2021/04/16 08:00 | 選挙 | コメント(0)
自民党の候補者調整 ~ 派閥の代理戦争 ~(4)志帥会 vs. 清和会 その2(新潟2区)
今週からメルマガの配信を始め、大変多くの方からご登録をいただきました。どうもありがとうございます。今まで以上に丁寧に永田町を観察し、見聞きしたことや感じたことをしっかりお伝えしていこうと思いました。
本日は、次期衆院選に向けた候補者調整について、新潟2区の選挙区事情を取り上げます。
本来は、前回取り上げる予定だったものですが、その前に、「自民党の派閥」について、週刊誌の記事を題材にして解説したところ、思いのほか筆が走り、前振りのつもりが本論なみのボリュームになってしまいました。そして、編集部から「長すぎるので、選挙区の話は次回に」と指導が入ってしまいました(泣)。
・「自民党の候補者調整 〜 派閥の代理戦争 〜 (3)寄らば派閥の陰」(4/13)
ということで、今日こそ、しっかりと選挙区の話をします。
しかし、本論に入る前に(またか・・笑)、前回のメルマガの内容についてご質問をいただいたので、簡単にお答えしたいと思います。
●安倍政権と派閥の関係
「安倍総理は派閥を無視して大臣を任命していたのでしょうか?安倍政権下では、もはや派閥の機能はなくなっていたのですか?」
安倍晋三前総理は、2006年に最初に総理となったときには、総裁選で自分を応援してくれた議員を積極的に大臣に登用しました。スキャンダルで辞任する閣僚が相次いだこともあり、「お友達内閣」と揶揄されたことをおぼえておられる方もいるかと思います。
しかし、派閥を無視していたわけではありません。自身の出身母体である町村派(現在の清和会)や古賀派(以下同宏池会)を中心に、伊吹派(志帥会)・高村派(為公会に合流し志公会に)・津島派(平成研)・山崎派(近未来研)など他の派閥からも規模に応じてバランスよく入閣させています。
政権の「投げ出し」批判を跳ね返し、再び総理に返り咲いた2012年には、やはり総裁選を支えてくれた議員を入閣させ、前回の記事で述べたように、菅義偉氏、甘利明氏など無派閥からも積極的に登用しました。しかし、「お友達」だけで固めたわけではなく、岸田派(宏池会)4人、細田派(清和会)3人、額賀派(平成研)3人と、派閥にも配慮してうまくバランスも取っています。
この第2次安倍内閣は、閣僚を1人も替えることなく、2年以上走り続けました。その後、退任した2020年までの5年ほどは、1年ごとに改造を繰り返しますが、麻生太郎財務大臣と菅官房長官を留任させ続けた以外は、派閥の意向を反映させたと考えられる人事を行っています。派閥に過度にとらわれることなく、バランスよく目配りしながら組閣を続けたと言えます。
面白いのは、最初の頃の改造内閣では細田派や岸田派の入閣が目立っていたのに、2017年以降は二階派が必ず2ポスト以上を占めるようになっていることです。安倍前総理が二階俊博氏を重要視し始めたことや、党内の力関係が変化してきたことが見てとれます。
このあたりは、大叔父である佐藤栄作元総理の手法を強く意識していたのではないかと思います。安倍前総理は、最初の2年間をうまく乗り切り、支持率も高い水準で安定してきたことに自信を持ち、長期政権を狙うようになったのでしょう。
それが如実に現れたのは、2016年の第3次安倍第2次改造内閣の発足にあわせて二階氏を幹事長に起用したことです。二階氏の力を借りて、連続「2期6年」となっていた総裁任期を、「3期9年」に変更することに成功します。これによって、本来であれば2018年9月末までのはずだった任期が、2021年9月末にまで延びたのです。
