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2021/05/04 07:00  | 選挙 |  コメント(0)

自民党の候補者調整 〜 派閥の代理戦争 〜 (6)志帥会 vs. 宏池会 その1(静岡5区)後編


ゴールデンウィークもあとわずかとなりました。こうした大型連休は、通常であれば議員の地元活動が活発になります。ましてや選挙の年ともなれば、必死に挨拶回りをこなし、人が集まる場所での街頭活動に勤しむのが常でした。

ところが、去年から続くコロナ禍で、議員の活動にも制約が出てきています。有権者と直接会うことがままならない中、議員もいろいろと知恵を絞っています。以前の本ブログでは、YouTubeなどを使ったデジタル発信に力を入れる議員の話を取り上げました。

・「泡沫候補たちの宴のあと ~ 笑ってはいけない千葉県知事選の顛末 ~ 」(3/23)

そうかと思うと、「非常事態宣言中だから活動自粛します」と宣言する議員もいます。

有権者に感染させないように気を配る立派な先生だと評価されるか、あるいは、ロクに姿も見せないとネガティブに取られるか。それは次の選挙で判明することでしょう。

このツイートを投稿した山本朋広氏は、神奈川4区を地盤としています。この選挙区の現職は、立憲民主党早稲田夕季氏で、山本氏は比例復活議員です。さらに前職である浅尾慶一郎氏も立候補を予定しているため、激戦が予想されます。後ほど本連載で取り上げます。

さて、前回は参院広島選挙区の再選挙に寄り道しましたが、次期衆院選の候補者調整の話に戻したいと思います。

4/23の記事では、その時々に勢いのあるリーダーに引き立てられ、政治家として陽の当たる道を歩いてきた細野豪志氏の華麗な政治遍歴とその変節ぶりをお伝えしました。前原・小沢・鳩山・菅・蓮舫・小池と渡り歩き、最後にたどり着いたのは自民党二階俊博幹事長でした(細野氏のこれまでの軌跡を振り返ると、二階氏が最後かどうかはまだわかりません)。

・「自民党の候補者調整 ~ 派閥の代理戦争 ~(5)志帥会 vs. 宏池会 その1(静岡5区)前編」(4/23)

細野氏は、野党の若手のエースとして、所属する党は替わっても、一貫して自民党を手厳しく批判してきました。そこだけはブレませんでした。しかし、そんな細野氏が志帥会に入り、さらに自民党入りを目指すと宣言したことは驚きでした。誰もが「あり得ない」と思ったものの、細野氏と二階氏の企みは大きな障害もなく実現しそうに見えました。

というのも、その段階で、静岡5区に自民党の現職議員がいなかったからです。細野氏の対抗馬だった斉藤斗志二氏が引退した後は吉川赳氏(宏池会)が擁立され、同氏は、2012年に選挙区ではダブルスコアで敗れたものの、比例復活当選しています。しかし、2014年と2017年は選挙区で落選したのみならず、比例区で復活することもできなかったのです。

細野氏が選挙で圧倒的な強さを誇っていること、二階氏が幹事長であること、現職の自民党議員がいないことなどを考えると、次の総選挙で細野氏が自民党の公認候補となることはさほど難しくないことのように思われました。しかし、世の中はそう甘くはなかったのです。

●天網恢恢疎にして漏らさず

2019年1月、吉川氏が重複立候補していた比例東海ブロック選出の議員が市長選挙のため辞職しました。ここで1人が繰り上げ当選になります。さらに、同年3月、同ブロック選出の田畑毅議員が、Facebookで知り合ったという元交際相手に準強制性交などを行ったと刑事告訴され、離党の上議員辞職しました。これにより、吉川氏が繰り上げ当選することになったのです。

吉川氏が国政に復帰したことで、二階氏と細野氏の目算には狂いが生じました。このとき、ある議員などは「天網恢恢疎にして漏らさず」とつぶやいたものです。つまり、細野氏が志帥会や自民党に入ろうとするのは、「悪巧み」「許されないこと」だと思っている議員がいたということです。

とはいえ、吉川氏は選挙が弱く、議員としての能力も未知数です。また、有力県会議員を父に持ち、大学卒業後は国会議員の秘書をしていたようですが、地方議員や民間企業勤務などの経験はありません。

