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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2012/04/16 00:00  | by Konan |  コメント(1)

Vol.136: 中央銀行は打ち出の小づちか(その3)


前回までは中央銀行に関するいわば基礎編でした。今回と次回で、中央銀行は金融政策面でどこまで踏み込めるか、私なりの考え方を記そうと思います。今回は実務編、次回は哲学編の位置付けです。

実務編の出発点は、前々回説明した「中央銀行は銀行である」ことです。中央銀行が市場に資金を供給する際、民間銀行から国債等の資産を購入し、その代金を預け金に振り込むという話しです。このことから2つの「限界」を指摘することが出来ます。

ひとつ目は、資産の裏付けが無いお金は供給できないということです。時々、「デフレを克服するには、日銀がヘリコプターでお金をばら撒けば良い」との意見を耳にすることがあります。仮に日銀がこれを行うとどうなるか?日銀のバランスシート上、お金(お札)が世の中にばら撒かれた瞬間、負債勘定に「銀行券」が計上されます。ところがその見合いとして何ら資産を購入しないため、見合いの資産が計上されません。そうなると日銀は一気に債務超過に陥ります。

債務超過の中央銀行が発行する銀行券ですから、その信用が低下する可能性があります。信用の低下は、1万円札で購入できるものの減少(これまで1万円札で購入出来たものを10万円払わないと購入できない)ことを意味します。要はインフレであり、デフレの克服です(無論、こうしたお金の信用低下効果に加え、ばら撒いたお金を受け取った人からみると、あぶく銭が手に入る訳で、それを消費に回せば景気が回復し物価が上昇するルートもあります)。

実際にヘリコプターでお札をばら撒いた瞬間お札の信用が低下するかどうか、確かではありません。前々回も説明したように、お札の信用の維持はいくつかの要素の組み合わせで実現されているからです。しかし、仮に信用低下に結び付くとすれば、それはデフレ克服を意味します。しかし、中央銀行が銀行である以上、こうした自らを債務超過に陥らせるような政策をとることは許されません。

ふたつ目の限界は、結局のところ、中央銀行に資産を売って代わり金を受け取った民間銀行が本当にリスクテイクを行い、企業や家計への貸出を増やすか、中央銀行にはコントロールできないという点です。この点はよく日銀と何人かのエコノミスト・評論家等との間で戦わされる論点で、基本的に日銀は「民間銀行が行動様式を変えてくれないと、政策効果は上がらない」と主張し、エコノミスト等は「それは日銀の政策が不徹底だからであり、例えば量的緩和の規模を2倍、3倍にすれば、民間銀行の行動は変わるはず」と主張します。やや水掛け論的な構図です。

因みに量的緩和をどの程度進めているか、日米欧の比較がよくなされます。日銀を批判する人は「この3年間でどの程度供給量を増やしたかという変化率でみると、日銀は劣る」と主張します。これは事実です。しかし、例えばGDP対比でみてどの程度中央銀行のバランスシートが膨らんでいるかとの比較でみると、3年前は勿論、今でも日銀が一番です。

なお、この「民間銀行の行動が変わるか」という点は水掛け論に終わるとしても、中央銀行による資産購入行動が購入対象資産の市場に直接プラスの効果をもたらすことは確かであり、この点では「多々益々弁ず」との議論に理があるのかもしれません。

次回は哲学編です。

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One comment on “Vol.136: 中央銀行は打ち出の小づちか(その3)
  1. ペルドン より
    多々益々弁ず

    韓信・・
    日銀か・・?
    粛清・・の定めか・・?

    韓信・・
    政府か・・?
    粛清・・されるか・・・??

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