2010/05/10 00:00 | by Konan | コメント(1)
Vol.35: 日銀展望レポート
今回は、恒例ということで、先月末に日銀が公表した展望レポート(経済・物価情勢の展望)を採り上げます。このレポートは、毎年4月末、10月末に公表されるもので、日銀の景気の見方、金融政策運営の考え方が包括的に示されます(その他、1月、7月に中間見通しも出されます)。また、公表日の翌日には、詳細なバックグラウンドペーパーも公表され、そこに掲載される計表には、いろいろ面白いものがあります(とくに学生の方にはご覧になることをお勧めします。ブログの中ほどにURLを載せておきます)。
さて、今回のレポートを読み、不思議な感覚を持ちました。基本的見解の最初の文「わが国も含めた世界経済は、金融危機に起因する急激な落ち込みから脱出し、昨年後半以降は回復基調を辿っている。」は目先の経済について強気の見通しを示している一方、2文目の「もっとも、世界経済は、危機以前の状態に戻る過程にあるわけではない。」は、長い目でみたある種の不安感を示しており、その対比が居心地の悪さを感じさせるからです。
実際、レポート11頁の参考1では、白川総裁を含む日銀政策委員8人の経済見通しが記載されています。2010年度の実質GDP成長率は3ヶ月前の中間見通し対比+0.5%上方修正され、+1.8%が見込まれています。2011年度も+2.0%成長と、順調な成長が見込まれます。物価面でも、消費者物価指数見通しをみると、2010年度は引続き前年比マイナス0.5%と下落が続きますが、2011年度には+0.1%とプラスに浮上し、デフレ脱却が展望されています。
こうした目先の強気の背景は2点です。第1に、新興国・資源国の力強い成長が続くと見込まれること。第2に、2頁注2にあるように、当面のわが国の潜在成長率は「0%台半ば」と大変低く見積もられているため、+1.8%、+2.0%と成長が続けば、潜在成長率を2年続けて上回ることになり、需給のマイナスのギャップが縮小し、物価も上がってくると見込まれることです。
なお、目先経済見通しが「外れる」可能性についても触れられています。とくに下振れ方向については、「先進国経済の動向」「国際金融面での様々な動き」の2点が指摘されています。前者は米欧諸国での銀行貸出等の信用仲介機能の停滞、後者は(ギリシャを名指ししてはいませんが)中長期的な財政の見通しに対する市場の評価を意味します。
このような目先の強気感の一方、長い目では「新興国・資源国の世界経済におけるウエイトの上昇、影響度の拡大」の中、「先進国の公的債務残高の膨張」「わが国における少子高齢化・人口減少、実質成長率や生産性を引き上げる必要性」など、日本を含む先進国経済に関し、覚めた見方を示しています。
そして、同日(4月30日)に合わせて決定・公表された「当面の金融政策運営について」では、「きわめて緩和的な金融環境を維持する」とともに、「成長基盤の強化に資する新たな取り組みを行う」とされました。
想像するに、日銀も複雑な政治環境の中、デフレ脱却の見通しを早く示したい一方、だからと言って緩和的金融政策から早く脱することに躊躇しているような気がします。恐らく、潜在成長率が低迷する中、緩和的政策の継続のリスクが然程大きくないこと、また、実際に日本の成長力に赤信号が灯る中、何かしないとまずいという焦りを感じていることなどが、今回示された金融政策の考え方の背景にあるのではないかと感じます。
今後の日銀の動きに注目したいと思います。
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One comment on “Vol.35: 日銀展望レポート”
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開く・・と・・ぐっちーさん・・
阿鼻叫喚・・となるでしょうか・・月曜日の東京・・
鵺的文章・・相変わらず・・日銀展望レポート・・
「フリーフォール」の明快さが心地よい・・
東大とMIT・ケンブリッジの違い・・
ノーベル賞あるかないかの違い・・
日銀も早くノーベル賞受賞者を出さねば・・・