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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2010/04/05 00:00  | by Konan |  コメント(1)

Vol.30: 日銀の金融システムレポート


今回は、半年前に続き日本銀行が最近(3月25日に)公表した金融システムレポートを紹介します。このレポートは、金融政策運営に関する「展望レポート」に次ぐ、日銀の重要なレポートと思われるので、半年に一度の公表のつど取り上げることにした次第です(ブログのネタ探しをしないで済むメリットもあります、、、)。

さて、今回の金融システムレポートから、「要旨」と銘打った21頁の資料も合わせて公表されるようになりました(下記のURLを是非クリックしてみて下さい)。これをみて頂ければ、私による紹介は不要とも思いましたが、私なりに5つほど、レポートのポイントと思われる点をお伝えします。

第1に、日本の金融システムの状況について、「全体として安定性を維持してきている」と評価しています。また、国際金融システムについても、「2008年秋以来の危機的な様相から脱し、安定の方向に向かっている」としています。ただ、国際金融システムについて、「各種の政策措置によって支えられている面が小さくない」「家計部門等のバランスシート調整が継続している」「ソブリン・リスクに対する警戒感も台頭している」など、警戒的な見方も示されています。

第2に、金融仲介機能(日本において、企業や家計にどの程度円滑に資金が行き渡っているか)について、「全体として概ね円滑な機能を維持してきた」と評価しています。ただ、企業の資金繰り改善が売上持ち直しではなく、経費削減によってもたらされたこと、また、規模の小さい企業の資金繰りが依然厳しい状況にある点が、指摘されています。

第3に、信用コスト(貸し倒れにより金融機関の収益が圧迫される可能性)については、当面、大口倒産が相次いだ2008年度並みに発生する可能性が指摘されています。ただ、株価低迷シナリオを想定したとしても、「銀行の自己資本基盤が全体として著しく低下する事態は回避される」と一定の評価を示しています(ただし、相対的に収益力や自己資本基盤が弱い先の自己資本比率が、先行きも低水準に止まるおそれがあるなど、脆弱な面も残されているとされています)。

第4に、最近財政問題と絡み注目される金利リスク(金利上昇が金融機関の財務に悪影響を与える可能性)については、国債など債券投資の増加や貸出期間の長期化に伴い、とくに地域銀行において「蓄積される方向」とされています。ただ、恐らく市場で最も懸念される金利のスティープ化(短期金利は上昇しないが、長期金利は上がってしまう)ケースについて、金融機関の財務への影響はさほど大きくないと解釈できる分析も示されています(図表3−19、要旨17頁)。

最後に、わが国銀行の収益性の低さについて、「企業部門の収益性も主要国に比べて低く、銀行部門の収益性の低さは企業部門の収益性の低さと対応している」と、日本経済全般にわたる問題提起を行っています。そして、亀井大臣に抗議するかのように、「日本経済が新たな成長経路への移行を模索していくうえで、わが国の銀行には、企業の成長性を見極め、その特性に応じた金融サービスを提供することが望まれる」と主張しています。

今回は以上の紹介にとどめます。日銀の公表物は大変分かりづらい、難しい表現が多いですが、図表には結構面白いものもあります。要旨だけでも一読されることを(とくに学生読者の方には)お勧めします。

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One comment on “Vol.30: 日銀の金融システムレポート
  1. ぺルドン より
    銀と銀

    日本の銀行は・・餌付けされ、
    野生を失った・・という事でしよう・・
    野性に返すには・・リハビリの施設が必要なのですが・・・

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