2012/12/24 00:00 | by Konan | コメント(1)
Vol.172: 人口動態と経済
今回は、場つなぎとして、少し古くなりましたが、8月末に日銀から公表された、少子高齢化の急激な進展とこれが中長期的にみた日本経済の成長力に及ぼす影響について、事実整理と分析を行った論文を紹介します。URLも下記に掲げましたので、興味のある方は本文にアクセスしてみて下さい。なお、日銀は最近このテーマでもうひとつ論文を出していて、最近話題の渦中にある日銀が、本件に深い関心を持っていることを窺い知ることができます。
この論文では、基本的な事実認識として「少子高齢化が、予測を上回り続けるかたちで急激に進展した」と指摘します。そして、「バブル崩壊や不良債権問題に直面する中で、少子高齢化の進展に対する社会的な関心が十分に高まるまでには、長い時間を要した」とも指摘しています。要は、危機の最中に静かに進行していた構造問題への気付きが遅れたという訳です。そして、当然のこととして、「このような人口動態は、労働供給の減少と産業構造の変化に伴う生産性への下押し圧力の両面から、わが国の中長期的な成長力に対して重石となってきている」との指摘が続きます。先行きも、労働力率の変化やイノベーションの進展がなければ、同様の傾向が続くとします。
次に、物価面に関し「人口成長率の低下とともに物価上昇率も低下してきた」との事実を指摘します。所謂デフレ問題では、新政権を始め世間では日銀の金融政策の失敗が主因との見方が主流ですが、この論文では「少子高齢化が予測を上回り続けるかたちで急激に進展する下で、中長期的な成長期待が次第に下振れるに連れて、将来起こる供給力の弱まりを先取りする形で需要が伸び悩んだ」ことや、「少子高齢化の進展に伴って消費者の嗜好が変化していく中で、供給側がこうした変化に十分対応できず、需要の創出が停滞すると同時に、既存の財やサービスにおいて供給超過の状態が生じやすくなったこと」が、物価下落の少なくとも一因ではないかとの指摘がなされています。
その後、(1)都道府県別にみると、他地域との経済取引の度合いが低い地域ほど、人口動態の影響を大きく受け、厳しい経済情勢に直面する傾向がうかがわれる、(2)高齢者は危険資産より安全資産を選好し、人口動態は預金取扱金融機関に対する緩やかな資産集中を促す要因となる可能性がある、との分析が続きます。
そのうえで、日銀として考える「今後の成長力強化のために重要と思われる論点」をいくつか指摘します。
第1に、労働供給に関し「近年、女性や高齢者の労働力率が着実に高まってきており、この動きを促進していく必要がある」とします。「日本においても、子育て支援の強化などによって、出生率と育児期の女性の労働力率の双方をさらに高めることは可能と考えられる」「少なくとも健康な高齢者は増えてきている」との力強いメッセージが続きます。
第2に、日銀、そして白川総裁の持論でもありますが、「少子高齢化のもとで、生産性を高めていくことは可能であり、その実現に向けた方向性としては、主に次の3点が重要である」とします。
(1)少子高齢化に伴って生じる、医療・介護の需要増加を含めた消費構造全体の変化について、企業の取り組み強化や制度改革などにより、高付加価値化を進めつつ需要を掘り起こしていくこと。
(2)中小を含め企業が国内の他地域や海外との「つながり」を持つこと。
(3)生産要素を効率的に活用すること。
「このところの日本企業による高齢者ビジネスへの積極的な取り組みやグローバル展開の強化は、生産性向上に向けた兆しと捉えることが可能であり、今後そうした動きが広がっていくことが重要である」と締めくくられます。
そして、最後に金融仲介機能に関しては「高齢者による金融資産選択の特徴に変化がない場合に、人口動態要因が生命保険のウエイトを低下させ、預金取扱金融機関のウエイトを高める可能性があることが、金融資本市場や貸出市場に及ぼす影響について注意してみていく必要がある」といった指摘や、「企業の対外投資資金を含め、成長力強化に必要なリスクマネーといった観点からは、金融構造に大きな変化が生じない限り、その供給主体としての預金取扱金融機関に求められる役割がさらに重要になり得る点に注意が必要である」といった指摘がなされています。
先日、日銀では、来年1月の金融政策決定会合で物価に関する再検討を行う旨公表しました。今回取り上げた論文の分析が正しいとすれは、デフレ脱却は金融政策のみで実現出来ないとの含意を持ちます。その意味で、今回やや古くなった論文を紹介した次第です。如何でしょうか?
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One comment on “Vol.172: 人口動態と経済”
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立場上、様々な制約もあるのではと察せられる中、多岐に渡る事象についての多角的かつ論理的考察は、それそのものは言うに及ばず、このように思考は整理できるのだいう点においても、非常に参考になりました。ありがとうございました。
良いお年を!