2023/08/14 06:30 | by Konan | コメント(0)
Vol.203: 財政の限界?ーご質問に答えて
台風が続き、気象の異常さを実感します。今回は、6月26日に執筆した「月例経済報告と骨太」に対し、読者の方から寄せられたご質問に回答します。
私が「財政の制約が無ければ多くの政策に同時並行的に取り組むことが出来るかもしれないが、そうした状況ではない」との趣旨を書いたことに対し、「これは私自身の見解か、財政の制約は制度的なものか、それとも国債発行の持続可能性という意味での経済的実務的な意味での制約か」との質問を頂きました。
私の見解で、経済的な意味を意識したというのが回答ですが、少し敷衍します。
・まず、財政の問題に関する識者の意見は大きく割れています。前財務事務次官の矢野さんのような筋金入りの財政再建論者もいれば、MMT(Modern Monetary Theory)に近い財政大丈夫派もいます。私はその中間の立場にあり、その線に沿って書きました。
・制度的には、例えば外為特会の資金を一般会計に回すことが出来ないかといった論点が昔からあります。こうした意味で制度的な問題もあるかもしれません。ただ、私が意識したのは経済的論点です。
・上記で「中間の立場」と書いたように、財政再建を今すぐ進めないと国家が破綻してしまうとまでは思っていません。現に国債発行残高が増加しても、国の信認は揺らいでいません。他方で、信認が突然・非連続的に変化する可能性は否定できません。今日まで大丈夫であることが、明日も大丈夫であることを保証しません。さらに、日銀の体制が変わり、イールドカーブコントロールの撤廃等も視野に入ります。そうなると、長期金利が今までのような低位にとどまり続けることは難しいかもしれません。
・こうしたハイレベルの・抽象的な論点とは別途、まさに実務的な意味で、国債の増発には限界があると思っています。令和5年度の国債発行計画では、新規国債36兆円、借換債158兆円、その他合計で206兆円の国債発行が予定されています。例えばこれを100兆円増やし、300兆円に引き上げることが可能か?
・私は2つの理由で難しいと思います。まず、財政の拡張がインフレを引き起こす可能性があります。コロナ禍以降の米国のインフレ率上昇の主因のひとつは、財政支出増大です。MMTにおいてすら、インフレ率が上昇したら財政拡大を止めろと説きます。次に、市場の消化能力との兼ね合いです。100兆円増発を市場で消化し切るには、相応の金利上昇(価格低下)が必要ではないでしょうか。インフレ率や金利上昇は国民にとり打撃で、これだけの財政拡大を国会で通すことは難しいと思います。
・ただ、私の議論には致命的な弱点があります。「100兆円は無理としても、20兆円の増発は駄目なのか」との問いに答えられないからです。もし試行錯誤が許されるなら、日銀の金融政策正常化と国債増発を同時に行い、市場で何が起きるか見極め、その後に適切な国債発行のあり方を考えていくことが良いのかもしれません。ただ、現実にはこうした実験は難しく、確証の無いまま水掛け論的な財政議論が続いていくと予想します。
十分なお答えになっていないことは自覚していますが、これが私の限界です。
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