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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2021/10/11 06:30  | by Konan |  コメント(0)

Vol.126: 法王越え


黒田日銀総裁の在任期間がこれまで最長だった一萬田総裁(3115日)を抜き、日銀史上最長となったことが話題です。

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一萬田法王とは?
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戦後間もない1946年に日銀総裁に就任した一萬田さんは、戦後経済の安定化や復興で大きな役割を果たし、その存在感の大きさから「法王」とも呼ばれました。その略歴等は以下の通りです(日銀HPより)。総裁のほか大蔵大臣も務めたことは知っていましたが、国会議員になられたことは知りませんでした。そして、とても長生きされ亡くなられたのは1984年。私が社会人になった後のことでした。

一萬田尚登が18代目の日本銀行総裁に就任したのは、第二次世界大戦におけるわが国の敗戦の翌年(昭和21年)6月のことです。就任後直ちに連合国最高司令官マッカーサーに会見を申し入れ、「日本経済の実情を知って欲しい。ありのままのことを話し、私の意見を言うから、気に入らないことは聞き流しても結構だ」と率直に伝え、信頼関係を築いたとされます。

戦争によって国富の約4分の1を失ったわが国の復興資金を賄うべく、通貨安定と貯蓄推進のための国民運動を熱心に推進するとともに、かつてベルリン駐在時代に体験した第一次世界大戦敗戦国ドイツにおけるハイパーインフレーションの教訓を踏まえ、引き締め基調を堅持した金融政策を展開して経済の安定化に努めました。他方で、昭和24年にGHQ特別顧問として来日したジョセフ・ドッジが強度の緊縮政策を実施すると、そのデフレ的な影響を緩和すべく、市中銀行に対する貸出や買いオペレーションなどを駆使して財政収支の黒字分を民間に還元し、産業の復興を支えました。

昭和29年に総裁を辞任した後、鳩山、岸内閣の大蔵大臣を務め、この間に衆議院議員選挙に立候補し当選しました。昭和44年に引退し、昭和59年、90歳で亡くなっています。

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黒田総裁と新政権
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最長不倒となった黒田総裁。その任期は再来年(2023年)4月に訪れます(なお両副総裁の任期が3月のため、恐らく3月に副総裁たちと同時に退任されると思います。国会のねじれで福井さんの後任がなかなか決まらなかった影響です)。岸田政権がどこまで持つか、今後の衆議院選挙や参議院選挙の結果次第ですが(ここは永田町さんの領域ですね!)、岸田総理が次の総裁を選ぶ可能性は相応に高いと思います。

仮に高市総理になっていたなら、「サナエノミクス」に則りリフレ派的政策の継続を強く求められていたはずです。人事面でもリフレ派総裁の誕生もあり得ました。総理・総裁にはならなかったものの、高市さんは政調会長なので、政策面での口出しは十分考えられます。このため、日銀が急に政策の大転換を図ることは難しいと思います。

そうは言っても、総裁人事の要である財務大臣は麻生派の重鎮鈴木さんです。麻生さんは長年安倍・菅政権を支えましたが、実際はリフレ派には批判的だったようです。また、岸田総理の関心「デフレ脱却」ではなく「分配を通した成長」です。更に「聴く力」が自らの最大の武器とされます。黒田総裁は恐らく後任は自分を長年支えた雨宮副総裁(日銀生え抜き)で良いと考えると思います。その意向を踏まえつつ、高市政調会長(=安倍元総理)にも配慮し、雨宮総裁を支える2名の副総裁は、リフレ派エコノミスト出身者と財務省出身者(リフレ派でない正統派の)を配するというのが、現時点では穏当な見方と思います。

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政策を転換できるか
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以上のような政治的コンテクストを考えると、黒田総裁後も政策の大転換は難しいように思いますが、仮に政治を抜きに考えた場合、政策はどうあるべきなのでしょうか

黒田総裁下の異次元の政策で分かってきたのは、金融政策だけで経済を思い通り動かせる訳ではないということです。ただ、金融政策が無力という訳でもありません。端的に言えば、2%の物価安定目標の達成がほぼ不可能な状態が続きます。他方で、少なくともコロナ前・消費税率引き上げ前である2019年7~9月期までの日本経済は、白川前総裁時代(=民主党政権下)よりずっと改善しました。

この点が議論を難しくします。「無力だ」と言い切れるなら政策の大転換も可能です。しかし、無力でないとすると、政策転換による景気下押しが気になります。

黒田総裁を批判する議論は、「この政策は副作用が大きい」と主張します。政策の大転換で多少景気が下押すかもしれないが、副作用が取り除かれる分、日本経済にとりプラスであるとの主張です。

その代表的な議論は以下の3つです。

・経済の非効率な部分が温存され、元々低い潜在成長率を更に押し下げてしまう
・金融システムが不安定化してしまう
・円の信認低下や喪失をもたらしかねない

この3つの副作用は指摘としては真っ当です。ただ、政策大転換の是非を、感覚論ではなくある程度定量的に議論できるところまで議論が熟していないことも否めません。結局のところ、黒田派も批判派も決め手を欠き、現状を脱却できない情けない状況にあるというのが、正直な見立てでしょうか。

今回はこの辺で。

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