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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2023/11/06 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.213: 日銀金融政策決定会合+内閣府月例経済報告


今回は、10月30・31日に開催された日銀金融政策決定会合と、30日に公表された内閣府月例経済報告を紹介します。前者については既にSaltさんが解説されているので、まずファクトを淡々と書き、その後に感想を加えることにします。

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景気判断は維持
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今回のように展望レポートがある月(1月、4月、7月、10月)とない月(3月、6月、9月、12月)とではスタイルが異なり比較が難しい面はありますが、景気判断は現状・先行きとも維持されました。

(現状)
・基調:緩やかに回復している
・個人消費:物価上昇の影響を受けつつも、緩やかなペースで着実に増加している
・設備投資:緩やかに増加している
・住宅投資:弱めの動きとなっている
・公共投資:緩やかに増加している
・輸出:海外経済回復ペース鈍化の影響を受けつつも、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっている

(先行き)
・当面は、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化に加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果などにも支えられて、緩やかな回復を続けるとみられる。その後は、ペントアップ需要や経済対策の効果は和らいでいくものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが経済全体で徐々に強まっていくなかで、わが国経済は、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる

(リスク要因)
・海外の経済・物価情勢と国際金融資本市場の動向
・資源・穀物価格を中心とした輸入物価の動向
・企業や家計の中長期的な成長期待

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24年度物価見通し大幅上振れ
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展望レポートの中では、植田総裁を含む9人の政策委員会メンバーによる実質GDP・消費者物価指数の見通しが示されます。中央値(9人のうち上からみても下からみても5番目の数字)は以下の通りです。2024年度の除く生鮮食品や2023年度の除く生鮮食品・エネルギーが大幅に上方修正されたことが特徴です。ただし、2025年度は目標の+2%に届きません。

(実質GDP)
2023年+2.0%(前回+1.3%)、2024年度+1.0%(前回+1.2%)、2025年度+1.0% (前回+1.0%)

(消費者物価指数=除く生鮮食品)
2023年度+2.8%(前回+2.5%)、2024年度+2.8%(前回+1.9%)、2025年度+1.7%(前回+1.6%)

(消費者物価指数=除く生鮮食品・エネルギー)
2023年度+3.8%(前回+3.2%)、2024年度+1.9%(前回+1.7%)、2025年度+1.9% (前回+1.8%)

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上限金利柔軟化
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政策が修正されました。具体的には、イールドカーブコントロールの大枠(短期金利マイナス0.1%、10年物国債金利ゼロ%)は維持されましたが、10年物国債金利に関する±0.5%の変動幅が消えたほか、「上限1.0%で厳格に抑制」から「1.0%の上限は目途」と柔軟化されました。

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よいしょする日経
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今回の政策修正を事前に抜いた日経は、その後も、「金利操作を葬り去った日銀 米金利上昇を奇貨に」「異次元緩和、薄れる輪郭 正常化へしたたかに布石」など、今回の修正は必然で深慮遠謀だったとの論調です。総裁人事の際に「雨宮氏に打診」というとんでも記事を書いたことの挽回を必死に図ろうとしている感があります。

それはさて置き、今回の修正の背景と是非を考えてみたいと思います。まず、7月の政策修正時、3か月後に再修正を行うとは全く考えなかったと思います。「上限を0.5%から1.0%に大きく引き上げたのだから、暫く大丈夫」との雰囲気が支配的だったと思います。その意味では、日経のように「自ら図った」のではなく、追い込まれた再修正とみています。

追い込まれた直接の理由は、FRBの金融政策スタンスが予想よりタカ派的で、米国長期金利が上昇を続け、つられて日本の長期金利も1.0%に近付いてしまったことですが、加えて、上記の政策委員の物価見通し上方修正に表れているように、日本の物価が思ったより強いことも挙げられると思います。物価見通しを立てる調査統計局への不信感が漏れ聞こえるほどです。

ただ、仮に追い込まれ再修正としても、修正の内容が良ければ結果オーライです。この点は微妙です。植田総裁は会見で何度も「第一の力」「第二の力」との表現を用いました。物価が上振れていることに関して、前者は「輸入物価上昇が国内物価に及んでいくところ」を、後者は「国内の賃金と物価が好循環で回っていくところ」を指します。そして、第一の力は働いているが、第二の力はまだ不十分との判断を示します。

今回の政策修正は、煎じ詰めれば1.0%が厳格な上限から目途に変わったことです。1.0%越えも当然容認されるでしょう。ただ、10年物国債金利が1.5%、2.0%と上昇していくことは射程外・許容範囲外と思います。その意味では、引締め効果は余り強くありませんし、現にそれを見透かされて、為替相場は円安に動きました。こうしたとてもマイルドな引締めにとどまった理由は以下の3つです。

・上記の通り第二の力がまだ十分でないと考えていること。
・「粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指していく」とのスタンスを取っているため、来年の春闘を見極めるまで思い切った政策変更がしづらいこと。
・政策の多角的レビューを1年から1年半かけて行っている最中で、その完了前の本格的な政策修正は行いづらいこと。

2点目と3点目は、知的な植田・氷見野・内田体制の精緻な考え方が逆に自らを縛ってしまっていることを意味します。自縄自縛です。他方、1点目は実質的な論点です。1点目が正しければ、政策修正は小幅にとどめざるを得ない、ないし、むしろしない方が良いことになります。ここが最も大事な論点です。

私は以前から、ちばぎん総研の前田さん(元日銀理事)が主張するイールドカーブコントロールの対象を10年から5年に短縮する考えを支持しています。来年の春闘に関し、少なくとも大企業が今年を上回る賃上げを行うことはほぼ間違いないと思います。その意味で、長期金利の形成を市場に委ね、市場の力で景気をコントロールして良い局面に既に到達していると思います。ただ、様々なリスク要因があり、不安が残ることも事実です。

そうした中で、コントロールに骨が折れる10年物国債金利をいじることは、昨年12月や今年7月のように、その後に市場との追いかけっこになってしまうので、得策ではありません。むしろ、フォワードガイダンスの効果が及びやすい5年物金利まではしっかりとコントロールしつつ、その先を市場に委ねることが、物価上昇圧力とリスク・不安のバランスを取るうえで賢い選択と考えます。この点で、今回の再修正は追い込まれただけでなく、内容も冴えないと受け止めています。

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月例経済報告も判断維持
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月例経済報告の景気基調判断は、現状維持。先行きのリスクに中東情勢が加わりました。

(現状)
・基調:景気は、緩やかに回復している
・個人消費:持ち直している
・設備投資:持ち直している
・住宅建設:このところ弱含んでいる
・公共投資:底堅く推移している
・輸出:このところ持ち直しの動きがみられる

(先行き)
・基調:雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、世界的な金融引締めに伴う影響や中国経済の先行き懸念など、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっている。また、物価上昇、中東地域をめぐる情勢、金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要がある
・個人消費:雇用・所得環境が改善する下で、持ち直しが続くことが期待される。ただし、消費者マインドの動向に留意する必要がある
・設備投資:堅調な企業収益等を背景に、持ち直し傾向が続くことが期待される
・住宅建設:当面、弱含みで推移していくと見込まれる
・公共投資:関連予算の執行により、底堅く推移していくことが見込まれる
・輸出:持ち直しの動きが続くことが見込まれる。ただし、海外景気の下振れリスクに留意する必要がある

今回はこの辺で。

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