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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2012/07/09 00:00  | by Konan |  コメント(3)

Vol.148: ユーロ(その1)


3回にわたりユーロ問題を取り上げます。過去のこのコーナーでも何度か取り上げたことがあり、記憶されている方にとっては二番煎じ、三番煎じで申し訳ありません。今回は、ユーロがいかに壮大な実験であるか、逆説的に言えばその維持が如何に難しいか説明したいと思います。
ユーロ圏は、複数の国を跨る形で共通の通貨と共通の中央銀行を持つ存在です。この仕組みは、自らの仕組みを破滅に向かわせる構造を孕んでいます。ユーロ圏にAという経済強国とBという弱国があると仮定します。

(1)圏外の投資家からみると、共通通貨は安心感を与えてくれます。B国への投資でも、A国と同じユーロ圏に属し、共通の通貨を使用しているというだけで、為替暴落のようなリスクが抑制される錯覚に襲われます。このため、Bの実力以上に投資が行われ、実力を離れた「バブル」が生じる可能性があります。これが1つ目の不安定要素です。

(2)共通通貨でなければ、B国の経済状況が悪くなるとB国通貨安、B国輸出増の経路を通じた景気回復メカニズムが働きます。共通通貨ではその機能が働かず、経済悪化からの復活が難しくなります。

(3)自国の中央銀行があれば、自国の状況に応じた金融政策を行えます。ユーロ圏のように欧州中央銀行が唯一の金融政策主体である場合、Bのみに合わせた政策は行われず、AとBの加重平均に合わせた政策が行われます。それはAにとりやや緩和気味、Bにとり引締め気味の政策を意味し、Bの経済はますます悪化します。

(4)なお、例えば米国の州であれば、連邦の財政機能を通じた経済の調整が行われる余地があります。財政統合を行っていない欧州では、その余地はありません。

このようにユーロの仕組みは、AとBが均質の経済状況にある場合は良いのですが、その間に格差があると、その格差を収斂させる方向ではなく、どんどん拡大させる方向に働く恐ろしさを秘めています。逆説的に言えば、加盟各国がしっかりとした経済運営を行う大人であることが前提の仕組みです。

現実には全ての国が大人でない以上、また、上記(1)により厄介者を作り出し、(2)、(3)によりその厄介さを拡大し、しかも(4)の事情で厄介さを均すことが出来ない以上、現在のユーロの仕組みが長続きし得ない枠組みであることは自明と言い換えることもできます。次回もユーロの話しを続けます。

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3 comments on “Vol.148: ユーロ(その1)
  1. ペルドン より
    その一

    それが・・
    自明にも拘わらず・・
    何故・・
    独仏は邁進したか・?
    ユーロの謎解き・・
    その考察・・欠落・・・

  2. パードゥン より
    Richard Nicolaus 栄次郎 Coudenhove-Karelrgi

     汎ヨーロッパ主義を提唱しEUの父と言われた 日本名 青山栄次郎とその母 青山みつ(光子)について書いてあげてくださいよ。第1回だったら、無理にでも。

     お金の話に弱いのは、日本のエリートの伝統文化が入り込んだのかも知れないし。 最近では竹下さんもニクソンショックの意味を理解できず、為替市場を開け放して結局、後の大バブル発生と崩壊へ導いてしまったでしょ。

     大蔵省とか、財務省とか過去の失敗の解析と対策の教育を若手にしてくれてます?
    失敗はどの組織でもあるけど、次世代の教育に生かしてくれないと、黙々と失われた20年を耐えている庶民はたまりません。
    偏差値の低い議員には理解は無理なんですから、あなたがたに期待せざるを得ないんですから。

  3. あしゅ より
    毎週ありがとうございます。

     いろいろな問題を取り上げての分析や御意見、毎週、非常に楽しみにさせて戴いております。
     同じような読者がたぶん「たっくさん」(笑)いらっしゃると思います。
     毎週、同じ様な謝辞を投稿するのも憚られますが、たまには書かせていただくこととします。(厚かましく申し上げれば)これからも期待しております。

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