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2018/09/17 06:30  | by Konan |  コメント(3)

Vol.4: 内閣府の月例経済報告2018年8月


今回は、先月29日に公表された内閣府の8月の月例経済報告を紹介します。既に9月も出ましたが、明後日公表される日銀の9月の金融政策決定会合と比べてみたいので、次回に回します。

かつて経済企画庁という官庁があり、多くの優秀・著名なエコノミストを輩出しました。若い読者の方はご存知ないかもしれませんが、私以上の世代では、金森久雄さん、宮崎勇さん、香西泰さんなどの名前はビッグネームです。その流れをくむ内閣府は、景気動向指数やGDPを含む国民経済計算などの経済統計を作り、分析し、政府の景気に関する公式見解をまとめます。経済財政白書も執筆します。

さて、月例経済報告のPDFファイルのURLを掲げましたが、ご覧いただくと分かるように、その表紙に「景気は、緩やかに回復している」との判断が示され、その次の頁では、大変丁寧に前月の判断との主要な変更点をまとめた表が付されています。GDP統計を作る内閣府らしく、GDPの需要項目(個人消費、設備投資、住宅投資、公共投資、輸出、輸入)ごとに、各種経済指標に触れながら現状判断と先行き見通しが示されます。次に、企業部門と家計部門の動向として、生産、企業収益、雇用情勢が説明され、その後、物価と金融情勢、海外経済と続きます。因みに需要項目ごとの判断は以下の通りです。

・個人消費:持ち直していて、持ち直しが続くことが期待される。
・設備投資:緩やかに増加していて、増加していくことが期待される。
・住宅投資:おおむね横ばいになっていて、横ばいに推移していくと見込まれる。
・公共投資:底堅く推移していて、底堅く推移していくことが見込まれる。
・輸出:このところ持ち直しの動きに足踏みがみられ、(しかし)持ち直していくことが期待される。
・輸入:持ち直しの動きに足踏みがみられ、(しかし)持ち直していくことが期待される。

官庁用語(持ち直し、おおむね横ばい、底堅く推移、緩やかな増加、増加)は理解がなかなか難しく、慣れているはずの私でも、「おおむね横ばい」と「底堅く推移」はどちらが強い表現なのか、悩んでしまいます。なお、景気全体についての現状判断は上に記しましたが、先行きは「緩やかな回復が続くことが期待される」とされています。

さて、この月例経済報告には付録として「主要経済指標」が付いています。そのURLも下記に掲げました。13の個表に分かれ、その項目は、国民所得統計速報(GDPのことです)、個人消費、民間設備投資、住宅投資、公共投資、輸出・輸入・国際収支、生産・出荷・在庫、企業収益・業況判断、倒産、雇用情勢、物価、金融、景気ウォッチャー調査です。

読者の皆さんには、是非この個表をひとつだけでも眺めて頂ければと思います。内閣府がどのような指標に基づいて景気を判断しているか理解できるからです。ここで、各需要項目についてどのような指標が掲げられているか、下記に羅列します。

・個人消費:消費総合指数(実質)、実質総雇用者所得、名目総雇用者所得、消費者態度指数、実質消費支出、小売業販売額(うち百貨店販売額、スーパー販売額、コンビニエンスストア販売額、機械器具小売業者販売額)、新車販売台数、平均消費性向、外食売上高、旅行取扱額
・民間設備投資:法人企業統計季報(製造・非製造業別、大中堅・中小企業別など)、資本財出荷指数、資本財総供給指数、機械受注、建築着工工事費予定額(民間非居住用)、主要機関の設備投資アンケート調査結果(日銀短観など)
・住宅投資:新設住宅着工戸数(持家、貸家、分譲など内訳あり)、着工床面積、工事費予定額平米単価、住宅景況判断指数、首都圏のマンション総販売戸数
・公共投資:公共工事受注額、公共工事請負金額、公共工事出来高、公的固定資本形成、国の公共事業関係費、地方の普通建設事業費
・輸出・輸入:輸出数量、輸入数量、地域別・品目別輸出入数量指数

