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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2012/11/26 00:00  | by Konan |  コメント(2)

Vol.168: 総選挙の争点(その2)


今回は消費税問題を取り上げます。小沢さんの新党立ち上げの契機となったこの問題。各党の主張は概ね以下のように別れると思います。

(1)民主、自民、公明:すでに決定された消費税率引上げの実施を(経済情勢を見極めながら)確実にはかっていく。

(2)維新の会:消費税を国税ではなく地方税として用いていく。

(3)小沢さんの政党など:消費税引上げ阻止。

消費税問題に関し感じるのは、最早この点が重要な争点とは思われていないということです。すでに国会を通ってしまった法律を覆すことは難しいとの諦めがあるのかもしれません。あるいは、法律の枠組みを大前提に、景気情勢との関係で「引上げを予定通り行うか延期するか」との点に焦点が移ってしまったのかもしれませんが、例えば原発問題と比較すると、消費税引上げ反対を訴える集会が大規模に展開されることはありませんし、各種世論調査(世論調査の信頼性にはいろいろ意見があると思いますが、同じ社が実施する異なるテーマを巡る世論調査間の比較には有意な意味があると思います)をみても、原発と異なり、引上げ賛成と反対は拮抗しており、少なくとも反対派が優勢という情勢にはありません。この意味で、(3)の主張が選挙で旋風を巻き起こすかどうか、私は懐疑的にみています。

ところで、以前何回かにわたり消費税問題をこのコーナーで取り上げたことがありました。その際書いたことに若干付け加えて整理すると、以下のようなことになります。

(1)消費税問題について様々な立場がある。(a)歳出の無駄を除く努力無くして消費税引上げ無し、(b)税収の引上げ努力は必要だが、消費税は弱者に不公平な税制なので、他の税率の引上げにより実現すべき、(c)何をやっても国債の信認はいつか崩れる。そうならわざわざ目先の景気後退につながる消費税引上げを行うことは避け、成り行きに任せた方が良い、(d)真面目に財政再建努力を行い、国債の信認低下の可能性を極力最小化した方がよいので、消費税引上げに賛成(それを地方税化するか否かさて置き)。

(2)個人的には、(a)には限度があると思う、(b)については重要な論点であるが、もう少し考えてみたい(と立場を鮮明にせず)、(c)と(d)についてはどちらもあり得る(「あり」も「きりぎりす」もそれぞれの生き方である)、ただし国民が論点をしっかり理解したうえで選択することが大事(そうであれば、結果は自己責任)。

基本的に数か月前に書いた上記の点に関し自分の意見に変化はありません。ただ、あえていうと、(a)について再評価する気持ちが強まっていることも事実です。

数か月前に(a)を切り捨てたのは、いわゆる財政の無駄のようなことを取り上げていっても所詮効果に限界がある、なぜなら、国債費と社会保障費が最大の歳出項目でありその削減はほぼ不可能だから、との考え方に基づくものでした(過去に無駄の最大の温床とみられた公共事業費は、最近の震災復興関連を別にすれば、小泉改革で大幅に削られてしまったのが実情です)。国債費の削減は不可能ですし(国債の償還や利払いを止めることはまさにギリシア同様のデフォルトです)、むしろデフレ脱却から突如実質経済成長を伴わない悪いインフレに突入することを避けることが、最も重要です。

他方、社会保障費について根源的に見直すことは、不可能ではありません。しかしその際、日本国民が長きにわたり(恐らく千年単位で)大事にしてきた「お年寄りを大切にする」価値観を壊す必要があります。日本の将来のため、子供世代のため、お年寄りへの支出を大幅に削減する方向に舵を切り直すことです。年金に関し、私の両親の層など一定年齢以上の層は、これまでの自らの支払いを越えた受け取りを得ています。医療費関係でも手厚い補助があります。この点に踏み込む勇気がある政党はないように思います。従って現実には選挙の争点ではありませんし、選挙後も何かが大きく変わることはありません。もっと言えば、そのような主張を行い選挙に勝てるとは思えません。それが実情と思います。

ただ、80歳の石原さんのような方こそ、「最後の自己犠牲」として自らの世代を代表してそうした主張を行う資格があるのかもしれません。橋下さんのような方が主張しても反感を招くだけでしょうから。こうした点で何かサプライズがないか、みていこうと思います。

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2 comments on “Vol.168: 総選挙の争点(その2)
  1. ねこ より
    日本版財政の崖

    実際、日本がどこまでの借金に耐えられるのか、誰もわかってないから無秩序に債務が増え続けているのだと思います。だから自民党安倍総裁のような主張も出てくるのでしょう。これ以上国債残高を増やさないようにするには、日本版の財政の崖があっても、もしくは設定してもいいように思います。
    だけど、国債残高、本当にどこが目処なんだろう?
    また、支出を大幅に削減して、結局、その不利益を被るのは年をとった今の若い人なのだと思うとなんか虚しさも感じます。

  2. 千林豆ゴハン。 より
    Re; だけど、国債残高、本当にどこが目処なんだろう?

    その疑問につきましては、日本が直近の過去に起こし続けてきた信用収縮
    いわゆる「失われた20年」の規模が、ごく大雑把に言ってざっと
    1000兆円超、であることを念頭に置いて判断しておけばよいとおもい
    ます。

    ですので国債の発行そして買いオペ(でも引受でもいいと思うんですが)
    の話が出る度に批判をされます、いわゆるハイパーインフレーション懸念
    につきましては、債権発行規模がたかだか数十兆円規模に止まっている話
    である限り、起こり得ません。
    日本の企業はいまどこでも資金鄙鄙ですので、その程度でしたらゴックン
    ゴックン呑んで干していきます。

    ところがもしもこれが数千兆円とかいう桁に上るような話であった場合に
    は、バケツで汲んだ水を注ぐどころかナイアガラ瀑布の如く叩き流し浴び
    せ落とすという話になります由、批判を受けて然るべきなのですがまぁそ
    んなの誰にももはや起こしうることは出来ませんよね。

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