、これほど単純ではなく、何らかの税額調整の仕組みが考えられていたのかもしれませんが、ここでは単純化して話しを進めます)。

現象面で言えば、この提案以降、サッチャーさんの支持率が急落し、反対運動が巻き起こり、退陣を余儀なくされ、同じ保守党のメイジャー首相に道を譲りました。「金持ちも貧乏人も同じ税金」との考え方は、当時の英国人の価値観からみて、受け入れることが出来なかった訳です。

では、なぜサッチャー元首相はそのような提案を行ったのでしょうか?根底にある考え方は選挙権の平等と同じと思っています。1人1人、選挙で投票する平等の権利を持ち、例えば安全保障や公共教育等、国家の便益を公平に受けるのだから、少なくとも税金の一部について、1人1人同等の額を公平に負担する仕組みがあっても良いはずだ、とサッチャーさんは考えたと想像します。

上記の私の解釈は聞きかじりで、誤りがあるかもしれません。そのうえで、2つのことを感じます。

第1に、こうしたサッチャー元首相の考え方が当時の英国人に受け入れられなかった事実を厳粛に受け止めるべきという点です。税金は「何か」に比例して負担すべき、そうでないと、「何か」が小さい人たちにとり残酷な結果となり、不平等を拡大する恐れがあるという点を、英国人は恐れたのだと思います。

第2に、それでは人頭税の考え方に全く理が無かったのか?サッチャー元首相の信念は「自由で強い英国」であったと思います。そうした信念を実現するうえで、全ての人が責任を果たし努力することが不可欠との思いが、人頭税提案につながったのではないかと感じています。要は、彼女が持っていたある種の国家観、あるいは、以前いただいたコメントの言葉を用いるとすれば「国体」観が、人頭税の考え方と合致していたと言い換えることもできます。

人頭税の話しを思い出した直接のきっかけは「鉄の女」を見たことですが、消費税議論との関係もあって、書いてみた次第です。

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2 comments on “Vol.151: 鉄の女の涙
  1. ペルドン より
    鉄の涙

    鉄のレディ・・
    お気に入り言葉だったらしい・・彼女・・
    官邸に住んでいる時の・・インタビュー・・を覚えている・・
    『何時か・・ここを出ていくが・・とても怖い・・』

    権力を掌握・・
    掌握すると・・脳の構造が変わるらしい・・
    我が国の首相を見ても・・数か月で・・脳が変わった・・としか言いようがない・・別人になるらしい・・
    ならない為には・・王道教育がいる・・

    エリザベス一世・・
    父王ヘンリー八世・・カトリック教会の財産を・・根こそぎ巻き上げた・・教会が庇護していた貧民は・・裸で放り出され・・文字通り貧民階層になった・・
    ヘンリー八世は・・障害などがある貧民は・・物乞いを許可する・・社会政策をしたが・・
    処女王は・・近代的とも言うべき・・貧窮法を創った・・

    サッチャーは・・お手本を間違えた・・
    尤も・・
    我々も。。このまま行くと・・年金受給年齢になると・・物乞い許可書が送られてくる・・社会保障かも知れない・・・

  2. パードゥン より
    せめて300年の歴史観を

     国家エリートには、1000年といわないまでも、せめて300年の歴史は把握しておいてほしいですね。 人頭税に何故、イギリス人は反対したかですか?  数十年の歴史観では、サッチャーの人頭税しか網にかかってくるだけかもしれませんが、300年くらいのスパンで世界史をみてください。 イギリス人は庶民と言えども、人頭税の恐ろしさ効能を知っていたからだと思います。 そう、イギリスの植民地政策の根幹の一つでした。 なぜ、イギリス人の我々が野蛮人(彼らなの感覚で)と同じ税を受けなければいけないのか? イギリス内に貧富の差があっても、下に植民地蛮人がいれば許せたが、植民地がなくなった時、サッチャーはその替わりを我々イギリス庶民に求めるのかという怒りでしょう。 身勝手ですよね。 人は自身になってみないとわからない。

     私からすれば、何が悲しくて、野田君は白人支配の手法に命をかけるのか? 無知もいい所で、竹下さんは万死に値すると言って死んだそうですが、野田君に残されるこの上の言葉を私は知りません。 そりゃ中国侵略は悪いでしょう。 だけど白人のアジア支配が過酷でなければ、アジアの購買力を頼りに日本が輸出国として生きていく道は戦前もあったでしょう。その悲しい歴史の鞭をアジア人の野田君がアジアの国の日本、それも同胞にたたきつけるというのは、どうした事でしょう。

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