今回は指標名にとどめますが、次回月例経済報告を取り上げる際は、個々の指標の内容にも少し踏み込もうと思います。

ここで終えても良いのですが、最後に景気を判断するうえでの難しさについて簡単に触れておこうと思います。いくつか(いくつも)難しさがありますが、誰でも思い付く難しさは「先行きを予想する難しさ」です。一例を挙げると、輸出を予想するには、品目別の情報(例えば次のiPhoneがいつ発売されるかにより、電子部品の輸出が左右されます)も大事ですし、米国や中国など海外経済を読むことも必要です。公共投資のように国や地方の予算額でほぼ決まってしまうケースは楽ですが、その他の需要項目には多かれ少なかれ先を読む難しさが付きまといます。

しかし、現状判断自体にも難しさが伴います。例えば公共投資、住宅投資、輸出のような需要項目の場合、その現状を把握する統計が確り揃っています。輸出を例にとると、密輸がゼロとは言いませんが、ほぼ完ぺきに通関統計で補足できます。良く中国の統計は当てにならない(当局が操作している)と言われますが、中国と言えども通関を確り行うので、貿易に関する統計の正確性は他の統計を上回ると言われます。中国経済をみる際、中国国内の需要の強さを輸入統計を頼りにみる人もいます。

ところが、個人消費はそうはいきません。上の方で月例経済報告で取り上げられる指標を並べましたが、何だか物足りなくありませんか?旅行以外の娯楽やそれこそ風俗は入っていません。ネット購入もありません。消費の良し悪しの判断は本当に難しく手探りです。少し話は逸れますが、よく「インバウンド消費」が持て囃されます。しかしインバウンド消費は、GDP上は個人消費ではなく輸出に計上されます。数年前この話を聞いた際、俄かに信じることが出来ませんでした。言われてみるとGDPは「国内」を捉える計数なので、海外の方が日本で購入したものは輸出と捉える方が正確です。しかしどうやって海外からの旅行者の購入を見分けるのでしょうか?追々こうした話にも触れていきたいと思います。

もうひとつの難しさは、マクロとミクロの関係です。小泉総理の頃景気回復期間が長くなりいざなぎ景気の長さを抜いた際、良く「実感が無い」と言われました。今の景気回復局面も同様です。設備投資や輸出のように企業部門が主体の項目は、どうしても大企業の動きに左右されます。企業収益も同じです。こうしたマクロの動き、大企業の動きも無論大事です。とくにGDP成長率を当てようとする場合、設備投資や輸出の動きが鍵となることが少なくありません。ただ、やはり個人消費の動き、その背景となる雇用情勢や所得環境に目を凝らさなければ、景気判断への信頼感は得にくいと思います。しかし、この個人消費の現状評価が上記のように難しい訳ですから、景気判断は楽な仕事ではないということでしょうか。

今回はこの辺で。

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3 comments on “Vol.4: 内閣府の月例経済報告2018年8月
  1. ペルドン より
    経済企画庁表現には

    期待される・・
    見込まれる・・

    この二つしかない様子ですね。
    日本語の表現が非常に乏しい。
    いっその事・・
    期待されるの次に10段階中7とか・・100段階中69とか
    見込まれるの次に10段階中5とか・・100段階中49とか
    数字を付けてもらった方が・・
    それも無理なら・・強とか中とか弱・・を補足してもらえれば・・

    それにこれだけAIが進んでいるのだから・・
    分析内容をもっと更に・・詳細に分けるのも難解ではないと。
    腑分けさえ済ませば・・AIに任せれば・・難しくても数十秒もあれば・・反復して答えを出してくれるのではありませんか・?!・・・
    ( ^ω^)

