2023/05/01 06:30 | by Konan | コメント(0)
Vol.192: 植田総裁デビュー+月例経済報告
植田総裁初の日銀金融政策決定会合が4月27、28日に開催されました。政策変更無しは大方の予想通りでしたが、「1年から1年半程度の時間をかけた多角的レビュー」は想定外でした。ハト派的な決定を受け、為替相場は円安方向に振れました。今回はこの決定会合の解説を行った後、25日に公表された内閣府月例経済報告にも簡単に触れます。
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政策変更無し、多角的レビュー
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まず、黒田前総裁下の長短金利操作(イールドカーブコントロール)付き量的・質的金融緩和政策は維持されました。2月10日に人事案が明らかになった当初は、4月の決定会合での政策変更を予想する向きもありました。しかし、就任前後を通じ植田総裁は現在の政策を維持する必要性を一貫して説明し、徐々に4月変更説は後退していきました。
他方で、日銀の黒田前総裁以前からの常套手段は「検証を執行部に指示し、次回決定会合で報告してもらい、それを受け政策を考える」というもので、今回もこうした指示が出され、次回6月の決定会合で政策が変更されるとの予想が広がっていました。実際、私もそう思っていました。
これすら裏切られた格好で、市場は「ハト派」と受け止めた訳です。「1年から1年半」、ずいぶん長いと感じられると思います。しかし、例えば米国の中央銀行であるFRBは、2018年11月から2020年8月までかけて金融政策枠組み見直しの議論を行いました。今回の正副総裁人事は「国際標準」と言われますが、まさに米国の例に倣った訳です。
ただし、記者会見の中で総裁は、1年から1年半の間に政策変更を行う可能性がゼロという訳ではないとも明言しました。要は、長短金利操作付き量的・質的金融緩和という大枠の見直しには時間をかけるが、その大枠の中での修正の可能性は否定されなかった訳です。このため、次回会合以降も、毎回政策変更の有無に関する報道合戦が行われることになります。
なお、今回のもうひとつの特徴は、フォワードガイダンスの簡素化です。前回までは以下のような政策金利に関する表現がありました。
「政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。」
今回はこの表現が削除され、以下の一文に読み込まれる形となりました。
「日本銀行は、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指していく。」
また、物価安定目標に関し「賃金の上昇を伴う形で」と明記されたことも変化です。
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景気判断は維持
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今回のように展望レポートがある月(1月、4月、7月、10月)とない月(3月、6月、9月、12月)とではスタイルが異なり比較が難しい面はありますが、景気の基調判断は現状・先行きとも維持されました。なお、文章が丁寧になった印象を受けます。前回までいなかった植田総裁ないし氷見野副総裁の趣向でしょうか。
(現状)
・基調:既往の資源高の影響などを受けつつも、持ち直している
・個人消費:物価上昇の影響を受けつつも、緩やかに増加している
・設備投資:緩やかに増加している
・住宅投資:弱めの動きとなっている
・公共投資:横ばい圏内の動きとなっている
・輸出:海外経済回復ペースの鈍化の影響を受けつつも、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっている
(先行き)
・今年度半ば頃にかけては、既往の資源高や海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化に加え、緩和的な金融政策や政府の経済対策の効果などにも支えられて、緩やかに回復していくとみられる。今年度後半以降は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが経済全体で徐々に強まっていくなかで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。ただし、見通し期間(2025年度まで)終盤にかけて、ペントアップ需要の顕在化による押し上げ圧力が和らいでいくもとで、経済対策の効果の減衰もあって、成長ペースは次第に鈍化していく可能性が高い
(リスク要因)
・海外の経済・物価情勢と国際金融資本市場の動向
・今後のウクライナ情勢の展開やそのもとでの資源・穀物価格の動向
・企業や家計の中長期的な成長期待
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展望レポート
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展望レポートの中では、植田総裁を含む9人の政策委員会メンバーによる実質GDP・消費者物価指数の見通しが示されます。中央値(9人のうち上からみても下からみても5番目の数字)は以下の通りです。なお、今回初めて2025年度見通しが示されました。
(実質GDP)
2022年度+1.2%(前回+1.9%)、2023年度+1.4%(前回+1.7%)、2024年度+1.2%(前回+1.1%)、2025年度+1.0%
(消費者物価指数=除く生鮮食品)
2022年度+3.0%(前回+3.0%)、2023年度+1.8%(前回+1.6%)、2024年度+2.0%(前回+1.8%)、2025年度+1.6%
(消費者物価指数=除く生鮮食品、エネルギー)
2022年度+2.2%(前回+2.1%)、2023年度+2.5%(前回+1.8%)、2024年度+1.7%(前回+1.6%)、2025年度+1.8%
実質GDPは前回対比下振れ、物価は前回対比上振れです。とくに注目するのは生鮮食品とエネルギーを除く物価。今年度は昨年度を上回る上昇が予想される一方、2025年度にはまだ2%に到達しない見通しとなっています。
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月例経済報告は判断維持
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最後に内閣府月例経済報告。景気判断は現状・先行きとも維持されました。
(現状)
・基調:景気は、一部に弱さがみられるものの、緩やかに持ち直している
・個人消費:緩やかに持ち直している
・設備投資:持ち直している
・住宅建設:底堅い動きとなっている
・公共投資:底堅く推移している
・輸出:弱含んでいる
(先行き)
・基調:ウィズコロナの下で、各種政策の効果もあって、景気が持ち直していくことが期待される。ただし、世界的な金融引締め等が続く中、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっている。また、物価上昇、供給面での制約、金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要がある
・個人消費:ウィズコロナの下で、持ち直していくことが期待される
・設備投資:堅調な企業収益等を背景に、持ち直し傾向が続くことが期待される
・住宅建設:底堅く推移していくと見込まれる
・公共投資:補正予算の効果もあって、底堅く推移していくことが見込まれる
・輸出:当面は、海外経済の減速から弱めの動きが見込まれる
今回はこの辺で。
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