プロが語る世界情勢・政治・経済金融の最前線!

The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2022/10/11 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.168: 短観とポンド


先週急に気温が下がり、季節の変化を感じるようになりました。今回は3日に公表された日銀短観の紹介です。

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業況判断はほぼ横ばい
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報道の見出しは「製造業大企業の業況判断3期連続悪化」ですが、全体としてはほぼ横ばいと思います。円安や物価高のマイナスの影響がある一方、円安が有利に働く輸出企業があり、コロナ禍の影響も和らいでいるので、マイナスとプラスが打ち消し合う感じでしょうか。

・業況判断は数字が大きいほど良く、「良い」「悪い」の回答が拮抗するとゼロ、マイナス幅の拡大は業況悪化を表します。以下の仕入価格・販売価格等も同じですが、理論的には-100(「良い」との回答ゼロ)から100(「悪い」との回答ゼロ)の間で数字が動き、0が拮抗点です。
・最も注目される製造業大企業は、前回9の後、今回8 先行き見通し9となりました。製造業中小企業は前回-4 今回-4 先行き-5です。
・非製造業大企業は、前回13 今回14 先行き11です。コロナ禍の影響を最も受けた宿泊・飲食サービスは前回-31 今回-28 先行き-23となり、水面下のままですが大分挽回してきました。非製造業中小企業は前回-1 今回2 先行き-3です。
・全ての企業の業況判断は、前回2 今回3 先行き1です。「良い」「悪い」の回答がほぼ拮抗した状況が続くことになります。

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仕入価格は引続き上昇
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仕入価格は引続き上昇です。販売価格も上昇していますが、仕入価格の上がり方に追い付きません。ただ子細に見ると、仕入価格は頭打ち傾向にある一方、販売価格の値は大きくなりつつあり、少し価格転嫁が進み始めた感じも受けます。

・仕入価格・販売価格は、数字が大きいほど「上昇」の回答が多いことを示します。
・大企業、中小企業とも同じ傾向なので中小企業で説明すると、製造業の仕入価格は前回79 今回77 先行き74。79は最大値100に近い驚異的な高さで、大半の企業が仕入価格上昇に直面している状況を示します。しかし、値は僅かながらも下がる方向です。販売価格は前回35 今回37 先行き43と仕入価格に比べ値は小さく、イメージ的には仕入価格上昇に直面した企業の半分程度しか販売価格を上げられていない状況です。それでも「上昇」の回答は増加傾向です。
・非製造業は、仕入価格で前回58 今回59 先行き63、販売価格で前回21 今回23 先行き31です。
・経常利益でみると、中小企業全体で2021年度+27.5%増益後、2022年度は-7.9%の減益が見込まれています。

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設備投資増加、人手不足続く
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GDPに直接リンクする設備投資(ソフトウェア・研究開発を含み土地投資を除くベース)は、全体で2021年度+1.2%の後、2022年度+14.9%の増加が予想されています。前回調査比でも+1.5%上方修正です。

雇用人員判断(マイナスが大きいほど不足)は全体で前回-24 今回-28 先行き-31と不足感がむしろ強まっています。

資金繰り判断(プラスが大きいほど楽)は全体で前回12 今回11と「楽」超継続です。

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ポンドで起きたことは円で起きるか?
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暫く前、英ポンド安が急速に進行し話題になりました。Saltさんのメルマガでも詳細に解説され、足元では大分戻しましたが、保守党の支持率は下がったままです。無節操な財政政策で英国に対する信認が失われ、所謂トリプル安に見舞われ、年金基金の破綻も囁かれました。中銀(BOE)が本来インフレ退治のため利上げすべき局面で国債購入に踏み切り、財務大臣も減税策の一部を取り下げたため、市場は落ち着きを取り戻しましたが、一頃もてはやされたMMT(modern monetary theory)が現実には機能しないことを示した格好です。

日本では、「円安」にはなってもトリプル安の気配は全くありません。日本の財政赤字の規模は英国を凌駕し、気前よく経済対策が議論されますが、英国のようなことは起きません。これは謎です。日本の財務省の方が英国に比べ財政規律を重んじているからかもしれませんし、長期停滞が続く中で低体温症になり、最早発熱する体力すらないのかもしれません。

リフレ派の方からみれば、こうした問い自体ナンセンスなのでしょうが、英国での予想もしなかった展開を見て、他人事と思えなくなった次第です。

今回はこの辺で。

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