別のテーマを考えていましたが、先週最大の事件のひとつ（鳥インフルの方が潜在的にはより重大な話しかもしれません。。。）である日銀の異次元緩和について触れない訳にいかないと思いました。日銀の公表文のURLを参考まで貼り付けました。

黒田総裁体制に代わり最初の金融政策決定会合。市場、マスコミともかなり大胆な政策変更を予想していましたが、その予想を超える決定となり、為替、株価、長期金利は大きく動きました。決定のポイントは以下の点です。日銀自体も「２」をマジックナンバーとして、総裁会見等を通じ宣伝しています。

(1)（白川体制下で決めた）「２」％の物価目標を、「２」年間で達成する。
(2)このため、金融政策のコントロール指標を無担オーバーナイト金利からマネタリーベース（銀行券と金融機関が日銀に預ける預金の残高の合計値）に変えたうえで、これを来年末までに昨年末の「２」倍に増やす。
(3)マネタリーベース増加の手段として、国債やETF・REITの買い入れを増やす。とくに国債については、買い入れる国債の平均期間をこれまでの３年程度からその「２」倍の７年前後に伸ばす。
(4)こうした政策を物価上昇率２％達成が確実になるまで続ける。

このコーナーで、これまでも何度か金融政策について取り上げたことがありました（例えば2012年4月のVol.135）。その際、中央銀行にできることは、

(a)金利を下げる
(b)資金供給量を増やす
(c)質が悪い資産を買う

の３つしかないと書きました。今回は、超長期を含めた国債の買い入れ増加、およびこうした異次元緩和を物価上昇率２％が確実になるまで続けるとのコミットにより、(a)の金利引き下げを短期金利に止まらず、かなり長い金利にまで及ばせることとしました。(b)についてはまさにマネタリーベースを２倍に増やすことで実現されます。(c)はETFやREITの買い入れ増加により実現します（超長期国債の買い入れも、金利リスクが大きい商品を日銀が買い占める点で、似た意味を持ちます）。要するに、総裁自ら発言されているように「出来ること、するべきことを、兵力の逐次投入はせず、一気にやった」ことになります。この点で大英断であり、過去の日銀の姿勢との決別です。

ここ何年もの間、日銀が褒められることはなかったように思います。本当に久しぶりに日銀の政策が賞賛された印象を持ちます。他方、ここまでくると「やり過ぎ」「出口政策をどう考えるのか」との批判の声も聞かれます。実際、各種報道でも「円相場が暴落するのでは」といった有名投資家のコメントを引用しつつ、こうした論調が結構聞かれます。結局のところ、今後、(1)政策が上手く機能し２年後にバラ色の日本経済が訪れる、(2)これだけやってもデフレから脱却できない、(3)バブル再燃、逆に円や国債の暴落のかたちで、日本経済が現状以上に悲惨な危機的な状況に追い込まれる、の３つの可能性のいずれも否定できない、しかしその中で(1)に賭けたというのが、今回の日銀の決定の根幹と思います。

上記のうち、個人的には(1)の可能性も否定しません。今回の春闘の結果をみても、確かに何かが変わろうとしていることも事実で、余りに悲観的に「(1)はあり得ない」とまで考えることもないように思います。他方、日本経済の構造的な問題、とくに少子高齢化の進展は深刻で、(2)に終わる可能性も否定しません。(3)については、当面そう心配する必要はないように思います。地価上昇は局所的に起きると思いますが、1980年代のバブルのように日本国内どこでも地価が上昇するような狂乱状態は想像できません。国債暴落の方も、日銀が期間数年までの国債金利を極めて低くコントロールし、新発国債の多くを買い占める状況下では、なかなか起きないように思います。円については下記のように逆の方向を心配します。

当面の注目点は、ひとつには本当に来年４月に消費税を引き上げるのか、仮に実施した場合、1997年の再来にならないかという点です。もうひとつは、先週も取り上げた欧州情勢。ユーロが崩壊すると円高に戻り、アベノミクス下で生じてきた幻想が一気に崩れる恐れがあります。４月末には日銀の展望レポートが出るので、今後数週間の動きを踏まえ、もう一度日銀を取り上げます。