3選目に入ってほどなくすると、党則に再び手を入れ4選を狙うのではないかという噂すらまことしやかにささやかれ出しました。二階幹事長も、「総裁が決意を固めた時は、国民の意向に沿う形で党を挙げて支援したい」と後押しする発言を繰り返しました。
しかし、2019年には「桜を見る会」をめぐる疑惑が表面化し、翌2000年にはコロナ対応に苦慮したことにより、支持率はジリ貧となります。その上、持病の悪化による体調不良も重なって、8月下旬には退陣を発表しました。4選どころか3期目途中での辞職になってしまいましたが、総裁任期規定を変更したおかげで、連続在職日数は佐藤元総理の記録を抜いて歴代1位となりました。通算在任日数もダントツの歴代1位です。もし派閥の力学を無視していたら、こうした記録は作れなかったのではないかと思います。
このように、安倍前総理は、かつての自民党の政権と比べれば派閥にガチガチに縛られることなく、時と場合によって自由に使い分けたとはいえ、やはり派閥の機能をよく認識していました。そのため安定感のある人事を実現し、長期政権につながったのだろうと思います。
今回も長くなりました・・すみません(苦笑)。ここから、いよいよ本題です。
●鷲尾 vs. 細田
以下の記事でお伝えしたとおり、群馬1区は、色々なプレイヤーが入り乱れ、「激戦」極まる選挙区でした。
・「自民党の候補者調整 ~派閥の代理戦争 ~ (2) 志帥会 vs. 清和会 その1(群馬1区) 」
それに比べると、新潟2区はぐっとシンプルです。2人の現職議員による一騎討ちになっています。
この選挙区には、民主党・民進党から無所属を経て自民党に入党し、さらに志帥会に入会した鷲尾英一郎氏と、2012年の初出馬からずっと自民党公認候補として選挙を戦ってきた細田健一氏(清和会)がいます。
両氏は、過去3回の選挙で対戦しましたが、結果は細田氏の2勝1敗。ただ、前回2017年は鷲尾氏が選挙区で勝利し、細田氏は比例復活当選となりました。このことが鷲尾氏の自民党入り、引き続いての公認争いにつながっていきます。
まず、細田氏は、いわゆる「落下傘候補」です。京大卒業後に当時の通産省に入省し、ハーバードケネディスクールに留学。その後退官し、衆議院議員の斎藤健氏の政策秘書を務めていました。
まったくの余談ですが、東大・経産省(通産省)・ハーバードケネディスクールという経歴は、前回の群馬1区の戦いで取り上げた上野宏史氏と同じです。
一方の鷲尾氏は、新潟生まれ新潟育ち。県内の進学校から東大に進み、新日本監査法人を経て、地元で公認会計士・税理士・行政士事務所を開業。2005年の郵政解散選挙で国政選挙に初挑戦以降、ほとんどが比例復活ながら、当選5回の中堅議員です。
永田町では、衆議院議員の中で一番偉いのは選挙区で当選した議員、次に比例復活(半人前)、最後に比例単独(最下層)というヒエラルキーがあります。選挙区で当選するというのは、とても大きな意味を持つのです。
鷲尾氏は、民進党の希望の党への合流とその後に続く混乱がありながらも、無所属候補として選挙区での当選を勝ち取っています。政党公認候補の特権でもある比例区との重複立候補という「保険」なくして選挙に挑み、見事当選したことには、非常に重い事実です。
●すっかり定着「野党から二階派入り」
そんな鷲尾氏の地力に細田氏は大きな脅威を感じたはずです。選挙区内に家を買って地域へのコミットを示し、「ここに骨を埋める」という意気込みを示していました。
一方、鷲尾氏は、他の旧民進党系議員のように立憲民主党や国民民主党には合流せず、自民党との距離を縮めていきます。2018年には新潟市長選で自民候補の応援をするまでになります。そして、「新潟2区の支部長は引き続き細田氏が務める」という条件付きで、自民党への入党が認められました(つまり、自民党員ではあるものの、支部長ではないので次期衆院選の「公認候補予定者」という立場ではありません)。
