2010/08/09 00:00 | by Konan | コメント(2)
Vol.48: 米国金融規制改革
暑い夏が続きます。つかの間の夏休みという方も少なくないと思います。今回から3回連続で、金融ネタを取り上げます。私も夏バテ気味なので、短い文章になるかもしれません。ご容赦下さい。3回の内容は、米国の金融規制改革、欧州のストレステスト、バーゼル規制です。
米国の金融規制改革は、大恐慌後のグラス・スティーガル法や預金保険法の成立以降、最大の法改正と言われています。大恐慌後、銀証を分離する規制が導入され、銀行のリスクテイクを抑制するとともに、万一の際、預金保険の発動により、銀行預金者の取付けを防ぐ枠組みが定着しました。しかし、この10年の間に、銀証分離に関する規制が緩和されたことや、金融技術の発達を背景に、金融機関のビジネスは大きく変貌しました。こうした動きが今回の金融危機につながり、財政資金投入による大規模金融機関救済を余儀なくされたことへの反省を踏まえ、「大きな金融機関を二度と救わない」「危機を再発させない」「消費者をしっかり守る」ことを目的に、金融規制改革法案が、民主、共和両党の妥協を受け、成立した訳です。
この法案は2000頁を越え、私にはとても読みこなすことができません。内容も多岐にわたり、全てを紹介することも不可能です。さらに言えば、今後行政当局による肉付けを待たないと、具体的内容がみえてこない部分も多くあります。「何が決まったか、分からない」と米国内でも批判されているほどです。そうした限界をご理解頂いたうえで、重要と思う点を列挙します。
1.金融安定監視評議会の設置とFRBによるシステミックに重要な金融機関の監督の強化:財務長官をヘッドに、FRB議長、SEC委員長、FDIC議長などのメンバーにより、評議会が設置されます。この評議会が、金融システムの安定に対する潜在的な脅威を特定します。具体的には、銀行でなくとも、「金融システムの安定を図る上で注意した方がよい」ノンバンクがあれば、そこを「システミックに重要な金融機関」と指定します。指定されたノンバンクを含む金融機関に対し、FRBが一元的に厳しい規制、監督を実施します。この関連で、所謂ボルカー・ルールと呼ばれる規制も導入され、銀行や銀行持ち株会社による自己勘定取引やヘッジファンド投資が規制されます。また、デリバティブ取引への制限も行われます。
2.システミックに重要な金融機関の破綻処理:このように認定された金融機関が万一破綻した場合、FDIC(米国預金保険公社)が一元的に破綻処理を行います。現在FDICは銀行の破綻処理権能しか持たないので、大きな進歩です。その際、費用を一時的に財務省から借り入れることはありますが、最終的には財政による負担は行わないとされています。
3.消費者保護:現在分散している消費者保護機能を、FRB内に創設する消費者金融保護局に集約します。そこが消費者保護に関する新たな規制作り等を行います。
以上は、オバマ大統領も国民向けに強調している点です。要するに、「今回の危機は、銀行に限らず、証券会社や保険会社などシステミックに重要な金融機関の経営がおかしくなったため発生した。これまで銀行以外の業態の監督は十分ではなかったが、今後は、銀行でなくとも、システミックリスクを生じさせる恐れがある先であれば、評議会で認定のうえ、最も能力が高いFRBに一元的に監視させよう」「また、万一FRBが監督に失敗し、経営が悪化した場合でも、税金を用いた救済は行わないことにしよう。そうすれば、救済されるかもしれないという甘えに基づくリスクテイク行動が抑制され、破綻の可能性を減じることもできるだろう」「消費者保護も合わせて充実することにより、納税者を守ろう」という発想です。
私も、この考え方を支持します。ただ、いくらこのように枠組みを変えたとしても、危機は形を変えて訪れるかもしれません。規制の網を潜り抜けるバイタリティこそが、金融ビジネスの源泉と考えれば、そのこと自体やむを得ないことかもしれません。大恐慌後の規制は、途中で何度か危機を経験しつつも(累積債務問題、S&L危機、LTCM危機など)、何とか70年間持ち堪えました。今回の規制が何年持つか、謙虚に構え、油断しないことが重要と思います。
議論の過程では、ボルカー・ルールやデリバティブ規制が当初案より甘めになり、「ウォール街のロビイングが奏功した」などと言われました。実際、その後の米国金融株価の動き等をみても、規制が金融機関収益に与える影響はさほど心配されていないようです。逆から言えば、危機の再発を防ぐ観点からみると、規制がこれでも弱過ぎるのかもしれません。
そのうえで。このような妥協を重ねつつも、health careに続き、何十年に一度の重要な法案を通したオバマ大統領の手腕は凄いと思います。しかし、それでも大統領の人気は落ち、中間選挙でも民主敗北と言われる訳ですから、日本人に米国政治は理解し難い、ぐっちーにこの辺の解説をお願いするしかない、とも思うところです。
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2 comments on “Vol.48: 米国金融規制改革”
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オバマ王は・・
現代のダイダロスに命じ・・ワシントンの地下に・・巨大なラビリンスを造り・・雄牛の怪獣を閉じ込めた・・
まだ・・この迷路に入り・・出た者はいない・・
出口が・・あるかも判らない・・・
神話に従えば・・
現代のテセウス・・アリアドネが・・舞台で要るが・・
ガイドナーとバーナンキが・・演じているのだろうか・??・・赤い糸に結ばれて・・・
うーむ
いつも スパイスの効いたコメントに脱帽です。