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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2012/06/11 00:00  | by Konan |  コメント(2)

Vol.144: 消費税(その3)


今回は「消費税引上げの前に歳出削減を徹底すべき」との議論についての続きです。国債費と社会保障関係費について触れます。

国債費については、「普通国債残高709兆円、24年度予算上の利払費9兆8,546億円」の関係に注目したいと思います。後者を前者で割ると、発行した国債に平均毎年1.39%の金利を支払う計算です。ここで、突如実質経済成長を伴わない悪性なインフレになり、物価が前年比+5%上昇するとします。単純化して言えば、金利は「期待インフレ率+実質期待成長率+リスクプレミアム」であり、実質経済成長率は1.5%程度、リスクプレミアムは無視しうるとすれば、国債金利は6.5%程度に上昇します。これは今の利回りの4.7倍であり、予算上の国債利払費も46兆円に膨れ上がることになります。他方、税収も増えますが、この増え方は単に物価上昇と同じ+5%、精々2、3兆円に過ぎず、税収と利払費が拮抗する形となります。税収の全てが過去の国債の利払いに充てられる構図で、その他の歳出は全て新規国債発行で賄わざるを得ず、財政収支は発散の方向に向かいます。

要は、現在の巨大な国債残高でも何とか問題を起こさずにいられるのは、低インフレ(デフレ)を背景に低金利を維持できているからで、万一悪性インフレの事態に直面し、金利が上昇すると、財政はまさにギリシアのような状況に直面します。消費税引上げに政権や財務省が躍起になるのも、こうしたリスクを恐れているからです。

次に社会保障費。前回も触れたように、26兆円を超える最大の歳出項目です。医療、介護、年金、その他国民の生活を支える費目であり、消費税引上げの目的は社会保障の維持とされます。

逆説的に考えると、社会保障の維持ではなく削減を考えれば、消費税引上げは不要となります。この点についての真剣な議論がなされないまま、「社会保障は今の仕組みのまま維持」することを前提に議論が行われている印象があります。社会保障費における最大の問題は高齢化です。退職した高齢者の生活や健康を支える費用をどう賄うかが問われています。しかし、高齢者を公的な資金で支え続けることが必要なのか、本当は問うてみる必要があると思います。

日本の場合、高度成長期を経験した高齢者の方が若い層に比べ相対的に豊かとの構造があります。また、そもそも「長生きをしたい」との願望を支えるのは国の役割なのか、それとも各個人自らの努力や責任によるべきことなのか。こうした議論はわが国では提起することすら難しい論点です。例えば「高齢者の医療費は全額自己負担にせよ」といった意見が袋叩きに合うことは間違いありません。

それでもこの論点を提起しているのは、この点を素通りしてしまうと、消費税引上げしか道が残らないことになりかねないからです。ぐっちーが消費税上げに反対な理由のひとつは、このように本来行われるべき議論の不徹底さに対する不満によるものと感じますし、私もそれに賛成です。こうした議論を行う気概がなければ、あるいは今回触れた国債利払費が孕むリスクを考えれば、消費税引上げしか選択肢として残らないことになってしまいます。

次回も消費税問題を続けます。このシリーズの初回、「同時にどうでも良い問題」と書きました。その趣旨を説明したいと思います。

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2 comments on “Vol.144: 消費税(その3)
  1. パードゥン より
    政治家が自分の業務分担が判っていない

     小泉さんの政治の欠点を前回、書きましたが、日本の最近の政治家は、自分の分担、なすべき事を全くしとらんといか、なすべき事だとも知らないという指摘ですね。 例えば無駄な診療を患者も医師も止めましょうという価値観、文化を創るのが為政者の仕事。 幸之助さんも政経塾という命名からして誤解されていたのではないかと思います。 政治はお金の徴収と配布ではないのです。 

     医療費削減でやるべきは沢山ありますね。重複診療、薬処方はもったいない。 公的な保険を使う場合は、医師が診療記録にアクセス許可できないと。 医師、看護婦の業務解析をして、動きも工場の動作分析のようにして、楽で早く仕事がでけるように、改善運動を始めないと。抑制だけでなくて、収入もありえますね。 入院患者の食事を余分につくって病院管理の健康食の販売とか。

     介護補助の受給が少ない自宅介護の人が、同じ一律納税負担をしないといけない、消費税は変ですね。 家族介護を強制する自民党で都会の核家族に現実にあわないのも変でしたが、今度は独居老人しか想定しない民主党も変。 混在しているのが社会。

     議員は人数も少なく、偏差値平均も低く、社会経験も少ないのだから、変数の多い実社会の事について、主導しようという傲慢な発想がトラブルの事始。 分担をすればいいのです。 例えば、”独居老人が増えてきたので、その人を皆で支えるようにしたい”という思いを伝えて、国民の合意をつくるのが仕事。 そこから先は、長い学歴競争と公務員試験で選抜されたプロにまかせればいい。 党が交替しても、継続性、公平性を担保してくれる。

       

  2. 匿名鬼謀 より
    財務省の事務次官名義で、説明本を出せば良い

    突然、悪性インフレ/国債暴落が出てくるのが前提ですね?

    ぢゃぁ、突然良性インフレが起きて、借金が相対的に減るかもしれませんね?

    戦後の微悪性インフレの中で、日本は経済成長したんですよね?(日銀窓口指導に効果あったのは認めます)

    EU/アメリカ/中国は、膨大な赤字国債とかを発行してるけど、日本だけはダメなんですね?

    どの程度の赤字が適性と思いますか?

    日本円以外の通貨で、日本国債発行するべきですか?

    今の日本にABCD包囲網なんてしたら、アメリは軍隊機能を維持できませんよ?

    最近、弊社20代達が、酒飲むとそんな話を始めます。

    理論的に応えられないので、困ってます、、、

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