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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2013/02/18 00:00  | by Konan |  コメント(2)

Vol.180: 中央銀行小槌再論(その4)


ヴァレンタインの夜はぐっちーと2人でデートでした(笑)。彼は相変わらず白川総裁擁護派で、日銀の政策が理解されないことは、ちゃんと報道する力がないマスコミの責任としていました。その日銀シリーズ最終回。今回はアベノミクスについて。アベノミクスは金融、財政、成長を三本柱としており、最近はむしろ財政に関し、単なる古い自民党への回帰か否かが着目されますが、今回は日銀との関係で金融に焦点を当てたいと思います。

アベノミクス金融の骨格は「物価が上がれば景気が良くなる」との主張です。正直言えば、はじめの頃この主張に強い違和感を持ちました。景気が良くなれば物価が上がるという因果関係論に慣れ親しんだ者にとり、主客が逆転しているように思えたからです。ただ専門家に教えを乞うてみて、あながち間違った議論でないことに納得してきました。

アベノミクス金融の説明は、以下の2通りが分かりやすいと思います。

(1)直感的な説明:選挙の頃良くマスコミで取り上げられた説明の仕方です。企業経営者の立場に立つと、物価の上昇は収益の増加をもたらします。売り値が上がっても仕入れ値が上がれば元も子もないように思えますが、「売上>費用」の関係、すなわちネット収益がある前提では確かにこうなります。収益が増えれば、投資や雇用に回す余力が生まれます。こうした投資や雇用者による消費で景気が良くなり、物価も更に上がり、企業収益がまた増える好循環が生まれます。

(2)論理的な説明:経済学では良く「実質金利」という概念が用いられます。例えば借入金利を3%とします。物価横這いの下で3%分の利払い原資を稼ぐのは大変ですが、物価が上がってくれば、この3%の金利が不変である限り、利払いが容易になります。この「名目金利ー期待物価上昇率」が実質金利と呼ばれる概念で、それが低いほど(名目金利と異なりマイナスもありです)借り入れて投資しようという気持ちを刺激します。要は物価上昇が実質金利低下をもたらし、投資が増え、その結果景気が良くなる訳です。また、付随的には実質金利が低い国の通貨は安くなりやすいことに伴う効果(日本に置き換えれば、円安による景気刺激効果)も持ち得ます。

ところで、上記の2つの説明はある種の前提を置いているようにみえます。何れも、物価上昇が投資意欲を刺激するルートが円滑に働くことを想定しているように思えます。仮にこの「円滑さ」に疑問を挟むと、ストーリーはどう変わるでしょうか?

(1)では、物価上昇に伴う収益増加を企業が溜め込むことになります。少なくとも暫くの間、投資には回りませんし、雇用者にも還元されません。雇用者からみれば、物価は上がるが賃金は上がらない、ぐっちーが昨年ブログで書いた事態に陥ります。

(2)では、名目金利が上昇してこないか気懸りです。常識的にはデフレ下よりインフレ下の方が名目金利が高いはずで(先程の式をひっくり返すと、実質金利=名目金利ー物価上昇率が、名目金利=実質金利+物価上昇率に置き換わります)、投資が増え景気が良くなるのに時間がかかってしまううちに、「悪い金利上昇」シナリオが具現化してしまうことになります。

こうした議論は、アベノミクス金融批判派からも聞かれるところですし、経済学では、仮定が変われば結論が大きく変わってしまうことも良くありがちなことです。他方、アベノミクス金融擁護派(いわゆるリフレ派や貨幣数量説派)からみれば、ケチをつけるのはやめて、アベノミクス金融政策が効果を発揮するよう前向きに考えてみようよ、ということになると思います。

後者の立場に「仮に」立つとすると、何が重要なのでしょうか。

(1)まずは、企業が早く自信を回復するよう環境を整えることです。そもそも競争激化の下、企業が売り値を上げること自体、容易に出来ることではありません。下手な上げ方をすると、最近委員長人事で注目の公取委に目を付けられるリスクすらあります。言わんや賃金の引き上げは、経営の安定に相当の自信を持てない限り至難の技です。逆に言えば、このように物価が極めて上がり難い経済構造を前提とすれば、日銀の金融政策は破天荒なほど大胆になっても大丈夫でしょうし、企業が求める規制緩和を早期に実現し、あるいは成長戦略の実現により環境を整え、将来に自信を持って投資していける構図を作り上げることが不可欠です。

(2)第2は、財政の規律です。補正予算と異なり、平成25年度本予算では国債発行に一定の歯止めをかける方向です。私はすぐに長期金利が上昇してしまうことを喧伝する悲観論者ではありませんし、震災復興や防災・減災のため不可欠な公共投資は当然存在すると思います。また、建設業界の人不足問題もあるので、そもそも公共投資の大幅な執行増にはこの面での歯止めもかかります。ただし「昔の自民党に戻りコンクリートのバラマキを行っている」といった悪評が立つことは、悪い金利上昇を防ぐ面で決して良い話ではないことも、言うまでもないことです。

1月22日に出された日銀と政府の合意文書は、日銀による強力な金融緩和とともに、政府による成長戦略と財政規律を合わせて織り込んでいます。私も、日銀、政府、民間の三者が真面目に動く以外に出口は無いという、余りに在り来たりな結論で日銀特集を終えることになります。自分の想像力欠如がやや情けなく思えますが、安倍・白川論争の意味は、こうした常識論に皆が立ち帰ったことにあるのでしょうか。

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2 comments on “Vol.180: 中央銀行小槌再論(その4)
  1. ペルドン より
    漱石

    智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。
    意地を通せば窮屈だ。
    兎角に人の世は住みにくい。

    智を理と解釈する人もあり・・
    それぞれ・・
    咀嚼すると・・
    ・・・???

  2. ばすがすばくはつ より
    円安に持っていくことができた原因は?

    なんなのでしょうか。
    政策的には同じような主張を民主党の前原さんとかがしていましたが、そのときは円安に振れず、同じような主張で、円安に振る事が出来た理由が分からないんです。
    円安を予測していた野村あたりから強烈な円売りがでていて、それをこっそり、外為特会が買っていたなんて事は・・無いですよね。

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