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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2010/07/19 00:00  | by Konan |  コメント(3)

Vol.45: 消費税問題(その1)


今回から3回に分けて先般の参議院選挙の最大の論点となった「消費税」問題を取り上げようと思います。今回は財政問題全般、次回は消費税そのもの、次々回は選挙結果の評価という感じで進めたいと思っています。

さて、消費税については、景気との関連、弱者にも税負担を強いる問題など、様々な問題があることは事実です。そのうえで、「消費税を導入しないと財政が破綻してしまう」という論点について、どう考えればよいでしょうか?財政問題については、今年の新年特集(Vol.20)でも一度取り上げました。その後のぐっちー等の意見も踏まえつつ、改めて説明させて頂ければと思います。

日銀の資金循環統計によると、各主体は現在以下の状況にあります。

家計:1080兆円資金余り
企業:261兆円資金不足
政府:520兆円資金不足
海外:264兆円資金不足

若干誤差はありますが、要は、「家計が大きな貯金を持っていて、企業、政府に貸し、さらに余りを海外にも貸している」と読むことができます。「国債の価格が暴落しないか」という論点について、よく「家計が大きな資金余剰を持っており、国内で消化できるから大丈夫」とか「海外から借金する状況ではないので大丈夫」と言われる根拠は、こうした各主体の資金余剰、不足を表す統計にある訳です。

そのうえで、論点は2段階です。第1に、上記の資金余剰・不足構造が今後も維持されるのか?経済学的に厳密に検証された訳ではありませんが(例えば、高齢化が進むからといって貯蓄率が低下するとは限らないという有力な議論もあるようです)、感覚論として、以下のようなことが予想されます。

家計:高齢化が進むと、稼ぎは減り、支出は余り変わらないので、資金余剰が減る。
政府:今後の年金や医療等の支出増を考えると、不足が一段と拡大する。

これを前提にすると、家計の余剰減少、政府の不足増加を、企業と海外部門で調整する必要が生じます。すなわち、企業や海外の不足を圧縮せざるを得ない訳です。企業の不足圧縮は企業が最早借金してまで国内で生産活動を行わないことを意味します。海外の不足圧縮は、この結果、輸出が減り、海外に資金を貸す余裕がなくなること、場合により海外から借金をせざるを得ないかもしれないこと、を意味します。こうなってしまうと、政府の借金対比でみた家計の余剰の率が縮小してしまう、海外から借金する可能性がある、という2つの意味で、国債価格の安定を支えてきた要因がなくなってしまうので、国債価格は下落する(金利が上がる)という話しにつながります。

上記自体は、恐らく間違いないことです。そしてそうした状況を回避するためにも、日本経済の生産性、そして成長率を引き上げ、家計が新たに稼げる環境を作り出す必要があるということが、前回の私の主張でした。

ところで、論点が2段階と書いたのは、上記の議論は日本だけを切り出した部分均衡的な議論だという点です。つまり、上記の議論は、「ところで、欧米はどうなのだろうか?」という点を捨象しています。仮に日本が上記のような状況に陥ったとしても、欧米がもっとひどい状況になれば、結局国際的な資金の流れが日本に向かい、然程日本国債の金利が上がらずに済む可能性も残ります。ぐっちーは、この点を重視しているのだと思います。

私個人は、この2つめの論点は重要であり、またそうなる可能性も相応にあるが、「他人任せ」なので、やはり日本国内でしっかりした方がよいという意見です。この点、次回で。

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3 comments on “Vol.45: 消費税問題(その1)
  1. ぺルドン より
    神の御業

    を仕事にしている人が・・米国にはいらっしゃるらしい・・
    予測も・・この神の御業・・に入る・・

    チェザレの告白・・
    ありとあらゆる手は打ったが・・父親の法王が危篤の時・・自分も危篤・・このケースだけは・・考えていなかった・・
    考えていなかったので・・没落したが・・考えていても・・
    有効な手段に成り得たか・・やはり・・神の御業になる・・・

  2. st より
    遣らねばいけない事は決まっている

    国家財政のフローもストックも破綻しているんですよ、まずプライマリーバランスでフローを是正しないといけない、他人任せや経済成長の名目はもういい、増税と歳出削減の実質で遣って頂かないと、ストックはその後考えればいい、与野党の政治家と官僚が決断するのを待つだけです。

  3. ぐりふぉん より
    現状の延長線上で考えても改革にはならない

    毎回この種の議論が変なのは、緊縮財政によっての財政再建はできないという歴史的事実を軽視していることですね。歳出削減と増税に走って、状態を悪くし続けることになるので、ウンザリする。今回だけは別とかいうのでしょうかね?GDPを増やさない限り、財政再建は無理ということを前提に議論するようにしないと。財務省の情報統制が効いてるのでしょうかね?デフレで物価が安くなると実質的に利益を得るのは、公務員と年金受給者だが、原資が減ったら収入も減るという話が必ずでるのは年金受給者だけ。

    国内投資が増えないのは、規制が多すぎるし、今後も増えていくので、新規に事業を起こすためのコストが高くつきすぎる。
    あらゆる世代から、企業はもっと欲しいと思うものを消費者に提供すべきという声もよく聞かれる。買いたいものがないのも、規制による害悪だと思う。こういうのをやめていくだけで、日本の潜在成長率が改善すると思う。全国で一度にやるのが不安なら、地方ごとに特区の様な形で規制緩和していけば、何が成長の阻害要因だったかハッキリするのかも?

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