ところが、志帥会に入会し、二階幹事長という後ろ盾を得たことで、鷲尾氏の存在感が大きくなっていきます。2019年10月には衆院環境委員長に就任し、昨夏には新潟2区からの出馬を明言。「自民党の公認を得られるよう、死に物狂いで全力を尽くす」と、決意を表明しました。
鷲尾氏には、二階氏のみならず菅義偉総理の応援も得ているという噂もありました。そのためか、菅内閣が発足すると、外務副大臣に起用されました。
通常であれば、細田氏は前回同様に公認され、鷲尾氏は無所属で立候補することになるはずです。その場合、二階氏の狙いは、鷲尾氏が大勝し、細田氏を比例復活させないことです。現職議員が1人という状態なれば、鷲尾氏が支部長になるハードルが下がるからです。もちろん、細田氏は、政治生命を賭けて絶対に負けるわけにはいきません。
一方、派閥の親分である二階氏が幹事長であることを考えると、鷲尾氏が公認を得る可能性もゼロではありません。しかも、二階氏は常々「勝てる候補を公認するのは当然」と明言しています。
とはいえ、自民党の支部長を務める現職議員をさしおいて、野党から連れてきた議員を公認するのは、相当な力業です。
一つの参考として、前回衆院選における神奈川4区の浅尾慶一郎氏の例を見てみましょう。浅尾氏は、民主党で参議院議員を務めた後、2009年に離党して衆議院に鞍替えしました。みんなの党や無所属を経て、2017年に自民党(志帥会)に入党。神奈川4区での公認を狙っていました。
しかし、この選挙区には比例復活当選した山本朋広氏(ガネーシャの会)がいました。このため、浅尾氏は、2017年には無所属で衆院選に臨むことを余儀なくされました。このように、選挙区で勝ったという事実があっても、二階氏の後ろ盾があっても、野党から移ってきて自民党の公認をもらうことは、非常に難しいことなのです。
結局、浅尾氏は落選し、次の衆院選での捲土重来を期して活動を続けています。神奈川4区については、後日、この連載で詳しく取り上げます。
●二階派の戦いは続く
考え得るもう一つのシナリオは、どちらも公認せずに無所属で出馬させ、勝った方を追加公認することです。実は、二階氏は、前回2017年の衆院選において、山梨2区でこの方式を試みました。山梨2区・・おぼえておられますよね?以下の記事をご覧下さい。
・「公認バトルロワイヤル」(3/26)
2017年の衆院選の当時は、堀内詔子氏(宏池会)が支部長でしたが、前回まで選挙で勝っていたのは長崎幸太郎氏(志帥会)でした。双方を公認せずに競わせたのは、二階氏としては、当然、長崎氏が当選すると踏んでの判断です。ところが、それまで2回連続して当選していた長崎氏は、大方の予想に反して落選してしまいます。
その結果、堀内氏が追加公認され、支部長のポジションもキープしました。そして翌年、長崎氏は山梨県知事に転じました。二階氏ほどの「剛腕」をもってしても、こんな誤算もあるのです。
今回の新潟2区も、鷲尾氏と細田氏のどちらも公認せずに戦わせ、もし鷲尾氏が負けたら、その次の選挙では鷲尾氏を擁立することすら困難になってしまう可能性もあるわけです。
これまでの記事を読んでいただければおわかりのことと思いますが、二階氏は、清和会という、森、小泉、安倍、福田、そして再び安倍と、ここ20年間の自民党を牛耳ってきた派閥に2つもの選挙区(群馬1区・新潟2区)で喧嘩をふっかけているのです。
これだけでもすごいエネルギーですが、さらに、次期総裁を狙う岸田文雄氏が率いる宏池会にも2つの選挙区で戦いを挑んでいます。二階氏おそるべし。どこまで突き進んで行くのでしょうか。
次回は、志帥会と宏池会のバトルを取り上げます。
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