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2021/03/23 07:30  | 選挙 |  コメント(4)

泡沫たちの宴のあと 〜 笑ってはいけない千葉県知事選の顛末 〜


【千葉県知事選】異色候補組の4位争いは大接戦もピエロ河合氏、後藤氏が下位に沈む(3/22付東京スポーツ)

千葉県知事選が終わりました。予想通り、元千葉市長の熊谷俊人氏が当選しました。2位となった自民党推薦候補の関政幸氏の約3.6倍となる、140万票余りを獲得する圧勝です。戦後の千葉県知事選では過去最多得票となりました。

自民党千葉県連は、昨秋、千葉県出身のソウルオリンピックの金メダリストで、前スポーツ庁長官の鈴木大地氏の擁立を考えていましたが、「後見人」と言われる森喜朗元総理の猛反対により頓挫。この段階で、すでに熊谷氏の勝利が見えていた選挙でした。

31歳で千葉市長に当選して以来3期務め、バランスの取れた政策立案と発信力で高い知名度を誇る熊谷氏は、特定の政党の支持を受けずに「県民党」を掲げ、与野党から幅広い支援を得ました。自民党所属の参議院議員である石井準一氏や一部の県議は、鈴木氏の名前が取り沙汰される以前から、熊谷氏の擁立を主張していたくらいです。

そんな出来レースともいえる戦いで話題をさらったのは、「泡沫候補」たちでした。

3/13の本ブログで「泡沫候補の変遷」について分析したところ、読者の皆様方から多くの反響をいただいたのみならず、JDさんや、かんべえさんが、ご自身のブログで言及してくださり、大変嬉しく思いました。本当にありがとうございます!

ということで、今回の千葉県知事選における泡沫候補たちの得票数を見てみましょう。

●法定得票と供託金
 
今回の千葉県知事選は、当日有権者数5,197,045人、有効投票総数は2,000,081人でした。

法定得票は、都道府県知事選においては、「有効得票総数÷4」なので500,020人。供託金没収点は、「有効得票総数÷10」なので200,008人となりました。

法定得票数を獲得できた候補は、選挙ポスターやビラ、ガソリン、看板などの代金が公費でまかなわれます。したがって、2位の関氏以下は全員が法定得票数に達しておらず、3位の金光理恵氏以下は供託金も没収されるという結果に終わりました。

そのことからすると、金光氏と皆川真一郎氏を泡沫候補として扱うかどうか悩むところですが、いずれも長年教育に携わってきたバックグラウンドを持ち、リベラル系政党からの選挙立候補歴があるため、泡沫候補と呼ぶべきではないと思います。選挙広報や政見放送では、オーソドックスな主張をしていました。

ちなみに、金光氏は、2019年の船橋市議選に共産党候補として、皆川氏は、2017年の衆院選(千葉12区)に社民党公認候補として立候補しています。

●泡沫四天王

やはり、この知事選における泡沫候補は、大手メディアでもそのように分類されていたとおり、「コロナはただの風邪」の平塚正幸氏、「千葉のバイデン」加藤健一郎氏、ピエロメイク(バットマンの「ジョーカー」らしい)のYouTuber河合悠祐氏、キテレツ言動で話題をまく後藤輝樹氏の4人だと思います。

平塚氏は、渋谷のスクランブル交差点で「クラスターフェス」と称する集会を主催したり、日本医師会館で抗議活動中に、建造物不退去容疑で逮捕されたりしたことがあります。初出馬はN国公認候補として臨んだ2019年参院選で、今回の知事選は、2020年東京都知事選に続くまだ3度目の選挙にもかかわらず、泡沫候補1位と健闘しました。何か組織票でもあるのでしょうか。

意外だったのは、2014年から始めたというYouTubeの公式チャンネルが、「YouTubeの規約に違反したため、このアカウントを停止しました」となっていたことです。伝家の宝刀を奪われていたのですね。

加藤氏が泡沫候補2位につけたのは、ちょっと驚きました。というのも、昨今の泡沫候補にしては珍しく、デジタル発信が一切なかったからです。高齢ゆえ、YouTubeやTwitterを利用していないのはともかく、ホームページやブログもないので、加藤氏の主張は選挙広報と政見放送と、メディアの報道から垣間見るしかありません。

選挙広報に記載されている経歴を見ると、「内科医」「エール大学」など堅実な人生を歩んできたことがうかがわれる一方、「現在の夢 千葉県知事になって小池百合子と結婚すること」とも記載されており、そのアンバランスさに何とも言えないものを感じます。

政見放送は、小池知事へのプロポーズで始まり、街頭でも、「知事に当選しなければ小池さんに相手にされませんので…2位や3位ではダメなんです。是非私に清き一票を入れていただきたい」と訴えていました。