その上、闘うことが必ずしも得意ではないことから「公家集団」とも揶揄される宏池会の所属であることも懸念材料です。宏池会はこれまでにも二階氏が率いる志帥会から攻撃を受けているのです。

●志帥会の猛攻

二階氏は、幹事長となった2016年以降、宏池会に対してすでに2つのバトルをしかけています。本メルマガがお伝えしてきたとおり、山梨2区に加え、岸田文雄氏の地元広島にも容赦なく戦いを挑みました。

二階氏と菅義偉官房長官(当時)は、2019年の参院選で、広島に、現職に次ぐ2人目の候補者を河井案里氏とする爆弾を落としました。いくら自民党の強い地盤だと言っても、2人区に(同じ党から)2人を立てるのは無理があります。結果、当選したのは案里氏のみで、現職で宏池会所属の溝手顕正氏は落選しました。

宏池会にしてみれば、志帥会から殴り込みをかけられたようなものです。岸田氏は勝手に選挙区を荒らされ、派閥の子分は落選の憂き目に遭いました。挙句、河井夫妻のせいで実施されることになった再選挙では逆風が吹き荒れて敗北(以下の記事参照)。保守王国であり、宏池会の牙城でもある広島での敗北は、岸田氏の政治生命を終わらせたに等しいという声もあります。

・「参院広島再選挙」(4/27)

なお、岸田氏は、広島再選挙での結果について、派閥の例会で「私の力不足だ」と発言しています。

岸田氏「私の力不足だ」”広島再選挙”敗北で陳謝(4/28付テレ朝news)

「私の力不足」は政治家がよく使うフレーズで、実際には力不足でない場合にも使われます。しかし、岸田氏はこの場面で自分の責任であるとわざわざ認めることはなかったと思います。

岸田氏から敗戦の報告を受けた二階氏は、「明日に向かって元気を出せ」と激励したそうです。誰のせいで再選挙になって、負けたと思っているのか。やはり、このくらい狸でないと、野党から議員を連れて来たり、全国各地の選挙区に手を突っ込んでかき回すなどという芸当はできないのでしょうね。

●細野-二階 対 吉川-岸田

吉川氏は、「地元出身者こそが候補者にふさわしい」として、自分の正当性を訴えています。これは、裏を返せば、吉川氏には地元出身であることしかアピールできることがないということです。

一方の細野氏も、野党として自民党を厳しく批判してきたからこそ支持を得てきた面があります。それが、自民党入りを目指すと変節したことでどのような影響があるか。これは蓋を開けてみないとわかりません。

野党から志帥会入りした議員が自民党の公認を得ることの大変さについては以下の記事で述べました。選挙区で勝っていようと、二階氏の後ろ盾があろうと、決して簡単なことではないのです。

・「自民党の候補者調整 ~ 派閥の代理戦争 ~ (4)志帥会 vs. 清和会 その2 (新潟2区)」 (4/16)

細野氏は次期総選挙で自民党から公認を得ることができるのか。二階氏が過去に仕掛けた同様のケースから考えても、これはかなり難しいと思います。

しかし、現在支部長である吉川氏が公認された場合でも、細野氏に勝てる可能性はほとんどないでしょう。比例区で復活することが出来なければ、そこでゲームオーバーです。そうなると、細野氏は追加公認され、自民党入りすることになります。もし吉川氏が比例復活すれば、志帥会と宏池会のバトルが続きます。

もっとも、本メルマガ・ブログでお伝えしてきたとおり、自民党は、2回以上連続して比例復活している議員の比例区との重複立候補を原則として認めない方針を打ち出しています。吉川氏は、これまで3回の選挙で一度も細野氏に勝っておらず、2012年は比例復活、2014年は落選、2017年は繰り上げによる比例復活当選でした。次の衆院選でまた比例復活となれば、その次の衆院選では比例区との重複立候補が認められない可能性も出てくると思います。

時そこに至れば、細野氏に自民党支部長の肩書が与えられることはほぼ間違いないでしょう。しかし、そこまで待てないからこそ、細野氏は志帥会に入ったのです。次の衆院選では、吉川氏の息の根を完全に止めるために必死で戦うことでしょう。

強敵である細野氏を迎え撃つ吉川氏と宏池会は、どんな心境で、いかなる作戦を立てているのでしょうか。私には、蛇に睨まれた蛙の姿しか目に浮かびません。

次回は、宏池会にとっての最大のバトルフィールドである山口3区について解説します。

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