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2021/04/27 19:41  | 選挙 |  コメント(1)

参院広島再選挙


野党が衆参3選挙で全勝・・・広島の再選挙は自民が苦杯、菅政権に大きな打撃(4/26付読売新聞)

参院広島選挙区の再選挙が終わりました。与党候補と野党候補の事実上の一騎討ちの末、立憲民主党を中心とした野党が推した宮口治子氏が当選しました。

自民党は、同日に行われた補選2つと合わせて、3戦全敗です。北海道2区は不戦敗、参院長野選挙区は弔い合戦であることに加えて、祖父の代からの「羽田」のネームバリューが強いために、自民党の2敗は既定路線でした(以下の記事参照)。

・「菅総理は解散できるのか?」(3/13)

●「保守王国」広島

そんな中、広島はそもそも自民党が強い保守王国なので、勝てる確率が高いという楽観的な予測もありました。そのため、全敗を避けるべく、補選に合わせる形で再選挙ができるように、2/3に河井案里氏を辞職させたとまで言われていたくらいです。

しかし、与党候補は伸び悩みました。

・宮口治子(結集ひろしま) 370,860票 得票率48.36%
・西田英範(自民党)    336,924票 得票率43.98%

宮口氏が出馬を表明したのは3/21でした。告示2週間前の擁立だったため、選挙体制を整えるのさえ大変なのではないかと思っていました。というのも、この段階で自民党公認の西田英範氏は既に事務所開きを済ませ、活動を開始していたからです。

とはいえ、その西田氏とて立候補を正式に表明したのは2/26でした。したがって、終わってみれば大差なかったということかも知れません。

そうはいっても、広島は全国有数の保守王国です。衆議院小選挙区の定数7、参議院の定数4のうち、自民党は衆議院小選挙区5(2017年衆院選では6選挙区で議席を得たものの、河井克行氏の辞職でマイナス1)、比例復活1、比例単独1(繰り上げ当選した畦元将吾氏は広島県連所属)、参院1の計8議席を保有しています。国会議員だけではなく、県議・市議など地方議員の数も多く、しっかりとした組織ができあがっています。

特に、参議院の場合は選挙区が全県に及ぶため、組織力が物を言います。地方議員が自らの後援会を動かして活動してくれることが不可欠なのです。参議院の選挙は、地方議員による票の積み上げと言っても過言ではありません。普通に考えると、これだけの組織があれば、新人候補でも有利に戦うことができるように思います。

一方、立憲民主党は、広島では衆議院小選挙区1、参院1の2議席しかもっていません。県連組織も一応はあるようですが、どのような議員が何人くらい所属しているのかも明らかではありません。また、国民民主党社民党は広島を地盤とする国会議員がおらず、県連組織さえありません。民進党が離合集散していく過程で打撃を受けたのだろうと思います。これは広島県に限らず、全国に共通の傾向です。

このように自民党は、とても立派な組織を持っています。野党のそれとは比べるべくもありません。それなのに、なぜその組織を活かすことができなかったのか。

それはやはり、河井克行・案里夫妻の影響が極めて大きかったのだろうと思います。

前回2019年の参院選には、自民党から現職の溝手顕正氏と新人の河井案里氏の2人が立候補しました。保守が分裂するような選挙戦となり、溝手氏落選・案里氏当選の結果によって、その亀裂はさらに深まりました。

今回は西田氏1人を支援する選挙とはいえ、簡単にまとまれる状況ではなかったようです。さらに、河井夫妻が買収した100人余りの地方議員は、表立って活動できないという事情もありました。つまり、組織は形として立派だったものの、現実には機能しなかったということです。

●過去最低の投票率

河井夫妻の負の遺産は、投票率にも影響しました。今回の再選挙では、投票率は33.61%と低く、一昨年の参院選と比べて11.06ポイントも下落しました。これまで過去最低だった1995年の参院選での41.8%をも下回っています。

一般的に、投票率が低いと、しっかりとした支持母体や組織がある自民党に有利に働くと言われています。しかし、それでも自民候補の得票率は伸びませんでした。河井夫妻ひいては自民党への嫌悪感はこの有利な要因を上回るほど強かったということです。

また、案里氏擁立を積極的に推進したのは、当時の安倍晋三総理、菅義偉官房長官、二階俊博幹事長の3人です。菅総理と二階幹事長はいまだ権力の中枢にいます。まさに菅・二階イコール自民党なのです。河井夫妻への嫌悪感に加え、自民党への批判や不信も重なったのだろうと思います。

