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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2012/04/02 00:00  | by Konan |  コメント(4)

Vol.134: 中央銀行は打ち出の小づちか(その1)


3、4回にわたると思いますが、中央銀行について書いてみたいと思います。

世界的に今ほど中央銀行が注目されている時期は無いかもしれません。日本では根強い日銀批判がありますが、米国、そして中でも欧州でその政策に大きな注目が集まり、世界を救えるのは中央銀行だけといった期待も高まっています。他方、そうした期待と現実の政策の乖離が大きいことも事実です。中央銀行にできることは何か、なぜ期待と現実は乖離するのか、私見を書いてみたいと思います。

今回はその出発点として、日銀を例にとり、中央銀行の資産・負債構造や、中央銀行はなぜ収益を生むのか、お札の信用はどう維持されるのかといった点を解説したいと思います。

中央銀行について語る際忘れられ勝ちなのは、「中央銀行は銀行である」という点です。下に掲げたURL(2月末時点の日銀の資産・負債を表したもの)をご覧になると分かるように、日銀(中央銀行)にはバランスシートが存在します。現在、資産の多くは国債、そして負債を見ると、預金(民間銀行から預かった準備預金)に加え「銀行券」が最大の負債項目になっています。銀行券が負債というのは恐らく皆さんの直感に反すると思います。誰にとっても銀行券、すなわち「お札」は最大の資産ですから。

歴史を振り返るとお札には「兌換」の時代がありました。例えば中央銀行にお札を持っていくと金(きん)に替えてもらえるといった例です。こうした例を思い起こすと、中央銀行にとって銀行券が負債(返済の責任を負った債務)であることが想像しやすくなると思います。現在の実務では、中央銀行が市場にお金を供給する際、民間銀行から国債を購入します。その時、購入した国債が中央銀行の資産に計上され、支払われた代金は民間銀行から日銀への預け金(日銀からみると負債勘定である預金)に一旦計上されます。そして、民間銀行が自らの窓口やATMでの支払いに備えるためお札を日銀から引き出す際、中央銀行の負債が預金から銀行券(お札)に振り替えられます(民間銀行からみると預け金を引き落としてお札をもらう訳です)。この結果、「資産:国債、負債:銀行券+預金」というバランスシートが誕生します。また、上記の点(「市場への資金供給は民間銀行からの国債買入れを通じて行われ、その代金が民間銀行から日銀への預け金に振り込まれる」)ということを、是非覚えておいて頂ければと思います。

さて、今回はお札にまつわる話しを2つ。1つは「中央銀行の収益はなぜ生まれるか」という点です。日銀の損益計算書をみると、1年間で約500億円の「銀行券製造費」が支払われています。お札は日銀が刷っていると誤解されている方も多いのですが、刷っているのは独立行政法人国立印刷局(のみ)です。そこで印刷されたお札(新札)を日銀が仕入れ、本支店にある金庫に貯蔵します。仕入れに際し国立印刷局に支払う金額が年間500億円と言う訳です。毎年30数億枚程度のお札を仕入れることを考えると、お札の原価は1枚10数円と計算できます。

多くの方は「1万円札の製造原価が10数円なので、1万円札1枚で日銀は9980円儲けている」と思われていますが、これは間違いです。日銀は銀行券という負債に関し年間500億円の費用を支払っています。銀行券残高は70〜80兆円なので、利率に換算すると0.1%未満の利率で負債を調達できていることになります。他方、購入した国債から利息収入が生じます。仮に長期国債なら1%近い利息収入が生じる訳で、これと負債に対する0.1%未満の利率との差が、日銀の(そして世界の中央銀行の)収益の源泉です。仮に資産の利回り1%、銀行券の利回り0.1%とざっくり仮定すると、その差0.9%。1兆円の国債購入(=銀行券発行)で年間90億円の収益が生じます。こうした収益の95%は国に国庫納付金の形で納めることが義務付けられており、その意味で、日銀は(そして世界の中央銀行は)国家財政の有力な収入源となっています。

もうひとつ。考えてみると1枚精々20円の製造原価であるお札が「1万円」として流通することは、とても神秘的なことです。これこそぐっちーが何度も強調する「信用」の問題です。もし皆が1万円札を「20円の紙切れ」と思い始めると、全ての経済の仕組みは瓦解します。こうしたお札の信用を守ることが、国や中央銀行の最大の仕事です。その方法は4つ。まずは国家体制が盤石であることがお札の信用の大前提です。それに加え、1つは偽造防止。偽札が横行した途端お札の信頼は失われます。2つ目は物価の安定。インフレは1万円札で買えるものの価値の目減りです。1万円札で買えたものが突然10万円や100万円でないと買えなくなるような事態がインフレです(1万円札が紙くずに近くなる訳です)。3つめは金融システムの安定。通常お札は沢山持ち歩かず銀行に預けておきます。従ってお札の信用と銀行預金の信用は裏腹の関係にありますが、銀行が簡単に破たんしてしまうような状況では、お金の信用も失われます。

次回は今回の話しを出発点として、金融政策について触れてみたいと思います。

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4 comments on “Vol.134: 中央銀行は打ち出の小づちか(その1)
  1. ペルドン より
    中央銀行

    神の代理人に次ぐ・・
    貨幣の代理人なのですね・・・

  2. 匿名希望 より
    新聞読まずに、本読んで自分で考えます

    紙幣発行は、国家政府のみに許される責任行為。紙幣の偽造≒国家転覆テロ行為。個々の営利追求をする民間企業に委ねて良い話ではありません。

    規定された制度の中でタスク論を議論するのではなく、国家運営の為にあるべき姿を議論した方が良いのでは?(必要なら、中央銀行を潰せばOK。窓口融資も効果無くしてきたし、良いのでは?)

  3. アシュラ王 より
    ありがとうございます

    いつもそうですが
    今回のは特に読みごたえがありました

  4. 西部 より
    有難うございます

    勉強させていただきます

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