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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2010/01/25 00:00  | by Konan |  コメント(1)

Vol.20: 新年特集(その4、財政)


小沢さんやJALなど問題山積ですが、淡々と新年特集を続けます。4回目のテーマは財政です。財政については、短期的な話し、中長期的な話し、あるいは事業仕分けのような手法の話しなど、いろいろな側面があります。最初に、短期、事業仕分けに簡単に触れたうえで、後半は中長期の話しをやや詳しく述べてみたいと思います。

ます、「21年度2次補正や22年度予算をどうするか」という点について言えば、かなり積極的な財政規模としても構わないと思います。厳しい景気局面の中で、経済の軟着陸させるためには、思い切った財政支出がひとつの有力な手段になり得ることは間違いありませんし、このことだけで、長期金利上昇のような弊害が生じるとも思いません。ぐっちーや前橋さんもご指摘のように、対外債権国である日本には、短期的にはまだ余裕があり、ある程度の財政赤字増加を飲み込むことは、十分可能です。その意味で、亀井大臣のご意見にも余り違和感はありません。

もうひとつ、事業仕分けについて一言。前回科学技術予算に関して苦言を呈しましたが、事業仕分け自体を否定するつもりは全くありません。予算に無駄があることは間違いなく、また、基金、特別会計のような部分に切り込む余地もあると思います。ただ、事業仕分けは、事の性格として、ワンショットの財源確保策でしかありません。現実には22年度はまだ生ぬるく余地が残り、23年度も事業仕分けで無駄が炙り出され、財源が捻出されることはあり得ますが、事の性格上、無駄を無くす、埋蔵金を活用するということは、一回限りのことであり、23年度以降の予算の新たな財源確保にはつながりません。その意味で、昨年の選挙の際の民主党に対する自民党の批判(財源の不明確さ)は、当たっていると思います。

さて、むしろ大事なのは、中長期の話しです。長い目で見て日本の財政が持つかという論点です。この点について、私は必ずしも楽観的ではありません。ところで、「財政が持たない」とはどのようなケースなのでしょうか?今の財政は、税収では歳出を賄い切れず、国債発行に依存した構造です。国債は、発行後一定期間(1年とか10年とか)後に償還を迎えます。その時にも税収がまだ不足していたとすれば、借換え国債の発行(国債保有者に、現金ではなく新たな国債を渡すことによって借り換えること)が必要となります。その際、「国債で返されるのは嫌。現金で返して欲しい」という人が増えれば増えるほど、国債が現金対比不人気となり、不人気を補うため、高い金利を付ける必要が生じます。そして、この金利上昇が経済に悪影響をもたらすという、とてもまずい循環に陥ってしまうことになります。そうなる恐れがどの程度あるのか?

さて、金利は「将来の実質金利の期待値+将来の期待物価上昇(下落)率+リスクプレミアム」によって決まります。実質金利は、その国の実質的な経済の実力に見合った金利と言う意味で、前回取り上げた潜在成長率にほぼ見合います。日本の場合、この点は大変悲観的なので、実質金利の期待値が上昇する可能性は無視し得ますし、経済の実力見合いの金利上昇は、そもそも余り問題ではありません。そうすると、金利が上がるのは、期待物価上昇率の上昇とリスクプレミアムの上昇が生じるとき、ということになります。よくよく考えると、現金も国債も国家の信用が裏付けという点で共通です。違いは、国債は先行きの価格変動リスクがある点にあり、そうした価格変動リスク(言い換えれば金利上昇リスク)は、将来の物価上昇やその他のリスクプレミアム(それこそ国が潰れてしまうのではないかといった恐れ)により構成される訳です。

日本が対外債権国ということは、実は期待物価上昇率もリスクプレミアムも上昇しづらいということを意味します。日本が対外債権国なのは、日本が製造業の強い力に支えられ輸出を増やしてこれたからです。そうした構図が続く限りは、円はどちらかと言えば強くなる(輸入物価が下がる)訳ですし、外国人投資家の影響も限られるので、変なリスクも余り無いことになるからです。

問題は、今後成長戦略無しに日本経済が時を経て行くと、必ず中期的には人口の高齢化と減少に伴い、マクロ的な国内の貯蓄が取り崩され、供給能力の低下と需要増が同時に生じる結果、日本は輸入国に転落し、対外債権の規模が減少し、最終的には債務国になるパスを辿ります。そうなると、円安になり輸入物価が上がり、また海外投資家に左右されやすいということも含め、リスクプレミアムも上昇していき、金利が上がります。

結局のところ、22年度予算はある種どうでも良い話である一方、長い目でみると、成長戦略が無ければ、あるいは折角作った成長戦略が実現していかなければ(あるいはまた、作った成長戦略が無意味であれば)、財政も同時に破綻する可能性が無視できないということになる訳です。民主党政権が、成長戦略を確立できず、財政規律も打ち出せず、事業仕分けの限界も認識されてきたときに、こうした長い目でみたリスクが徐々に市場で意識され始め、先取りする形で金利が上がってきます。そうならないことをとりあえず祈るところです。

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One comment on “Vol.20: 新年特集(その4、財政)
  1. トム男 より
    なんでコメントがないんでしょう?

    こんな良い内容の記事なのに、コメントが
    1つもないのが不思議です。

    名前だけがメジャーで、内容がマイナーな
    エコノミストが多い世の中だからでしょう
    か?

    過去の分も、丁寧に読ませて頂きます。

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