  2. 健太 より
    日本語、大和言葉、本居宣長

     いやそもそもの日本語が二重構造になっているから、そのような用語の使い方はたぶん当たり前でしょう。
     文字による表現はわれわれは漢字から ひらがな、カタカナを作った歴史がある。その漢字の用法も正確には解明されていないと私はおもっている。
     素人の見方ですが日本語はたぶん文法などない言葉だとおもう。内部から日本語の文法を作るちからはない。ただあったのは藤原定家がした、定家かなつかいだけで、それが明治以降、歴史的かな使いとして国民教育をした。
    ところが敗戦時、いつものようにごろつきの集団にすぎない新聞社とそれに与する学者(?)がそれを変えた。かえられるようなものでないと言う単純な事実すら学者はおもわなかった。その後、漢字改革が行われて、さらに古い文章が読めなくなった。歴史の放棄です。外国に支配されるか上層部に大きな転換が起きる時、生じる現象です。
     その昔資本論を読んだがさっぱりだった。そりゃそうだろう、<資本の原始的蓄積>という翻訳語は日本語ではだったとおもうがそこにドイツ語の翻訳から生じた病名ともともとあった日本の病名の落差を手短に書いてそれを不思議と見ている。
     西洋医学ではいつ死ぬかわからないが、親父がこの男は三日後に死ぬと言うと必ず死ぬ、それが不思議だと主人公は述べている。

     私の父親がとはなんだ。ときいたことがあった。その時父親はテレビなどで使われる用語はまったく理解せずに見ていたがどうにも不思議だから思わず聞いたとおもう。この人々に通用する用語と行動をしないとわが国はいくらやってもダメです。

     私はその時<きちんとゴマかさずに、仕事をセよ>と言うことだと言うと、なぜそれが問題かという顔をした。そんなこと当たり前でしてきたから、なぜ言うのかが理解できないと言う表情でした。われわれが失ったものは大きい。

     ここが我が国の大問題でそれは明治維新に大きな元がある。要するに明治維新など巷間言われるような志士などいなかったとおもう。当時の公家を見れば十分でしょう。

     明治人とはいわゆる志士ではなく、もう少し別なエトスを持った人々だとおもう。ホリエモンにその要素を見るのは間違いではないとおもっている。
     その人々が主流になればあの戦争はおきず。仮におきてももう少し別な形となったとおもう。

  3. 健太 より
    再投稿

     森鴎外の小説?<かずいちか>だったとおもうがそこに父親に対して西洋医学を学んだ息子が不思議におもうことが書いてある。
    父親がこの患者は三日後に死ぬというと必ずしぬ。また汚れた手ぬぐいで手を拭くが気にしていない。それでも害はない。 
     また伝統的な病気の用語と西洋医学による病名と比較してその違いをみて、不思議だと見ている。
     確か破傷風については、それまでは一枚板といい、その表現のほうが病名にあっていると見ている。ここに西洋医学とそれまであった医学(?)の違いに奇妙な疑問を書いている。
     西洋医学と東洋医学というが、思うに我が国で言う東洋医学は元は支那だが独自に発展して別なものと見たほうがいい。ちょうどひらがなカタカナのように。
     同じように経済現象についてもその現象がある。
     我が国では株やだがアメリカでは社会に認めれた証券会社でそれは国民が信用するように、証券を買うとおもう。
     経済の仕組みが違うから我が国、経済をあげるには金利を上げないと無理でしょう。しかし金利の元は経済の拡大だから、それがないとなると国内は手がない。
     ではどうするか、江戸時代は門前町のような、今で言う観光で経済を動かしたが、大きな元は自然災害でしょう。また江戸の大火でしょう。
     現代は為替を通じて銀行は海外へでている。国内は金利ゼロです。
    ことは我が国国民が江戸時代と違うから金利で経済を拡大できないから貯金を海外へ向けることだ認識する(敗戦を認識する)まで2パーセントと言う健全な経済拡大はないとおもう。
     鴎外の小説のような認識が必要ではないか。

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