2022/03/28 06:30 | by Konan | コメント(0)
Vol.147: 月例経済報告と円安
今回は25日に公表された内閣府月例経済報告の紹介です。それだけでは寂しいので、前回触れた日銀の円安擁護論を簡単に解説します。
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現状判断は不変
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現状判断は維持され、ウクライナ情勢等の状況変化は先行きの表現に盛り込まれました。日銀(「基調としては持ち直している」)と比べやや厳し目の判断です。
・基調:景気は、持ち直しの動きが続いているものの、新型コロナウイルス感染症による厳しい状況が残る中で、一部に弱さがみられる
・個人消費:このところ持ち直しに足踏みがみられる
・設備投資:持ち直しの動きがみられる
・住宅建設:このところ弱含んでいる
・公共投資:高水準にあるものの、このところ弱含んでいる
・輸出:おおむね横ばいとなっている
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先行きはウクライナ情勢等による不透明感
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まん延防止等重点措置の解除を受け「経済社会活動が正常化に向かう」とされる一方、「ウクライナ情勢等による不透明感がみられる中で、原材料価格の上昇や金融資本市場の変動、供給面での制約等による下振れリスクに十分注意する必要がある」とされました。
・基調:感染対策に万全を期し、経済社会活動が正常化に向かう中で、各種政策の効果や海外経済の改善もあって、景気が持ち直していくことが期待される。ただし、ウクライナ情勢等による不透明感がみられる中で、原材料価格の上昇や金融資本市場の変動、供給面での制約等による下振れリスクに十分注意する必要がある。また、感染症による影響を注視する必要がある
・個人消費:感染対策に万全を期し、経済社会活動が正常化に向かう中で、持ち直していくことが期待される
・設備投資:企業収益の改善等を背景に、持ち直し傾向が続くことが期待される
・住宅建設:当面、弱含みで推移していくと見込まれる
・公共投資:弱含みで推移していくことが見込まれるものの、次第に補正予算の効果の発現が期待される
・輸出:海外経済が改善する中で、持ち直していくことが期待される。ただし、海外経済の動向や、供給面での制約等による下振れリスクに注意する必要がある
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日銀の円安擁護論
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さて、先週市場では円安が進み話題になりました。「有事の円買いの終わり」「円安が株高に結びつかない」などの見出しも踊りました。
前回紹介したように、黒田総裁は円安を擁護します。その元ネタが1月19日に公表されています。展望レポートの一部で、「為替変動がわが国実体経済に与える影響」と題する4頁の(日銀としては短い)小論です。
その中では、10%の円安ショックに対し実質GDPがどの程度反応するかなどが分析され、「円安の実質GDPへの効果は、近年も含め、統計的に有意にプラスであることを確認できる」と結論付けられています。分析対象期間は2000~2019年の20年間と、このうち2010~2019年の10年間の2つで、後者が「近年」とされます。
円安の影響ルートはプラス・マイナス含めて3つあります。
・財輸出数量は円安で押し上げられます。ただし、生産拠点の海外移転を背景に、押し上げ効果は近年小さくなっています。
・円安により所得収支が改善し、国内経済にプラスの影響を与えます。企業がその海外事業から獲得する収益は円安により膨らみます。この規模は近年増加しています。
・円安により輸入物価は上昇します。これは経済にとりマイナスです。この程度は近年高まっています。
上記3つを合わせると、1つ目と2つ目(プラス効果)が3つ目(マイナス効果)を上回るため、「円安は、全体としてみれば、わが国の景気にプラスの影響を及ぼす」ことになり、黒田総裁はこの分析に基づいて発言を行っています。
なお、これだけを取ると、円安が20%、30%と進めばより良いようにみえます。しかし、この小論には明記されていませんが、仮に円安がインフレや資本流出を招いてしまうと事態は変わります。「ある程度の円安」なら日本経済にプラスだが、「度を超す円安」は日本経済にとって害になる、というところでしょうか。
今回はこの辺で。
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