選挙応援に入った自民党の国会・地方議員は、選挙戦の序盤では、街頭で河井夫妻のことにあまり触れなかったそうです。しかし、選挙戦が進んでも苦戦が続いたため、途中からは河井夫妻を批判する方針に転じました。早い話が、「自分たちは河井夫妻とは違う」というアピールです。県連会長として陣頭指揮を取る岸田文雄氏も、普段の紳士的な口調ではありながらも、「悪いことをした人がいて・・・」と夫妻を否定する演説をしていました。

しかし、外から見れば河井夫妻も岸田氏も西田候補もみな「自民党」です。自民党議員や候補が河井夫妻を批判しても、有権者にしてみたら「みなさん全員自民党でしょう?お仲間でしょう?」と受け止めるのではないでしょうか。

また、「河井夫妻とは違う」ということの他に、西田陣営がどういうメッセージを打ちだそうとしていたのかにも少々疑問を持っています。というのも、岸田氏と西田候補は、選挙戦最終日に広島カープのユニフォームを着て活動をしていました。岸田氏は自身のツイッターで「私も西田候補も広島を愛する気持ちは誰にも負けません」と綴っていたのですが、そこは今回の選挙の争点ではなかったのではないでしょうか。

結局、河井夫妻の買収事件が与えたダメージを払拭することができず、有権者の自民党への期待を掘り起こすことも上手く行かず、河井夫妻の否定以外にメッセージがなかったわけです。そして組織もフル稼働させられないままに負けてしまったというところでしょう。

●岸田氏の今後

下記の記事の中で、「岸田さんの責任にするのは酷だ。首相を含め、党全体の責任だ」という党幹部のコメントが引用されています。

参院広島で痛恨の敗戦、自民・岸田氏、次期総裁選へのもくろみ崩れる(4/26付産経新聞)

広島は、宏池会にとって、池田勇人総理、宮沢喜一総理という2人の総理を生み出した「本拠地」とも言えるところです。現在、宏池会には広島県を地盤とする国会議員6人が所属しています。その地に案里氏という新人候補を強引に立てられ、溝手氏という宏池会の重鎮だった現職が落選の憂き目に遭いました。挙句、その新人は公職選挙法違反で有罪判決を受けて当選無効に。そして、強い逆風の吹く中再選挙を戦い、敗北したのです。

岸田氏からみれば、こんな迷惑な話はないでしょう。その上、再選挙での自民党候補の落選によって、次期総裁選出馬が危ういとまで言われるのは、不本意極まりないことと思います。

しかし、本来責任を問われるべき菅総理と二階幹事長は、批判をかわすため、「岸田氏の責任である」という線で押してくると思います。岸田氏は、それを跳ね返すことができるのでしょうか。

先週、前編をお伝えした静岡5区と、続いて取り上げる予定の山口2区は、どちらも志帥会と宏池会が戦っている選挙区です。岸田氏の今後は、これら2つの選挙区のバトルに大きな影響を与えます。選挙区情勢以上に、岸田氏を取り巻く動きからも目が離せなくなってきました。

次回は、候補者調整の解説に戻ります。どうぞお楽しみに。

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One comment on “参院広島再選挙
  1. 健太 より
    もう違う

    誰も今の自民党がいいとは思っていないがさりとてほかにあるか?野党の議員の能力はイマサラデ、自民党においても小泉進次郎氏などは先を見ても知れている。現国際社会経済社会はとてもではない一人では何もできず、軍事組織のようなものでないと対応できない。この先国際社会の激動は国内のあらゆる組織、個人を無視して進んでいくが、それがどのようなものか見えない。神学による訓練があれば、それも見えるが我が国の学校教育はそれをしていない。
     コロナにたいする我が国の政府機関の能力を今中共は冷静に図っているでしょう。
     自民党は一つの政党ではなく戦国時代の織田家のようなものでしょう。というよりその仕組みで動いているに過ぎない。近代的な政党ではない。
     その織田信長は明智光秀にやられたが、当時の人はそれを謀反とは思ておらず、当たり前とみていたと思う。それが我々日本の世界だから。どこにも日本として団結するという意識はなく、各部分では平気で外国と手を結んでいる。というより何がそれが問題になると思ている。意外と共産党は日本の政党だ。公明党に至っては中共朝鮮と手を結ぶことを多分何とも思ていない。いつも思うのだが議員の親族関係を表に出さない。戦前はそれを出した。政党助成金をやめて、個人献金だけにして、それを青天井にしてはどうかとおもう。様変わりになると思う。
     私もかなりの額を寄付したことがあるが、例えば町の川の橋を造るために10億きふをしたら仮にその人の所得税が10億だったら、税金はなしにずる。つまり税金の使い道を議会の予算ではなく、直接個人が決めるようにする。ふるさと納税はその一助ではないか?

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