2010/01/11 00:00 | by Konan | コメント(0)
Vol.18: 新年特集(その2、景気)
年初特集の2回目のテーマは景気です。景気については、昨年末にかけての政府、日銀のデフレ宣言以降、悲観的な見方が再び強まっています。他方、結構楽観的な見方をするエコノミストも少なくありません。なぜそうした違いが出るのか、という点を中心に取り上げたいと思います。
ある指標について、「5割減の後、5割増になった」と聞くと、皆さんどう感じるでしょうか?「元に戻ってよかった」と思う方も多いと思います。しかし、冷静に考えてみるとそれは間違いです。元々100だったものが5割減になると50、それが5割増だと75ということで、元の100からみると、25%低い水準ということになります。今、景気について行われる様々な発言や報道をみるとき、このどちらのことを扱ったものなのか、「ボトム対比5割増」という方向感に関するものなのか、「ピーク対比25%低い」という水準感に関するものなのか、明確に切り分ける必要があります。例えば日経新聞は前者、ぐっちーは後者といった感じでしょうか。この点だけをとれば、何を扱っているかという点に誤解さえなければ、ある意味でどちらも正しいということにもなります。要は、日本や米国の経済の状況は、まさに「5割減の後5割増」の状況に現状あるのだと思います。例えば、日本の輸出や鉱工業生産のような数字をみると、リーマンショック後の世界的な需要の収縮と、強烈な在庫圧縮を理由に5割減少した後、在庫を圧縮し切ったこと(在庫圧縮要因による減少が止まったこと)と、新興市場国の需要が戻ってきたことを背景に、5割増となっていますが、ピーク対比引続きかなり低い水準です。
しかし、本当の問題は、「ピーク対比レベルが低い」ということが「とりあえずボトム対比5割増となった回復の勢いの持続性」に対し、影響を与え得るという点にあります。この点において、私は悲観論です。結論を先取りすれば、今年の景気について、「本命:さえない状況が続く、対抗:二番底、穴:回復」とみています。
理由は2つです。まず、水準がピーク対比25%低いということは、単純に言えば、企業の場合、売り上げがピーク対比25%少ないと言うことになります。このため、赤字を出さないためには、徹底的なコストカット、端的には臨時雇用の削減やボーナスカット、賃下げをせざるを得ませんし、先を見越した設備投資を行う余裕もありません。要は、雇用、設備投資関係の経費を削減せざるをえず、これが循環して、個人消費が落ち込んだり、あるいは設備機械メーカーや建設会社の景況をさらに悪化させるといった負の連鎖が、実体経済の中で回ってしまう恐れがあります。ボトム比50%回復してきた勢いが失速する可能性があるということです。
第2に、世界経済の注目点である米国では、上記の雇用面の問題に加え、商業用不動産市況の下落も続いています。今回の金融経済危機に至る過程で積み上がった「過剰」の調整局面にあるということですが、これが金融面に負の効果をもたらし、金融の余裕がなくなり貸し渋る、そして実体経済が悪化するというここでも負の連鎖が生じる可能性があります。この2点を考えると、全く楽観的になれませんし、「対抗」として二番底と書いたのもこうした理由です。
そのうえで、唯一救い主になり得るのは、中国をはじめとする新興国です。ドバイのような砂上の楼閣もあります(まだまだ隠れている可能性が小さくありません)が、実体的にもしっかりした発展余地を残している(財政政策のゆとりも残している)国が何とか頑張ってくれれば、二番底までは避けられるという期待を込め、「本命」は冴えない状況が続くとしました。「穴」はこの新興国要因が良い意味で予想を裏切るケースです。
1年後このブログを見て、とても恥ずかしい思いがするかもしれませんが、ただ、「5割減後の5割増はまだピーク比25%低い」ということだけでも頭の片隅に残して頂ければ幸いです。
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