やはり、小池知事へのプロポーズが強いアピールポイントとなったのでしょうか。それにしても、2位や3位どころか6位に沈んだ加藤氏は、今後、小池知事にどのようなアプローチを試みるのか、興味深いところです。

河合氏については、初出馬でのブービー賞は大健闘だと思います。しかし、YouTuberとしての発信力は活かせなかったように思います。

民放版の政見放送では、冒頭で「この放送には著作権はありません。今からすごい早口で話す政見放送が始まりますので、すぐにスマホで録画して、YouTubeやTikTokに上げて、再生回数をどんどん稼いでください」と言った後、延々「えっーと」「うーん」「なんやったかな?」と、うなるばかりで、何の政策も語らないまま放送が終了。

NHK版では、千葉を夢と魔法の国にするアイデアを雄弁に語っていましたが、ピエロ(ジョーカー)メイクに気を取られて、中身はあまり頭に入ってこない人が多かったのではないでしょうか。「ウケを狙う」ことだけに注力していた印象が残ります。

そして、最大の驚きは、後藤氏が最下位だったことでした。というのも、後藤氏は、今回の千葉県知事選が11回目の選挙で、マニアの間ではそれなりの知名度があったからです。去年の東京都知事選では、立候補者22人のうち8位で、1月に戸田市議となったスーパークレイジー君(10位)や平塚氏(12位)よりも上位でした。

今回は、全裸に紙おむつ姿で放送禁止用語を連発した昨年の都知事選の政見放送ほどの奇行はありませんでしたが、NHK版では、冒頭から彼女にプロポーズ。民放版では、歌いながら、大胆にフレームインしたり、フレームアウトしたりを繰り返す完全な放送事故でした。

過激さは増していましたが、マニアたちには、もはや驚きがなく、飽きられてしまったのかも知れません。

投票率は、前回2017年の知事選の31.18%から8ポイント近く上がり、38.99%となりました。しかし、複数の泡沫候補の参入による効果があったと言えるほどのものではなかったと思います。

彼らの得票数もふるわなかったので、アメリカのように選挙結果に影響を及ぼすような存在にはなり得なかったように思いました。

● YouTuber政治の始まり?

そんな中、面白い記事を見つけました。

衆院議員がユーチューバーに 佐賀県関係4人、会えない有権者に発信(3/21付佐賀新聞LIVE)

原口一博氏(立憲民主・佐賀1区)、大串博志氏(立憲民主・佐賀2区)、岩田和親氏(自民・佐賀1区で落選し比例九州ブロック)、古川康氏(自民・佐賀2区で落選し比例九州ブロック)の4人が、それぞれのスタイルで工夫しているそうです。

特に、大串氏は、議員宿舎の自室に自前のスタジオを設置する力の入れようです。日々、時事問題をからめながら、自身の考えをコンパクトに発信しています。

ネット選挙が解禁された2013年の参院選以降、政治家は、選挙期間はもちろんのこと、選挙のない時期にもTwitterやFacebookの活用を進め、発信力を強化してきました。しかし、動画に関しては、街頭演説の様子を流すか、顔出しショットでカメラに向かって話す程度の使い方がまだまだ主流だったように思います。

次の衆院選からは、YouTuberを参考にした発信が活発となるのかどうか。佐賀県の議員たちが先駆けとなるかも知れません。まずは見守りたいと思います。

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4 comments on “泡沫たちの宴のあと 〜 笑ってはいけない千葉県知事選の顛末 〜
  1. Masataka Miki より
    示唆に富む記事ですね

    本件、よくある面白おかしく馬鹿にして終わりな記事でないところに好感と奥深さを感じました。(本当に笑ってはいけないですね)
    TwitterやYouTubeを使っての情報発信は、国民にとっても、一次情報に触れる貴重な機会になるので、どんどん浸透していってほしいと思っています。
    その中で有権者が正しい人を選択をすればいいだけなので、変な制限は行ってほしくない。
    と思う反面、アメリカでのトランプ人気を見ると・・・

  2. OnsidekickRecover より
    インディーズ候補

    お笑い芸人大川興業の大川豊氏が

    日本インディーズ候補列伝 という著書を出しております。

    いわゆる泡沫候補のことですが、一読の価値ありです。

  3. 永田町 より
    Masataka Mikiさんへ

    発信の選択肢が増えることは、候補者にとっても、有権者にとっても良いことだと思います。街頭演説に遭遇チャンスは限られていますし、選挙中に候補者同士の討論会が行われることも殆どないので、候補者の「話している姿」に触れることは貴重だと思っています。

  4. 永田町 より
    OnsidekickRecoverさんへ

    大川総裁はインディーズ候補研究の第一人者だと思います。
    先日の、緊急事態宣言の解除を決めた際の総理の記者会見では、フリーランス枠で大川総裁が質問し、菅総理がインディーズ候補認定されたのかとびっくりしました。

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